第33話 捜索

 昼休み。俺たちは写真部部室に集まっていた。

 そこに美空ちゃんも来た。


「柚希さん、まだ見つからないんですか?」


「うん、そうみたい」


「心配ですね」


「どこ行っちゃったんだろう……」


「ここまで見つからないと言うことは外かも知れません」


「校外ってことか?」


「はい」


「でも、靴は残ってたぞ」


「そう言えば、前に部室に予備の靴を置いてるって言ってたかも」


 星野が言う。

 マジかよ。だったら可能性は否定できないな。


「……今日の午後は体育と選択科目だったよな」


「うん」


「サボるか」


「じゃあ、私も!」


 千春が言った。


「しょうがないわねえ」


 星野も言う。


「じゃあ、私も行こうかな」


 露崎も言った。


「私は……」


 美空ちゃんが何か言おうとしたところを千春が止めた。


「美空ちゃんは学校に残って、何かあったら知らせて。蓮司も心配だし」


「分かりました。みなさん、気を付けてください」


「ありがとう」


 俺たちは教室に戻り、カバンを取って学校を出た。


◇◇◇


「四人ばらばらだと何かあったときに困るよね。二手に分かれようか」


 千春が言った。


「じゃあ、必然的に千春と黒瀬、私と澪音ね」


 星野が言う。それはそうか。澪音は少し不満そうだが、今はそんなことで争う時間は無い。


「でも、どこを探すの?」


「私は柚希の家を知ってるし、その通学路を探してみようか」


 露崎が言った。


「わかった。じゃあ、私たちはそっちで」


 そう言って星野と露崎はすぐに離れていった。


 残された俺と千春は顔を見合わせる。


「どこか、心当たりは無いのか?」


 まったく手がかりが無い俺は千春に聞いた。


「うーん……手始めはバスセンターかな。あそこはみんなでよく行ってたから」


「よし、行こう」


 俺たちはバスセンターに向かった。




 だが、バスセンターは広い。屋上のガーデンカフェから地下のフードコートまで7フロアある。


「さすがに手分けしようか。私は地下から探すね。晴真は屋上からお願い」


「了解」


 俺はエレベータに向かう。なかなか一階に下りてこないエレベータを待っている間、西原が行きそうな場所を考えてみた。


 が、俺に分かるわけが無い。俺と西原はほとんど接点が無いのだ。せいぜい、西原が相談を持ちかけたときと、部室に来たときぐらいだ。


 でも、部室で何を話してたっけ……確か星野が百均のコスメの話をしていたか。あれには興味持ってたな。ん? 百均? 


 そうだ、バスセンターの三階に百均があった。屋上に行く前に念のため確認しておくか。


 エレベータに乗り込み3階を押す。そして、百均に向かった。


 百均は棚が多く、人の姿も多い。中を一つひとつ確認するしかない。そう思っていたそのとき、ショートカットの女子を見つけた。


「西原!」


「……黒瀬?」


 西原が振り向いた。


「なんで黒瀬が……授業中じゃないの?」


「お前と同じだ。サボったに決まってるだろ」


「サボって何してるの?」


「お前を探しに来たんだよ。千春と星野、露崎も探してるぞ」


「そ、そうなんだ……」


 俺は千春に連絡しようとスマホを取り出した。だが、西原が俺の手を押さえる。


「なんだよ」


「今は誰にも連絡しないで」


「はあ? みんな心配してるぞ」


「わかってる。でも……今はみんなに会いたくない」


「あいつら、お前を探してるんだぞ!」


「わかってる。でも……今は会うと自分がみじめな気分になるから」


「そうか……」


 一条は西原に『お前だけ居ても仕方ない』と言ったらしい。

 それもあって、千春たちと顔を合わせたくないのだろう。


「でも、千春はここに来てるぞ」


 地下から探している千春だが、ここに居ればいずれ見つかってしまうだろう。


「……もうちょっとでいいから、時間、稼げないかな?」


「仕方ない。ついて来い」


 俺は屋上に向かった。



◇◇◇



 屋上のガーデンカフェで、俺たちはそれぞれ飲み物を頼んだ。


「レモンティーで」


「俺はカフェオレで」


「かしこまりました」


 まずい、前に千春と一緒に来たときと同じ女性店員じゃないか。

 「この男、違う女子と来てる」って感じの顔だったぞ。

 女をとっかえひっかえする高校生だと思われてるかも。でも、違うからな! と、店員を思わずにらみつける。


「どうしたの?」


 様子がおかしい俺を見て、西原が首をかしげた。


「いや、なんでもない」


 ドリンクを受け取ると、店員が妙にニヤニヤしていた。……やめてくれ。


「よく、ウチがここに居るって分かったね」


 テーブルに着くと西原が言った。


「この間、星野と百均の話してたろ」


「よく覚えてるね。黒瀬、さすがだなあ」


「違うよ。俺には西原の情報が少ないからな。それぐらいしか思いつかなかっただけだ」


「そういうこと、言っちゃうんだ」


 いや、言っちゃうも何も事実なんだけど。


「ほとんど接点のないウチのことまでちゃんと覚えてくれて……みんなが黒瀬を好きになる理由、わかってきたな」


「違うから。俺を好きなやつなんてほとんど居ないぞ」


「うわあ、モテ男がそういうこと言うと女子は勘違いしちゃうよ?」


 誰がモテ男だ! こいつ、思い込みが激しいタイプか。


「お前、勘違いしてるぞ」


「え!? ウ、ウチが勘違い!? してないから! してないからね!」


 いや、そういう勘違いを言ったんじゃないんだけどな……


「それにしても、学校飛び出して今までどこ行ってたんだ?」


「別に……おいしいモノ食べて、自分の好きなモノ見てただけ」


「大丈夫なのか?」


「もう大丈夫! 全部忘れて好きなことしてたら、なんか冷静になってきた」


「ならいいが……」


「安心して、黒瀬。ウチもう、蓮司のことはあきらめるから」


「そうか……」


「うん! でも……そうしたらウチの居場所、なくなっちゃうな」


「そんなことないだろ。お前にはバスケ部もあるし」


「……蓮司と気まずいから、もうバスケ部も辞めるつもりだし」


「そうなのか?」


「うん。そうなると、ウチ、ほんとに友達居ないんだよねえ。居場所なくなっちゃった」


 なぜか笑っている西原。


「居場所か。この間は、写真部の部室、楽しかったんだろ。だったら、みんなのところに来たらどうだ?」


「ありがとう。でも、それはやめておくよ」


「なんでだよ」


「ウチ、蓮司のハーレムに居たこと、後悔してるから。だから……同じ間違いはしたくない」


「そうか……って、俺のはハーレムじゃ無いぞ!」


「いや、どうみてもハーレムでしょ!」


「違うからな! 勝手にあいつらが集まってきたんだし」


「蓮司もそう言ってたからね!」


「あいつと一緒にするな!」


「同じだよ!」


「はあ?」


「同じだよ……同じぐらい、今の黒瀬君にウチは……」


「お前……」


 そのときだった。


「はーるーまー!」


「うわ!」


 突然、背後から千春の声がした。

 振り向くとそこに千春が立って俺をにらんでいた。


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