第37話 ハーレム?
数日後、一条が転校することが教師から告げられた。
その日の昼休み、写真部の部室には美空ちゃんも来ていた。
「美空ちゃん、寂しくなるね」
千春が言う。
「はい……でも、私は家で毎日兄には会えますし。それに、兄は少し変わりました」
「そうなの?」
「はい。ハーレムを作ったことを後悔しているみたいです。今は次の学校で"愛する一人"を探すと言っています」
「そうか……」
俺が言ったことが少しは一条に通じたのかも知れないな。
「それから、みなさんにお願いがあります。写真部に入ってくれませんか?」
美空ちゃんが言った。
「写真部か……」
確かにこの部室は借りっぱなしだし、美空ちゃんに悪いもんな。
「うん、入るよ」
俺は言った。写真部が何をするのかよく知らないが、ときどき写真を撮ればいいだろう。
「じゃあ、私も!」「私も入る!」「もちろん、私も」
結局全員が写真部に入ることになった。
「ありがとうございます。部活動に参加している、ということにしておかないと、私がハーレムに居ることが兄にバレたら困るので」
「ハーレム?」
おかしいな。どこにハーレムがあるんだ?
「はい、黒瀬先輩のハーレムです」
「はあ? これはハーレムじゃ無い!」
「そうですか? どう見てもハーレムに見えますが」
そう言って周りを見渡す。確かに、千春に星野、露崎、美空ちゃん――美女たちが集まっていて、男子は俺一人だけど。
「でもなあ、ハーレムってのは女子がみんなその男子が好きじゃないと成り立たないだろ」
「はい、千春さんは黒瀬先輩が好きですよね?」
「もちろん! 彼女だし」
「そして、澪音さんも?」
「まあ、片思いだけどね。千春には悪いけど諦めてないし」
「梨奈さんはどうです?」
「私は黒瀬が好きな千春が好きだから」
「じゃあ、間接的に好きってことですね」
「なんでだよ!」
思わず、つっこんでしまった。
「でも、美空ちゃんは違うでしょ?」
露崎が聞いた。
「それはそうだよ。美空ちゃんは兄さん一筋だし」
千春が言う。
「はい、兄は家族として大事です。ですが、それはあくまで家族ですから。でも、異性として気になる人もちゃんと居ますので」
「え、誰なの?」
「それは言えませんが……最近、その人に彼女が出来て少しショックを受けているところです」
「は?」
まさか、俺じゃないよな……
「ちょ、ちょっと! 晴真は私の彼氏だからね!」
千春が言った。
「別に黒瀬先輩とは言ってませんので」
美空ちゃんはそう言ったが、千春はため息混じりに言った。
「もう……なんでこうなっちゃうんだろ」
「なにがだよ」
「だって、私が好きな人、すぐハーレム作っちゃうんだから……」
「だから、これはハーレムじゃない! 俺は千春一筋だからな!」
「うん……ありがとう、晴真」
当たり前だ。まったく……ようやく、千春が優しい顔に戻った。
そのとき、扉がノックされた。
「はい?」
「西原柚希です」
「柚希ちゃん? どうしたの?」
千春があわてて扉を開ける。
「ウチ……やっぱり、みんなと一緒に居たくて」
「そうなんだ。うん、いいよ! 入って!」
「ありがとう」
西原までここに来たのかよ……
「えっと……一応聞くけど、柚希は黒瀬君のこと、気になってないのよね?」
露崎が以前と同じ質問を西原にした。
「……」
「柚希?」
何も言わない西原の顔がみるみる赤くなっていく。
「ちょ、ちょっと! 晴真は私の彼氏だよ!」
「ごめん、千春……」
「ごめんって何よ! もう……晴真、これでもハーレムじゃないわけ!?」
千春が怒り出した。
「違う! これは絶対ハーレムじゃない! 俺はハーレム女子なんて嫌いなんだからな!」
俺の叫びに女子たちが笑い出した。その瞬間、シャッター音が響く。
「いい写真が撮れました」
美空ちゃんが満足そうにカメラを構えていた。
「な、なに撮ってんだよ!」
「せっかくなので、ここがハーレムじゃないという証拠写真を兄に見せようかと」
「はあ!?」
でも、その写真の中で必死に叫んでいる俺は――
笑顔の女子に囲まれて、どう見てもハーレムに居るみたいだった。
……ただし、千春だけはふてくされていたけど。
※本編END
このあと、後日談的な各ヒロインのSSを1話ずつ投稿します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます