第7話 2人で名瀬をぶちのめすにゃん
「ナオキ……話があるのにゃん……」
意気消沈していたポニャンザが話しかけてきたのは、自室に入ってたっぷり1時間たってからだった。数学の勉強をしていたボクは手を止め、「どうした?」と話を聞いてあげることにした。
口を開く直前、ポニャンザはさっと頭を下げ、謝罪を始めた。
「今まで騙してて悪かったのにゃん。にゃーは……最強の将棋ソフトなんかじゃないのにゃん」
「うん。それは名人の話を聞いて薄々感じてたけど……、もしかして未来から来たっていうのも嘘なのか?」
「それは違うにゃん!……バカなナオキでもわかるように説明するにゃん」
「一言余計だバカ猫」
お通夜モードなくせにしっかり暴言を忘れない猫娘にボクはツッコミを入れた。
「にゃーが2065年から来たのは本当にゃ。そして、名瀬拓ニに憑くつもりで過去に遡ってきたというのも間違いないのにゃ」
意を決してポニャンザが淡々と話し始めた。床であぐらをかいているので、ボクも椅子から立ち上がってそれに合わせることにした。
「にゃーを造り上げたのは、大まかに言えば名瀬拓二ファンにゃ。名瀬拓二の能力を得た最近ソフトを作ろうと企てたようでにゃ。……だから、にゃーに覚えこませた棋譜のほとんどが名瀬拓二のだったのにゃん」
「なるほど。ここまでは名人が仮説を立ててたとおりだな」
「そうにゃ。でも、名瀬拓二の棋力は40年後じゃとても通用しなかったにゃ。にゃーのソフト間の対戦成績は……0勝404敗だったにゃ」
「そ、そんなに勝てなかったのか」
未来のソフトにしては弱いなんて話が出ていたが、まさかそこまでとは。自分の認識の甘さを痛感させられた。
「だからにゃ、にゃーは手間を惜しんで過去にやってきたのにゃ。……名瀬拓二の棋風を変えるためににゃ」
「そういうことだったのか」
確かに名瀬先生の棋風が今後変われば、未来の名瀬信者とやらの認識が改まり、ポニャンザの力が強くなる可能性があるだろう。
「そうにゃん。にゃーのいる世界では最後まで名瀬拓二は名瀬拓二のままだったにゃん。そして65歳でフリークラス規定にて引退。67歳でこの世を去ったにゃん」
「なるほどな」
今、最前線で活躍する棋士もいつかは衰退していくのだと考えると虚しさを覚えてしまう。
「ところで、ポニャンザを開発した人はどうしても言えないのか?」
「にや!?それは絶対駄目にゃん!トップシークレットにゃん!!」
急に狼狽したポニャンザが激しく拒否してみせた。やはり、よほど言えないような話らしい。この話題が好ましくないのか、ポニャンザはすぐさま話題を移し替えた。
「……そこでにゃ。にゃーと一緒に名瀬拓二を変えられるよう力を貸してほしいのにゃ!一生のお願いにゃん!」
急に声を強めたポニャンザが土下座をしてきた。だが、頭を下げられたところで対応に苦慮してしまうのが現状だ。
「そう言われてもな。具体的にどうすればいいんだよ」
「それは……ナオキが名瀬をボコボコに打ち負かすにゃん。そうすれば、名瀬だって限界を感じて棋風の変化に力を入れるはずにゃん」
「はああ!?」
あまりに無茶苦茶な話に、ボクは思わず口をあんぐりさせてしまった。
「無理だって!将棋を始めて間もないボクが勝てるわけないだろ」
「そんなとこないにゃん!現に……ここ1ヶ月でナオキの棋力は驚愕するくらいに上がっているのにゃ。バカだという事実を訂正しようか悩むくらいににゃん」
「そこはさっさと訂正してくれ」
まぁ、バカであることはちょっとは自覚しているんだけど。
「ナオキは、にゃーに付くことで将棋を覚え、そして最近はにゃーと戦って戦術に幅が出てきたにゃん。そして、名人や名瀬のもとで研究を重ねれば、更に強くなることは間違いないにゃん」
「はぁ……」
考えもしていなかった話に頭がショートしてしまった。言われてみれば、ボクにはポニャンザ、藤倉名人、名瀬先生と、日本を代表するであろう指導者が3人もいる。これは、棋士としてみればこの上ない幸せなのだろうな。
「だからにゃ……ナオキが名瀬を倒すのだって決して不可能じゃないのにゃ」
「そうか……」
「だから……にゃーに力を貸してほしいのにゃん。一緒に名瀬拓二を倒そうじゃないかにゃん」
改めてポニャンザが頭を深々と下げた。
正直、ボクの気持ちは、話を振られる前から決まっていた。ただ、どうすればポニャンザの力になれるのかがわかっていなかっただけで。そして、今ポニャンザがその道標をボクに見出してくれたのだ。
「わかった。一緒に頑張ろう、ポニャンザ」
「ナオキ…………よろしくにゃん!」
ボク達は、手が触れ合えないなかぎゅっと握手を交わした。ボクとポニャンザ、2人の成り上がりがここから始まろうとしていた。
……すまんにゃ、ナオキ。開発者のことを知ると、本当ににゃーは消えちゃうのかもしれないにゃん。にゃーの開発者、名瀬
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