第4話 真実の記憶と、黒翼の覚醒

 夜の聖桜学園は、静寂に包まれていた。

 だが地下では、低い震動が続いている。

 礼拝堂の奥、封印装置の魔法陣が赤く脈打っていた。


> リリカ:「……間に合わない。封印が完全に――」


 そこに現れた影。

 黒い制服の裾を揺らしながら、エリカが歩み寄る。


> エリカ:「あなたの“愛”が封印を壊したのです。

>  レオン様を救いたいと願うたびに、あなたの魔力が呼応していた。」


> リリカ:「……それでも、彼を見捨てられない。」


 エリカの手には黒い短剣〈影翼の刃〉。

 その刃を向けながらも、瞳には迷いが宿っていた。


> エリカ:「私の任務は、“覚醒の鍵”を断つこと。

>  あなたを――殺すことです。」


> リリカ:「なら、やってみなさい。

>  あなたが彼を想う気持ちが、本物なら。」


 刃が震える。

 エリカの頬を一筋の涙が伝った。


 その瞬間、封印陣が爆ぜ、黒い光が天井を貫く。



 寮の部屋で眠っていた俺――レオンは、

 胸を締めつけるような痛みに目を覚ました。


> 『――ルシフェル。』


 誰かの声が頭の中で響く。

 眩い光が視界を覆い、過去の記憶が流れ込んでくる。


 ──戦争。炎。泣き叫ぶ人々。

 ──そして、自分を抱きしめて泣く少女。


> 『あなたがいなければ、世界は滅びる。』

> 『それでも俺は、この手で守りたいんだ。』


 その言葉を最後に、すべてが繋がった。


「そうか……俺は……」


 鏡に映る自分の瞳が紅く輝く。

 背中から黒い羽根が生え、部屋中の魔力が渦を巻く。


> 「俺は、“魔王ルシフェル”だったんだ――!」



 封印の崩壊を感知した聖教会が学園を包囲する。

 空から降り注ぐ光の軍勢。

 その中心に立つのは、白羽咲希。


> 司令官:「勇者の末裔、白羽咲希! 今こそ魔王を討て!」


 咲希は剣を握りしめた。

 だが、涙が止まらない。


> 咲希:「……でも、私は……」


 瓦礫の上に立つレオン。

 黒い翼を広げながらも、その瞳は穏やかだった。


> レオン:「俺はもう、誰も傷つけたくない。

>  たとえ、この力が世界に拒まれても。」


 咲希が一歩踏み出す。

 剣を構え、そして――下ろした。


> 咲希:「私は、あなたを信じる!」


 その声と同時に、聖教会の兵が一斉に動く。

 リリカが結界を展開し、美奈の魔具が爆ぜる。

 エリカが影の刃を放ち、咲希が光の剣を振るう。


 四人の少女が、それぞれの想いで彼を守っていた。



 激戦の末、学園は半壊。

 空には黒い月が浮かび、魔界の門が開きかけている。


> リリカ:「このままじゃ、世界が……!」

> レオン:「封印をやり直す! 俺の魔力を媒介に!」


> 美奈:「そんなことしたら、レオン君の身体が――!」


> レオン:「大丈夫。今度は“俺の意志”でやる。」


 リリカが泣きながら頷き、咲希が剣を突き立てる。

 光と闇が交わり、巨大な魔法陣が空を覆った。


 レオンが呟く。


> 「この世界が、俺の居場所になるように――」


 黒い翼が広がり、すべてを包み込む。

 そして、光が爆ぜた。



 翌朝。

 瓦礫の中で、静かに目を覚ます。

 空は青く澄み、風が心地よかった。


 リリカが駆け寄ってくる。


> リリカ:「よかった……生きてる……」

> レオン:「みんな……無事か?」


 美奈は救護テントで眠り、エリカの姿はどこにもない。

 咲希は、聖教会の使者に連れられていった。


> レオン:「……また、敵になるかもしれないな。」

> リリカ:「それでも、あなたは彼女を守るのでしょう?」

> レオン:「ああ。俺は、もう逃げない。」


 風が吹き、リリカの黒髪が揺れる。


> リリカ:「あなたが“魔王”でも、“天城レオン”でも構いません。

>  私は、あなたを愛しています。」


 彼女が微笑んだ瞬間、空に黒い羽が舞った。

 それはまるで祝福のように、空へ消えていった。



 数週間後。

 再建中の聖桜学園に、一人の少年が戻ってくる。


 胸ポケットには、黒い羽。

 空を見上げ、静かに呟いた。


> レオン:「また、ここから始めよう。

>  “人間”として。“魔王”として。」


 遠くの丘の上。

 フードを被ったエリカが、その姿を見つめていた。


> エリカ:「まだ……真の魔王は目覚めていません。」


 風が吹き抜け、黒と白の羽が夜明けの空に舞った。


──第4章・完。

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