SS:星野梨奈

 定期テスト前の土曜日。


「ほんとごめん、二人の邪魔しちゃって」


 星野が言う。ここは千春の部屋。そこに俺と星野がお邪魔して、今日は勉強会をしていた。


「大丈夫だよ。それに梨奈が補習になっちゃったら私も困るし」


「ありがとう、千春! さっそくだけど、ここわかんなーい!」


「どれどれ……」


 どうやら、星野は成績があまり良くないらしく、いつもテスト前には千春にお世話になっていたらしい。だけど、今回は俺に遠慮して勉強会も今日までしていなかったのだ。


「はぁー、疲れた!」


「じゃあ、コーヒー入れるね」


 千春は部屋を出て行く。部屋には星野と俺が残された。


「……黒瀬さあ」


「なんだよ」


「千春とキスしたの?」


 星野は俺の方を見ずに聞いてきた。


「なんだよ、急に」


「だって、この間、澪音が二人がキスしたところ見てショック受けてたじゃん」


「そうだったな」


「そのときは私は何とも思わなかったんだけど……千春と黒瀬がキスしたんだって思ったら、だんだんそのことが頭から離れなくなってきて……」


「はあ? どういうことだよ」


「……千春とのキス、どうだったのかなあって」


「どういう意味だよ……」


「ねえ、黒瀬……」


 そう言って俺を見てくる星野。


「私とキスしてよ」


「はあ? お前、まさか……」


 こいつは前も千春が好きな人を好きになってマウントを取ろうとしてきた。また、それが再燃してきたのだろうか。


「だって、そうしたら千春と間接キスになるでしょ?」


「へ?」


 考えもしないことを言ってきた。


「お前、まさか千春とキスしたかったのか?」


「うん」


 あっさり、星野は答えた。


「でも、さすがに千春にキスしてとは言えないし。でもなあ、千春とキスしてみたい」


「お前、ほんとに千春好きだな」


「そうなんだよね。ちょっとやばいかも。黒瀬に嫉妬してるもん」


「お前なあ……」


 そこで千春が戻ってきた。


「おまたせ……あれ?」


 俺たちの雰囲気に何かを感じ取ったのだろう。


「何の話してたの?」


「な、なんでもないよ」


 星野のごまかし方が千春の不信感をさらにあおったようだ。


「むぅ……あやしい。晴真? まさか……」


 俺をにらんでくる。


「違うからな! 星野も意味深に言うな、まったく……」


「じゃあ、何の話してたのよ。正直に言って!」


 そう言われてもさすがに言いにくい。まあ、オブラートに包んで言うか。


「千春の話だよ」


「私の?」


「そうだ。星野が千春のことが大好きって話だ」


「それはそうだろうけど…・・あやしいなあ」


「ほんとだよ。なあ、星野?」


「う、うん……」


 そう言いながら星野は顔を赤らめている。それを見て千春が言う。


「いや、絶対違うでしょ!」


「そうなんだって!」


「むぅ……」


 千春が不機嫌になってきた。


「おい、星野。お前も誤解を解くよう言ってくれ」


「う、うん。黒瀬が言ってるのはほんとだよ」


「でも、それ以外にも何か話したんでしょ?」


「うん……千春とのキス、どうだったのかなあって」


「キ、キス!?」


「うん。だから、私もしてみたいなあって」


「は、はあっ!?」


 それを聞いて千春が驚愕の声を上げ、すぐに怒りの顔で俺をにらんできた。


「い、いや、誤解だって! 一般論だ! 俺とじゃない! いつか誰かとしてみたいなってことだよ! な、星野!」


「う、うん……」


 なんとか話を合わせてくれた。


「ほんとかなあ?」


「ほんとだって。星野が俺とキスしたいとか言うかよ」


 本当は言ったけど。


「ならいいけど……」


 千春は納得していないようだ。仕方ない。ぶっこんでみるか。


「なんなら千春とキスしてみたいとか言ってたぜ」


「へ?」


 千春があっけに取られた顔で星野を見た。


「私でも良かったの?」


「う、うん……私、女子ともないから」


「そうなんだ……じゃあ、してみる?」


「いいの?」


「いいよ、別に。女子同士なんだから」


「そ、そっか。じゃあ……千春!」


 突然、星野は千春のほほを両手で挟み、思いっきり口づけした。


「んんっ!」


 千春が驚いたように硬直する。しばらくして、星野は唇を離した。


「ぷはー……ごちそうさま、千春!」


「も、もう! 急にするからびっくりするじゃない!」


「アハハ、キスってこんな感じなんだ」


「……気持ちよかった?」


「うん、ときどきしていい?」


「まあ、ときどきなら」


「ありがと!」


 星野はすっかり機嫌が良くなっていた。が――


「あ!」


 俺を見て、みるみる顔が赤くなっている。どうやら俺の存在を忘れていたようだ。


「ふふ、晴真に見られちゃったね、梨奈」


「うぅ……なんか恥ずかしい」


 珍しく星野が恥じらっている姿を見て、千春はイタズラ心に火がついたようだ。


「私たちのイチャイチャ、晴真に見せつけようよ」


「ダメだよ、恥ずかしいし……」


「いいじゃん、女の子同士なんだから!」


「ち、千春……キャッ!」


「ふふ、梨奈は可愛いなあ」


「やん……」


 今度は千春が攻める番になった。抱きつかれ、押し倒され、頬にキスされまくられ、星野が赤面している。


 俺は千春が入れてくれたミルク入りコーヒーを飲みながら、その光景を堪能させてもらった。

 美少女同士のイチャイチャ、悪くない……


 ちなみに星野のテスト結果はさんざんだったようだ。


(SS:星野梨奈 完)

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