第18話 まるで葬列のような退場



 「……では、これより新郎新婦はクロウフォード家の車にて、都心の別邸へ向かわれます」

 手短に儀式を終えた神父が言うと、ヴィクトルとルシアーナはそろって礼拝堂の外へ出ることになった。本来ならここで参列者から祝福を受けたり、フラワーシャワーなど華やかな演出があるはずが、今日は何もない。ただ、雨が降りしきるグレーの空が迎えてくれるだけだ。

 うつむき加減のルシアーナは、母と妹に視線をやった。フロランス夫人は車椅子のまま、雨を防ぐ屋根の下でハンカチを握りしめている。マリアナは悔しそうな表情を浮かべていたが、じっと唇を噛んで耐えているようだった。


 「……おめでとう、ルシアーナ。形はどうあれ、あなたが選んだ道なんだから、強く生きてちょうだい」

 そう呟く母の言葉には、気丈な中にもやはり切なさが滲んでいる。

 「……うん。わたし……大丈夫だから、心配しないで」

 ルシアーナは必死に笑顔を作り、それ以上は言葉が出てこなかった。

 そのままヴィクトルに促され、新郎新婦用の馬車へ。ドレスの裾を雨水で濡らさぬよう、ドアマンが気を使ってくれる。ヴィクトルは先に乗り込み、窓の外を向いたまま沈黙している。ルシアーナもその隣に座り、少し距離をあけて腰を下ろした。


 扉が閉まると、すぐに馬車は走り出す。遠のいていく礼拝堂の姿、その奥に残された母と妹。それが視界から消えるたび、ルシアーナの胸に押し寄せる喪失感が大きくなる。

 雨音だけが車内を満たし、ふたりは一言も口をきかない。まるで葬儀帰りのような沈黙が、ただただ続いていく。新婚夫婦とは到底言えぬ雰囲気に、外の景色さえ陰鬱に見えるほどだ。

 ――これが、自分の「結婚」という運命なのだろうか。甘い囁きも、華やかな祝福もなく、ただ契約の鎖で繋がれただけの、冷たい関係。ルシアーナは、左手にある銀の指輪をきつく握りしめた。

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