梵天世界の壊し方

第26話 約束したから

「梵に天、君たち二人はどちらも神へと至ることができる器を持っているんだ」

「……っ」

「俺もって……どういうことだ」

「今まで、願ったことが本当に起きたことはなかったかい？」

「願ったこと……？」

思い出してみる。

そういえば、雨でも降ればいいのにと言った時、本当に雨が降ってきた。

上手くいけと願ったことは、上手くいった。

「……確かに『こうなればいいな』と思った時、世界は動いたような……」

「でも、それじゃ何で俺はこんなに幸せじゃないんだ？」

「じゃあ、俺が父さんも母さんも死ねばいいのにって思ったってのかよ！」

「なぁ！俺はそんなこと一度だって思わなかった！」

「落ち着いてくれ天、君は誤解を……」

「じゃあどうして！どうして父さんと母さんは死んだんだよ！」

「じいちゃんカミサマなんだろ！？父さんと母さんは何で死ななきゃいけなかったんだよ！」

「俺はそんなこと望んでない！じいちゃんだってそうだろ！？」

「落ち着いてくれ天、私は……」

「力がどうだとか、存在意義が揺らぐとか、そんなことの方が俺の両親より大事だったってのかよ！」

「違う！」

その時、じいちゃんは初めて大きな大きな声を出した。

「……っ」

「あ、天……すまない……」

「い、いや……その……」

「何も言わなくていい、その通りなんだ実際」

じいちゃんは、少し寂しそうな顔をした。

「私は識を残して消えたくないと思ってしまった」

「妻と、息子を天秤にかけてしまったんだ」

「最低の親で、祖父だと思う」

「許されることじゃ、ない」

「……っ、それは……」

「いくらでも君の主張を私は受け入れる、私にはその義務があるからね」

「許されないことだ、贖えないことだ」

「天には本当に辛い思いをさせたね。私をどうしようと構わない」

「……俺は」

しまった、と思った。

別にこんなに問い詰めたり、強く言うつもりはなかった。

ただ、梵の時のように俺はまた他者を責めてしまったんだ。

「……ごめんなさい」

「何で天が謝るんだい？」

「君は悪くない」

「あ……」

俺はずっと心のどこかで、自分が悪いのかもしれないと思っていた。

世界が俺を呪うのは、両親を犠牲にして生き残ったからだと思っていた。

俺は、許されない罪があるから、こんな仕打ちを受けるのだと思っていた。

いや、逆にそうでもないと納得できなかった。

なぜ自分だけ、こんなにも酷い仕打ちを受けるのだろうか。

なぜ、自分はこんなにも苦しく生きているのか。

理由が欲しかったのかもしれない。

「天、君があれだけ辛い思いをしてきたのも、今そんな顔をさせてしまっているのも全部私のせいだ」

「本当によく頑張ったね」

「……俺が？」

「あれだけ辛い中、頑張って生きて、ここまで来て、今は梵まで助けたんだ」

「誰が君を責めると言うんだい？君はすごい子だ」

涙がボロボロと出た。

俺は、頑張れたんだ。

「ん……天？」

「梵、起きたのか！」

泣いているのを見られたくなくて、涙を拭う。

「ここは……？」

「やあ、こんにちは、初めまして。カミサマです」

「え……？」

流石の梵も困惑しているようだった。

そりゃそうだ、ずっと俺たちはこの人の作った世界を壊そうとしていたんだ

「天、泣いてるの？」

「えっ」

まさか俺のことを梵が見ていたとは思わず、間抜けな声を出してしまった。

「い、いや？泣いてねえけど、なんだ？」

「いや、泣いたよね天」

「そ、そんなことカミサマが目の前にいるんだぜ？そっちの方が気にならないのか？」

「……ふふ」

「なんでじいちゃんはちょっと微笑ましそうなんだよ！何とか言えよ！」

「いや、何。昔の私と識を思い出してね」

「昔のじいちゃんとばあちゃん？」

「ああ、私たちも君たちみたいだったんだ」

「それこそ、泣いたのを見られたくなかったのにバレてしまう、とかね」

「な、泣いてないからノーカンだノーカン」

「まぁそうなら無理には何も言わないさ」

相変わらずのにっこりとした顔でカミサマはこちらを見ていた。

くそ、じいちゃんな筈なのに何故か無性に腹が立ってきた。

「天、その……ね。声だけは聞こえていたの」

「聞こえて……？」

「うん、ずっと起き上がれないんだけど、声だけ」

「だから、もう大体わかってる」

「そっ……か」

「それと、さっきは助けてくれて、ありがとね」

「もちろん。だって、約束したろ？」

「梵天世界の壊し方、俺も探したいって」

俺はずっと。

ずっと言いたかったことを、口にしたのだった。