四日目
第17話 遠い記憶の感じ方
夢を、見た。
夢の中で、この村が出てきた。
夜ご飯を食べていた。
お父さんも、お母さんもいた。
識ばあもいた。
不思議と、懐かしかった。
でもこれが当たり前だと思った。
でも、梵だけがいないことに気がついた。
「梵……?」
あたりを探す。
川まで行くと、梵は釣りをしていた。
「梵、こんなとこにいたのか」
一緒に家に帰ろうぜ、と言おうとして気がついた。
俺は小さかった、小学生のように。
「天は、小さいね」
梵は釣り糸を垂らしたまま話した。
俺の方を、向こうともしなかった。
「高校生になっても、変われないままだね」
「な、何言って……」
「天」
梵はいなかった。
村もなかった。
ただ、真っ白な空間だけが広がっていた。
「天、君は何を変えるんだ?」
どこからか、声が聞こえた。
「誰なんだ……変えるって何をだ!?」
「君は変わりたいのか?」
声は、まとわりつく様に降りてきた。
「君はいつだって逃げてきた」
「お父さんとお母さんが死ぬより前から」
「変わろうと思ったことだけは沢山あるのに、君は変わることができなかった」
「全てから逃げようと思って、逃げて、挙げ句の果てに誰とも関わらなくなって」
「君が世界に嫌われ、君の周りに人がいないのは、他ならぬ君が壁を作ってるからじゃないのか?」
「なんだよお前、うっせえな。だったらなんだよ……」
「君が世界に嫌われてるんじゃない、君が世界を嫌ってるんだって言いにきたんだ」
「は?バカなこと言ってんじゃねえよ」
俺が世界を嫌ってる?バカなこと言うなと言いたい。
「俺は別に世界のことは嫌いじゃなかった!世界が俺を嫌いになったんだ!」
「元はと言えば、全部世界のせいで、俺はずっと変わりたかったのに変われなくて!」
「いや、変えたいんだろ君は」
「変えたい……?」
「こんな世界がおかしいって思うから、世界を変えたいって」
「いや、世界が変わればいいって思っているんだ君は」
「そんな、俺は利己的じゃ……!」
「利己的で何が悪い」
声の主は見えないはずなのに。
いやに重く、いやに存在感を感じた。
「自分のために動けないやつに、何ができると言うんだ」
「自分の……ため」
「君は何を変えたいんだ?」
「世界を変えるために、自分を変えたいのか?」
「それとも自分が変わるために、世界を変えたいのか?」
「何を望む?何を変える?」
「変える……」
「俺は……変えたい……そうだ」
俺は思い出した、そして気がついた。
この世界は夢なのだと。
「俺は変えたいんだ」
「……ら」
「何を、望む?」
「俺が、俺の存在意義が奪われないこと……?」
「……そ、ら」
「何を変える?」
「いや、俺はなんで引っかかってるんだ……?俺は……」
「天!」
「え?」
「ほいっ」
「うわぶぶぶ」
この感覚、覚えがある。
水だ。
しかもそこそこの量の、キンキンのやつ。
「……おはよう」
「おはよう」
「良かった。起きたの」
「……お陰様で」
上半身を起こす。思ったより身体がだるい。
「朝ごはんだよ」
「わかった、すぐ行く」
「それと」
梵は少し、バツの悪そうな顔をして言った。
「朝ごはんを食べたら、話があるって」
「パーペキな計画だと思ってたんだけど」
「……わかった」
「うん」
そう言い、梵は足早に去ろうとした。
「梵!」
ビクッと体を震わせた背中が見えた。
「その話、抜け駆けすんなよな」
「……わかった」
「そう来なくっちゃ」
「それと」
「パーペキは、死語だ」
「ガーン!?」
梵が去って行くのを確認すると、俺は徐に立ち上がった。
「さて、と」
少し呼吸を整え、パンパンと顔を軽く張った。
「……行くか」
//////////
「二人とも、話をするから来なさい」
朝食後、そう言い出したのは識ばあだった。
内心(来たか……!)と思っていた。
大丈夫、覚悟も、気概もある。
そう思っていたから、識ばあの言ったことはあまりにも想像の斜め上だった。
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