第16話 薄闇の礼拝堂へ
館の外に出ると、クロウフォード家から派遣された黒塗りの馬車が待っていた。御者台には見慣れない男が座り、その横にはクロウフォード家の紋章が刻まれた飾りが据えられている。フィオレット家の執事エヴァンとリディアが、馬車へ乗り込む手伝いをしながら、ルシアーナやフロランス伯爵夫人、妹のマリアナを見送ってくれる。
ドレスの裾を引きずらないよう、ルシアーナは慎重に足を運んだ。母フロランスは、体調が万全とは言い難いものの、どうしても娘の婚礼を見届けたいと意を決して外出することにしたらしい。車椅子のような簡易椅子に体を預け、侍女に支えられながら、車へ乗り込む。その姿はやや痛ましかったが、その瞳は母としての誇りと哀しみに満ちていた。
マリアナはまだ幼い雰囲気が残るが、姉のドレス姿を見ては、かすかに目を潤ませる。彼女もまた、この白い結婚を心から喜べているわけではない。それでも、姉の決断を尊重しようと懸命に努めているのだ。
こうして家族を連れて馬車が出発する。曇天の下、車輪の音が石畳をゴトゴトと鳴らしながら走っていく。その道は決して長くはなく、都心から少し外れた郊外にある古い礼拝堂が目的地となる。
礼拝堂へ向かう途中、窓の外に広がる風景を眺めても、ルシアーナの胸は重苦しさでいっぱいだった。黒雲が垂れ込み、やがてわずかな雨粒が車の窓を打ち始める。まるで、この白い結婚への前触れのような、暗い空。
すぐに遠くの森が視界を覆い、深い緑の樹木が雨にしとどに濡れているのが見えた。礼拝堂はその森のほとりにあると聞く。古い石造りの建物で、クロウフォード家の遠い先祖が寄進したものだとか。結婚式を行うには充分な格を備えているが、わざわざこんな辺境で式を挙げることに、ルシアーナは疑問を拭えなかった。
(どうせ目立たないようにしたいんでしょうけど……これじゃあ、お葬式みたい)
そう自嘲気味に思いながらも、ルシアーナは母と妹の存在に助けられるように、かろうじて気持ちを保っている。もし一人きりでこの礼拝堂に向かうのなら、彼女はもっと寂寥感に押し潰されていただろう。
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