4、俺ら、相方じゃん‼

 夏の香りがする――お冷やとして出された麦茶が、涼しい色を照明しょうめいにキラキラさせている。

 口に含むと、ちょっと硬いかんじのする、独特の冷えた味が美味しい。


「写真撮ってアップしようぜ」

 零さんがスマートフォンを取る。

「デートしてきたぜーって」

「いいですね」

「楓くん、タメなんだからタメ語でいいよ……?」

「あっ、……うん」

 俺はいそいそとスマートフォンのカメラを起動した。



 4、俺ら、相方じゃん!!


「俺のはスノウクリームソーダだよ」

「俺のはマスカット」


 俺のクリームソーダはミルクみたいに白いジュースに真っ白のクリームが乗って、パステルカラーの水色や青緑、薄紫の金平糖こんぺいとうっている。

 零さんのクリームソーダはというと、薄い黄緑色のジュースにごろっとした葡萄ぶどうの果実、白いクリーム、てっぺんにミントの葉っぱが乗っていた。


「すぐ投稿じゃなくて、移動してからな」

「ん。そうだね」


 ――ここは割と流行りの店なので、すぐ投稿すると、身バレの危険性もあるのだ。


「楓くん! 俺たちのコンビてぇてぇ、結構ウケてる」

 見ろよ、と零さんがスマホの画面を見せてくれる。


「あ……ほんとだ。ファンアート描いてもらってる〜、わー!」

 中学生くらいのファンが描いてくれたあったかでかわいい、ほんわかする絵とか、配信のやりとりを抜粋して漫画みたいにした絵は、二人の関係性を一眼で伝えてくれるみたいで、なんだかこそばゆいような、嬉しいような、むずむずした嬉しさをくれた。


「嬉しいよな。ハート飛ばしていこうぜ。リツイートも」

「うんうんっ」


 はしゃぎながらクリームソーダの真っ白クリームをすくえば、ふわふわの甘いクリームが口触りなめらかで、ころんとした金平糖が楽しい食感を足してくれている。


「楓くん、歌ってみたコラボしたいね」

「したいね!」

「MMOもFPSもホラゲもいいよね」

「やりたいこといっぱいだねー」

「人狼ゲームとかマーダーミステリーもさ、人集めてやったら盛り上がると思うんだ。俺、知り合い増やすよう頑張るからさ」

「うん、うん」


 声量声のおおきさに気をつけつつ、美味しさの中で顔を寄せ合って打ち合わせをする。


 幼馴染の声はなつかしくて、ちょっとだけ寂しい。

 ――だって俺、忘れられてるんだ。


「ん。楓くん、どした?」

「ふぇっ?」

 ふと零さんが顔を覗き込んでくる。

 ああっ、このイケメンな顔!


 昔はあんまり顔の美醜びしゅうとか気にしなかったけどなあ……あんまり思い出せないけど。


「なんでもないよ、零さん」

「そ? なんかあったら言ってね、俺ら相方あいかたじゃん」


 軽い調子で言われた『相方』の一言が嬉しい。

 胸の内側からぽかぽか、ホワホワするみたい。


「うん。俺ら、相方だね!」

 全力で肯定こうていする様に笑えば、零さんがニコニコしてくれて、それが特別な感じがして、嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る