第34話 “ざまぁ”への小さな布石
その晩、ルシアーナは青の部屋で、これまでに得た情報を整理していた。
- 黒狼(ブラックウルフ):ヴィクトルと過去に協定を結んでいたらしき裏社会の組織。共同事業が破綻した結果、互いに脅し合いのような関係に陥っている。
- リュシアン:黒狼のリーダー格で、凶暴かつ狡猾。屋敷に押し入り、ヴィクトルとの衝突を辞さない姿勢を示している。
- ラトレイ男爵家のロイ:新参の貿易商。クロウフォード家の財力と流通網を利用しようとしているが、信用できるかは不明。ただし、彼自身は誠実そう。
- ヴィクトル:表向きは冷徹そのものだが、時折わずかな疲労や焦りが垣間見える。黒狼との問題が長引いていることや、新規ビジネスの判断に慎重にならざるを得ない背景があると思われる。
この四つのピースを組み合わせれば、何か突破口が見いだせるかもしれない。
(例えば、ラトレイ男爵家と手を組むことで資金やルートを増強し、黒狼に対抗する力を得る――なんて可能性があるんじゃないかしら。でも、ヴィクトルはそれを望まない。まだリスクが高いと判断している。かといって、黒狼をこのまま放置すれば、いずれ大きな被害が出るのは目に見えている)
ルシアーナが頭を抱えていると、ふと机の上に置いたフィオレット家の紋章入りのブローチが目に入る。
(わたしが、この結婚を“ただ耐えるだけ”で終わらせたくない。フィオレット家を守るためとはいえ、ここに嫁いできたのに、何もせずに破滅を待つなんてまっぴらよ)
自ら動き、ヴィクトルすらも“利用”してやる――そう決意してから、まだ日は浅い。けれど、その思いは確実に彼女の内面を変えつつあった。
(……もし、わたしがヴィクトルの問題を解決に導き、クロウフォード家を支える形になったらどうだろう。彼は驚くだろうし、“ざまぁ”という言葉を投げつける機会だってあるかもしれない。愛のない結婚でも、わたしがこの家の実質的な“大黒柱”になってしまえば、きっと彼も否応なしに評価せざるを得ないわ)
そう考えると、胸の奥から不思議な力が湧いてくる。愛されることを捨てたのなら、せめてこの結婚を“わたしの勝利”に塗り替える。たとえ冷たい契約であっても、ルシアーナにはまだやれることがあるはずだ。
薄紫のブローチをそっと撫で、ルシアーナは瞳を閉じた。いつか必ず、ざまぁと言わしめる日が来る――と、眠りに落ちる直前、静かに誓うのだった。
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