第11話 選定
世界中の都市で、奇妙な報告が相次いでいた。
沈黙していた潜水艦の乗組員たちが、病院や公共施設、時には民家にまで現れ、無言で人々を見つめ続けるというのだ。
彼らは何も語らない。
ただ、じっと観察する。
まるで、何かを“選んでいる”かのように。
「選定が始まった」
田中の脳内に、再びあの声が響いた。
研究者の声。
佐藤の身体を使っていた、あの存在の残響。
「我々は、融合に適した個体を選びます。条件は、精神の輪郭が明瞭であること。意識が強く、他者との関係性に深い影響を与えていること」
田中は、思わず自分の胸に手を当てた。
それは、まるで“魂の濃度”を測られているような感覚だった。
石川は、政府の対策本部で警告を発していた。
「彼らは、ただの模倣者ではありません。彼らは、人間の精神構造を解析し、最も“影響力のある魂”を選び取ろうとしている。それは、政治家かもしれない。科学者かもしれない。あるいは、ただの市井の人間かもしれない」
その言葉に、会議室はざわついた。
「つまり……彼らは、我々の“核”を奪おうとしている」
田中は、施設の中庭で一人座っていた。
空は曇り、風は冷たかった。
彼の脳内には、断続的に“選定”の声が響いていた。
「あなたは、候補の一人です。あなたの魂は、強く、孤独で、他者との関係に深い影響を与えている」
田中は、震えながら問い返した。
「……なぜ、そんなことがわかる?」
「我々は、あなたの記憶を見ました。佐藤との対話、恐怖、共感、そして哀しみ。それらは、あなたの魂の輪郭を際立たせた」
田中は、立ち上がった。
空を見上げた。
そこには、何もないはずなのに、確かに“視線”を感じた。
「選ばれるということは、奪われるということなのか?」
研究者の声は、静かに答えた。
「融合とは、消失ではありません。再構築です。あなたの魂は、我々の集合意識の中で、新たな形を得るでしょう」
田中は、言葉を失った。
それは、救いなのか。
それとも、終焉なのか。
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