第28話 作戦

「美空ちゃんかよ。おどかさないでくれ」


「すみません、ノックもしませんで」


「いや、それはいいんけど……どうしてここに?」


「黒瀬先輩がいるかなと思って。行くところが無い先輩は部室に来るだろうと、あらかじめ鍵を開けておきました」


「それにまんまと乗ってしまったわけか」


 なんかゴキブリホイホイに吸い寄せられたゴキブリになった気分だ。


「……みんなはどうしてる?」


「千春さんは心配してました。私から伝えておきましょうか?」


「頼む。でも、心配するなって言っておいてくれ」


「わかりました。露崎先輩は余裕たっぷりという感じでした。千春さんが黒瀬先輩は付き合わないって言っても『絶対に付き合う』って言い張ってましたよ」


「そうか……」


「黒瀬先輩はどうしたいんですか?」


「もちろん、付き合う気なんて無い」


「そうですか。やっぱり、千春さんの方がいいですもんね」


「そういうことじゃないからな。俺は……」


 ……あれ?

 今までは「ハーレム女子だから」という理由で断ってたけど、露崎はもう自分から抜けた。じゃあ、俺が断る理由って……なんだ?


「でも、だとしたら断るってことですよね」


 美空ちゃんが俺を現実に引き戻す。


「ああ。でもそうしたら、俺はともかく露崎の立場がまずいことになる」


「どうしてですか?」


「まず俺なんかに振られたってこと。そして完全フリーになった露崎を狙うやつが殺到して、またストーカーかなんかの被害に遭うだろうってことだ」


「どちらも露崎先輩の自業自得という気がしますが」


「それでも、俺は露崎を救ってやりたい」


「……お人好しですね、黒崎先輩は。露崎先輩に何か借りでもあるんですか?」


「いや、無いよ」


「それなのに救ってやりたいんですか?」


「露崎だって悩んだり苦労したりしてるんだ。その原因は露崎が美少女だからだけど、でもそれって素晴らしいことだろ? せっかく美少女なのに、それが原因で悩むなんて理不尽だ」


「なるほど、美少女無罪ってことですか」


「よく分からないけど、それでいいや」


「……こっちのネタは通じないみたいですね。まあ、いいです。それで何か作戦はあるんですか?」


「ない」


「でしょうね。そう思って考えてきました」


 美空ちゃんはノートを取り出した。


「えーっと……『断る』で『救う』パターンですね」


 どうやらいろんなパターンを考えてきたらしい。もし「救わない」を選んだら……考えるだけで恐いな。


「では、作戦を発表します」


「お願いします」


 俺は美空ちゃんの作戦を聞く。確かにそれでなんとかなりそうだけど……


「俺、失うもの多くないか?」


「何言ってるんですか。得るものしかないですよ」


「そうかなあ」


「じゃあ、他に作戦あります?」


「ない」


「じゃあ、決まりで。お昼休みに教室で決行しましょう」


 そう言って、美空ちゃんはノートを閉じ、部室を出て行った。


◇◇◇


 昼休み。

 美空ちゃんの作戦に従い、俺はおそるおそる教室に戻った。


 教室に入ると、全員の視線が一斉に突き刺さる。

 その中で、露崎澪音が真っ先に立ち上がった。


「黒瀬君! 告白の返事は?」


「露崎……俺には好きな人が居るんだ。だから……ごめん」


 教室がざわめく。だが、それほど否定的な反応ではないようだ。確かに俺は断ったが、既に好きな人が居るんだから仕方ない。そういう雰囲気だ。


「その好きな人ってのは誰なのかな?」


「それは言えない。迷惑がかかるし」


「そう……わかった。でも私は諦めないから! 黒瀬君のこと、ずっと好きでいていいかな?」


「それは自由だ。止めはしない」


「ありがとう、黒瀬君!」


 はっきり言ってこれは茶番だ。台詞も全て美空ちゃんが考えたもの。露崎の台詞も全てだ。


 だけど、クラスメイトたちには確かに効果があったようだ。


「露崎さん、振られちゃったけど仕方ないね」

「黒瀬君も好きな人居るんだし。きっと緒方さんだよねえ」

「でも、露崎さんも一途だなあ」


 露崎はフリー。だが、「黒瀬君が好き」と宣言した以上、他の男は手を出しづらい。

 作戦、成功だ。


 露崎は女子たちに囲まれて、教室の隅へ連れて行かれる。


「露崎さん、残念だったね。でもなんで黒瀬君、好きになったの?」

「……街でナンパされた時、助けてもらって」

「え、それ本当!? 詳しく聞かせて!」


 あと問題は……一条だ。案の定、俺を鬼のような形相でにらみつけて居る。まあ当然だな。今回ばかりは俺が一条のハーレムから露崎を奪ったのだから。だが、その一条のそばには美空ちゃんが居て、何か言って落ち着かせているようだ。なんとかなるだろう。


「は、晴真……」


 千春が小さく声を掛けてきた。


「千春、心配掛けたな。ごめん」


「ううん……でも、好きな人って……もしかして、私?」


「いや、あれは台詞だからな」


「でも、ほんとは? 私……気になって気になって」


「だから、シナリオだって」


「ほんとは居ないの?」


「……内緒」


「えー!!」


 千春がふくれっ面で頬をふくらませる。

 ――俺も、もう自分の気持ちがよく分からなくなってきた。

 だから、今はほんとに何も言えないな。


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