第23話

エレベーターホールを出ると、左側には購買部、そのすぐ隣には物流部がある。

購買部は生産に必要な原材料を購入する部署で、物流部は顧客への搬送を行なっている部署だ。


改装中なのは物流部のようで、中にあるのはシートをかけられた資材らしきものと、横向きに置かれた長い脚立だけだった。


前は壁で室内が見えないようになっていたが、今は全面ガラス張りになっている。

こういうのを見ると、人がぶつかった時の衝撃とか、耐震性は大丈夫なんだろうか、と思ってしまう。


「防犯防災に優れた複層ガラスを使っているらしい。破壊されにくく、飛散もしにくい」


僕はまだ何も言ってないのに、彼がサラッと説明してくれた。


「よく知ってるな」

「関係者に聞いたからな」

「工事のか?」

「まあ、そんなところだ」


仮につけられているドアは施錠され、改装期間の知らせと、問い合わせ先を表記したA4サイズの紙が、緑色の養生テープで貼り付けられていた。


通路を挟んだ向かい側に休憩室、その奥に給湯室と喫煙所がある。


「休憩室の方はもう改装が終わっているらしい」


休憩室の入り口近くには自販機が数台置かれていて、手前側にワークスペースがあるのは見えるけど、奥の方は廊下からは見えないようになっていた。


「静かだな。購買部もリモートか」

「最近はスマホとタブレットさえあれば、どこでも仕事ができるからな」


「うちの部署もそうなるのかな」


僕がやっている仕事内容なら、在宅でもできるだろう。ただ、そうなると彼と会う機会がなくなるから、できれば今の状態のままでいたい。


「部分的にはそのうちなるだろうけど、直接会ったほうが進めやすい案件もあるから、完全にはならないだろうな」


彼はそう話しながら、休憩室のドアを開いた。


「まあ、当分は今のままだろうな」


腰に彼の手が触れて、するりと滑るように僕の尻を撫でた。


「っ、お前っ」


少し高い位置にある彼の顔を睨むと、軽い音を立てながら唇に柔らかいものが触れ、そしてすぐに離れた。


彼の手はまだ僕の尻の上にある。


「やべえ、勃ちそう」

「会社で何を言ってるんだお前は」

「よし、さっさと済ますぞ」

「は?」

「ほら、入んな」


済ます?


何を?


怪しい動きをする彼の手に、半ば強引に促されながら、僕は休憩室の中に入った。

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