第1章第4話 『運命の羅針盤と、治癒師の眼差し』
【異世界:プェサの館・庭園と書庫】
**朝食の席で執事たちと今日の予定を話し合った後、**愛梨は自分の部屋に戻るとすぐに「ハーブ栽培計画」に取り掛かった。
「アイムさんが言う通り、ブローチの力を消耗させないために、私自身が頑張らないと。まず、癒やし効果のあるハーブを育てて、みんなを元気にしよう!」
愛梨が、執事たちに手伝ってもらいながら裏庭の一角を開墾していると、一人の静かな青年が近づいてきた。 白いタートルネックの上にモスグリーンのベストを羽織ったその執事の周囲には、なぜか小鳥や野良猫が集まってくる。
彼はそっと近づき、愛梨が土で汚れた指先を見て、静かに小さな薬瓶を差し出した。
「主様。これはヴァレフォールが調合した軟膏でございます。薬草には、癒しと活力を与える力があります。特に主様のエネルギー消耗を和らげるでしょう」
ヴァレフォールと名乗った執事は、穏やかな笑みを浮かべていた。彼の金色の瞳は優しく、愛梨の怪我を気遣っているのがよく分かった。愛梨は彼の指先から漂う、どこか懐かしいハーブの香りに癒やされるのを感じた。
「ありがとう、ヴァレフォールさん。ハーブを育て始めたのは、みんなを癒やしたいからなんです。あなたの専門分野ですね!」
ヴァレフォールは静かに頷いた。
「主様の決意は、とても尊いことです。私もお手伝いさせていただきます。薬草園で主様のお傍にいられるのは、この上ない喜びです」
彼は言葉少ないが、その存在自体が安らぎを与えてくれる。愛梨は、彼がいてくれるならこの薬草園計画も成功しそうだと、確信を持つことができた。
その日の午後、図書室で古い園芸書を調べていた愛梨は、ベリトに呼び止められた。
「主様、少しよろしいでしょうか」
ベリトに導かれ、愛梨は薄暗い一室に足を踏み入れた。そこには、星図のタペストリーがかけられ、水晶玉が静かに輝いていた。 部屋の中央には、黒いマントを纏い、片目を金色の眼帯で隠した執事が座っていた。
彼こそが、ヴァサゴ。ベパルと同じく、未来と過去の知識を持つとされる神秘的な執事だった。
「ようこそ、我が主様。ヴァサゴと申します」 愛梨は緊張しながらも、ヴァサゴの透き通った声に引き込まれた。
「主様の瞳は、過去も未来も映しています。しかし、その心が今、最も大事な『現在』を見失おうとしている」 ヴァサゴは愛梨の持つブローチを一瞥し、微笑んだ。
「ブローチは、ただの魔力源ではございません。それは主様の『選択』によって、未来の道筋を示す羅針盤となるのです。しかし、羅針盤が指し示す道は常に一本ではありません。主様が選ばれる未来は…幾通りもございます」
彼の言葉は暗号のようで、愛梨にはすぐには理解できなかった。それでも、彼がこの館の秘密、そして愛梨の「主」としての役割について、最も深く関わっている執事だと感じた。 ヴァサゴは、愛梨の迷いと決意を同時に見透かしているようだった。
「ご安心ください、主様。我々は、常に主様のお傍におります。どのような未来を選ばれようと、その道が絶たれることはありません」
その言葉を残し、ヴァサゴは愛梨の手に、古びた真鍮製のキーホルダーをそっと置いた。
「これは、主様が過去に失われたものを探し出す助けとなるでしょう。時が来れば、その鍵がどこを開くのか、お分かりいただけるはずです」
愛梨はキーホルダーを握りしめ、改めてこの館の執事たちの持つ、底知れない力と、彼らが自分に抱く深い忠誠心を噛みしめるのだった。
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