17、『今日から始まる本物のてぇてぇ』

 待ち合わせしたのは、駅前だった。

 二人で一緒に歩いて、到着したのはなんと零くんの住む部屋だった。



   17、『今日から始まる本物のてぇてぇ』


「駅に近いんだね! 広いし、いい部屋だなぁ」

 香り高い珈琲コーヒーを淹れてもらって、マグカップを両手で包み込むみたいにして落ち着いて話すのは、子供の時の思い出だった。


「零くんの家でゲームしたの、俺覚えてるよ」

 懐かしい思い出話をできるのが嬉しくて、俺は一生懸命に話した。

「俺も、楓と遊んだのを、よく覚えてるよ」

 零くんはそう言ってちょっと照れたみたいに視線を逸らした。

「その……最初会った時に言おうとしたんだけど、楓が覚えてるかわからなかったし、ちょっとタイミング逃して」

「わかる。俺もそう!」

 思わず言って手を伸ばして零くんの手を取ると、零くんの肩がビクッとした。

「あっ、ごめん。ついテンション上がった」

「い、いやいや……いやじゃない」

 手を離そうとすると、慌てたみたいに零くんの側から手が握られる。


「嫌じゃないんだ!」


 ちょっと必死な感じで言われて、その顔が頬から耳が赤くなっていて、まなじりのあたりに熱っぽい感じがある――つられてドキドキしちゃうような表情で、俺は赤くなってこくこく頷いた。


「う、う、うん。うんうん、わかったよっ?」

「ぁ……ごめん」

 ササッと手が離される。


 微妙に意識してしまうような、照れちゃうみたいな距離感を感じる。

 て、て、……てぇてぇ? リアルなてぇてぇ? ――そんな感じ!?


「あ、配信部屋見せてもらおっかな?」

 ちょっとあたふたしながら言って腰を浮かせば、零くんが安心したみたいな吐息をついて配信部屋を見せてくれる。


 清潔感のある部屋を見渡し、防音設備の行き届いた配信部屋を見せてもらって「いいなあ!」と言っていると、そろそろと声がかけられる。


「よかったら、一緒に住む?」


「……!?」


 振り返ると、すごく――『決死の覚悟で言ってます』って感じの零くんがいる。


(――わあ!? なんか……っ、)

 特別な感じが、すっごい!

 本当に!? 本当に!!


「れ、零くん……」

 内心でテンションが上がりすぎてどうリアクションしていいかわからなくなりながら名前を呼べば、そろそろと声が続く。


「一緒に住んだら、色々便利だし、……違う。便利とかじゃなくて、そういうのを言いたいんじゃなくて……」


(う、うわー、うわー、うわー!!) 

 なんか凄いことを言ってくれそうな気配――俺はドキドキした。それはもうドキドキして、人生が突然終わるみたいなものすごいイベントの中にいる気がした。

 いや、人生は終わらないと思うけど、それくらい情緒が乱れていて、自分の気持ちが盛り上がっていて。


「わ、わ、わかるぅ。俺、わかるよ!」

 言われるより先に、口が勝手に動いてた。

「だって、好きだもん!」

「!!」


 ――言った! 俺が! 俺が言っ……!!


 ふわりと零くんが俺を抱きしめる。

 くっついた体温がすごく熱い――服の下の体つきをリアルに感じる。これ、夢じゃない――!


 頬にするりと手が添えられる。

「さ、先に言われた……」

 悔しそうに言って、零くんが顔を近づける。

「楓――好きだよ。ずっと……」


 整った顔がすごく、近い。

 前髪と前髪が軽く触れ合って、一緒になってひたいをくすぐる。


 くすぐったい――吐息といきが混ざり合うみたいに熱を触れ合わせて、小さな声が何か言う。

「キスしたい。いい?」  

 懐かしい瞳が間近で愛しさをたたえて見つめていて、真っ直ぐに見るその瞳に自分だけが映っている。


 ――小さく頷きを返せば、唇がふわりと触れた。


 小鳥が挨拶するみたいな、そおっと触れるキスが胸のうちがわをきゅんとさせて、頭をふわふわさせて、離れる吐息に切なさと愛しさが湧き上がる。


(本物だ。『今日から始まる本物のてぇてぇ』だ……!!)

 ――こうして、ビジネスてぇてぇは本物のてぇてぇに変わったのだった。

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