第26話 鈍感男の気遣いっていいよね

「カフェの後に映画館って……ふつう逆じゃない?」


「そうなのか? こういうデートって初めてだから許してくれ」


「まあ、別にいいんだけどさ。それよりも見る映画は決まってるの?」


「いや、凜々花の好みがわかんないからどんなものを選んでも退屈しないように映画館にしたんだ。凜々花はこの中で何か見たい映画とかあるか?」


 僕たちが次にやってきたのはショッピングモールに併設されている映画館だった。

 ここを選んだ理由はさっき言った通りで、ここなら失敗をしないだろうし退屈しないと思ったからだ。

 映画なら何個か選べるし、凜々花に選んでもらう事で凜々花の好みがある程度理解できる。

 そう思ったからこそのチョイスだった。


「う~ん、このラブコメ映画とかどう? ニュースとかで結構見たんだけど面白そうだったからさ」


「いいな。僕は映画館とかあんまり来たことないから楽しみだ」


「そうなんだ」


「ああ、一緒に行くような相手もいなかったし。そもそも一人で映画に行こうなんて思えなかったからさ」


 映画は誰かと一緒に見て楽しい時間を共有するものだと個人的には思っている。

 見ている途中は会話をしなくても楽しめるから気まずい空気になる心配があまりないというのもメリットだろうか。


「じゃあ、うちが映画館デート初めての相手?」


「そうかもしれない。そもそも映画館にも行ったことないかも」


 テレビやアニメで映画館の外観や内観は見たことがある。

 それでも、本当にきたのはこれが初めてかもしれない。

 黒を基調とした落ち着いた雰囲気を醸し出す空間。

 一歩外に出ればショッピングモールの喧騒が響いているのにここはその喧騒が響かない。

 黒い壁を暖かい色のライトが照らしている。

 本能的にここで騒いではいけないとわかり、背筋が伸びる。


「へぇ~今どき珍しいね」


「凜々花は映画館何回も来てるのか?」


「まあね。奈菜ちゃんと来たり、他の友達と来たりしてるよ。面白い映画が多いからね」


 どうやら、映画館に来た経験は凜々花の方が何倍も多いらしい。

 それどころか、あらゆる対人経験において凜々花は僕の先を言っているのだろう。

 所詮僕はつい最近人とのかかわり方を真面目に考え始めた人間だ。

 凜々花みたいな最強ギャルに対人関係で勝ろうとしていることそのものがおこがましいとすら言えるのだろう。


「じゃあ、とりあえずチケットを買いに行くか」


「だね! 場所はわかる?」


「流石にそれくらいは予習してきてる。ここでめちゃくちゃ戸惑ったらカッコ悪いだろ」


 映画館に行くにあたって僕はチケットやポップコーンの買い方など。

 関連する情報はできるだけ頭にいれてきた。

 いくら罰ゲームとはいえ、これはデートだ。

 凜々花の前で恥ずかしい姿を見せるわけにはいかない。

 僕にだってなけなしのプライドみたいなものがあるんだ。


「そうだね。じゃあ、一緒に買いに行こ!」


 凜々花にいきなり腕を組まれる。

 柔らかい感触が僕の左腕から伝わってくるけど、それからは意識を逸らして目の前の液晶に集中する。

 中から凜々花の言っていたラブコメの映画のチケットを二枚選択してお金を入れる。

 すぐに、下からチケットが二枚出てきてそれを取り出す。


「あっうちもお金出すよ」


「別にこれくらい良いって。初めてのデートくらいカッコつけさせてくれ」


 財布を出そうとした凜々花の手を止めて代わりにチケットを差し出す。

 こういうスタイリッシュなことしてみるのちょっと憧れてたから達成できてうれしい。

 まあ、自己満足なわけだけどさ。


「そういう事ならありがとね! でも次は私が出すから!」


「じゃあ、その時はお願いしようかな。それよりも、行こうか」


 凜々花に腕を組まれてるから少し歩きずらかったけど、ここで振りほどくほど冷たい人間にはなりたくなかったから僕はそのまま映画館の上映スペースに向かおうとした。


「龍くんポップコーンとかは買わないの?」


「……完全に忘れてたな。買うか」


 映画と言えばポップコーンとコーラという定番の商品を買うのを忘れていたなんて。

 僕も緊張しているらしい。


「うん! 買おう買おう! 次はうちが奢るからね!」


「じゃあ、お言葉に甘えるよ。ポップコーンの味とかは凜々花の好きな奴にしてもらっていいから」


「飲み物はどーするの? うちはメロンソーダにするけど?」


「コーラで頼む。ちょっと電話がかかってきたから出てくる。すぐに戻るから」


「ん。わかった。早めにね!」


 凜々花にそう伝えてから足早に映画館を出る。

 すぐにショッピングモールの喧騒が戻ってきて違和感のようなものを感じるけど、それを無視してスマホを触って通話に出る。


「もしもし? 何かあったのか?」


「あ、龍斗? 何かあったとかそういうわけじゃないんだけど、何してるのか気になってさ」


「今、出かけてる途中なんだ。急用じゃないんならかけ直してもいいか? 乃彩」


「あ、そうだったんだ。ごめんごめん。でも、龍斗が一人で出かけるなんて珍しいね?」


 なんで乃彩は僕が常に一人だと思ってるんだ?

 まあ、確かに今までボッチだったけども。

 にしても、決めつけるのが早すぎはしないだろうか。

 ちょっとムッとしてしまうぞ。


「一人じゃないぞ。じゃあ、待たせてるから切るな」


「え!? ちょっとまっ……」


 乃彩が何か言おうとしたけど、それを無視して通話を終了する。

 話が長くなるような気がしたから速攻通話を終了させた。

 後で怒られるだろうけど、そこは甘んじて受け入れよう。

 ごめんね。


「っと、速めに戻らないと怒られるな」


 小走りで映画館内に戻る。

 すると、めんどくさそうな光景が広がっていた。

 凜々花が三人の男に絡まれているではありませんか。


「まあ、確かに可愛いしナンパとかされやすいんだろうな。でも、映画館ですんなよ。周りに迷惑だろうが」


 普通、こんな展開に出くわしたなら焦ったりするのかもしれない。

 焦るのが普通の高校生の反応というものだろう。

 だが、僕はその限りではない。

 だって僕の周りには姉さんと乃彩が一緒にいたんだ。

 周りでは数日に一回のペースで二人のどちらかがナンパをされている現場に出くわしている。


「……流石に間に入ったほうが良いか。凜々花はまだストーカーの事を気にしてるだろうし。変な男に絡まれたら怖がってしまう可能性があるしな」


 昔の僕なら見て見ぬふりをしていたのかもしれないけど、今はそうはいかない。

 今日はデートなのだ。

 デートである以上は僕は彼女を守り、エスコートをしなくてはいけないんだ。


「すいません、その子僕の連れなんですけど何か御用ですか?」


「ちっ、彼氏持ちかよ。白けたわ。いこ~ぜ」


「だな」


 僕が出来るだけ笑顔で絡んでいた男たちに話しかけると、不機嫌になりながらどこかへ行った。

 良かった、聞き分けの良いタイプの人間だった。


「あ、ありがと。助けてくれて」


「全然。これくらいは当然だよ。それよりも大丈夫だったか?」


「えへへ。気を使ってくれてるんだね。でも、龍くんが助けてくれたから大丈夫」


 えへへっと彼女は笑って見せたが、ポップコーンとドリンクの入ったホルダーを持つ手が震えていた。

 そりゃ、怖いよな。

 自分よりも年上の男三人に囲まれて言い寄られるなんてさ。

 怖いに決まってる。


「ポップコーンとドリンクありがとな。持つよ」


「え? あ、うん。ありがと」


 彼女からホルダーを受け取って、今度こそ二人で映画が上映されるスクリーンに向かう。

 右手でホルダーを持って左手で彼女の右手を握った。


「……へ」


「嫌だったか?」


「そ、そういうわけじゃないんだけど! りゅ、龍くんからこういう事してくれるの嬉しいなって思って」


「僕だってたまにはこういう事を自分からするときだってあるさ。それよりも早く行こう。映画が始まっちゃうぞ」


「そ、そうだね」


 手を繋いだままスクリーンに向かう。

 映画が始まるまで僕たちの手は繋がれたままだった。



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