孤独の世界。

トシキ障害者文人

第1話 僕が精神疾患者になった。

僕のつらかった人生も、作品に表せば、少しは救われる。精神疾患者は、ほとんどが、精神病院の閉鎖病棟の経験者である。退院した人達は、あまり語らない。それほどつらいところであるということです。

どうか知ってください。精神疾患者の人生の実態をです。


時代は、平成3年、東京。地元G県から上京して、アパートに住んでいた21歳の僕は、大学に通えず、日の当たらないくらい自室で、カーテンを閉め、レコードと本に埋もれて、引きこもりの完全孤独に陥った。苦しみの毎日が続く。書く詩は、タイトルが、「自殺」、「悪魔」「死ぬ」。そんなくらいポエムばかり。バンド仲間だった友達は、全員が僕から立ち去り、僕は、裏切られたと思い込んでいた。


僕は、深夜俳諧へと街に出る。もう夢遊病者だった。巷の猫がとても気になった。

しかし、猫は、かわるがわる僕のアパートの部屋の前に来ては、臭い下痢を立て続けにしていく。街中の猫が、僕を嫌っていた。

そして、昼間、表に出ると、街に居るヘンな人が、僕を見ると、唾を吐く。耳から聞こえる幻聴は、僕を支配し始めていた。

次第に町も歩けなくなり、アパートの自室にこもる。誰とも話せず、誰も電話がかかってこない。故郷は、僕は、裏切ったと思い込んでいた。頭が狂い始める。僕は、幻聴に支配された。


幻聴の、耳から聞こえる指令に従って、クリスマスの日に、山手線に乗って渋谷に行く。楽しそうな街中を、僕は、奇行をする。自転車の列を蹴飛ばして倒したり、女子高生のグループの前で土下座をしたり、ピエロのように独りダンスをしたり、マクドナルドで、ハンバーガー20個買って、全部ダストボックスへ突っ込んだり、夜になるまで、奇行パホーマンスをした。そして、ついに力尽きて、Tデパートの前で座り込んでうずくまってしまった。そこに、デパートの売り子さんが声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「もちろんです。」

何処ももちろんではない。売り子さんは、警察に通報したらしく、僕は、警官隊に連行されて渋谷警察署に行く。やがて、実家から、お父さんが駆けつけてきた。深夜になった。僕は、M精神病院に連行された。処置室で、すごく太い注射を打たれると、僕は、すぐに気を失った。


気が付くと、狭い部屋に入れられていた。なんにもない。夜だった。どのくらい眠っていただろうか。酷いのどの渇きで目が覚める。

「水を!水。」

僕は、あたりを見回すと、窓辺に水筒が置いてあるのに気づく。手に取って、むしゃぶりつくように、ごくごく飲み干した。ため息をついた僕は、周りを見回す。

白い蛍光灯に、汚いオレンジの絨毯に、白い壁。鉄格子のはまった窓の外は闇。遠くで電車の走る音がする。部屋の真ん中に薄い布団。隅に便器があった。あとは、なんにもない。

とても静かでなんて落ち着くのだろう。

「僕は、一生、この部屋に居たい。」

こう、思った。後で聞いた話だが、ここは、精神病院の「保護室」という部屋だった。まさに、僕は、保護されていた。やることもないので、再び、僕は布団で眠った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る