2度目の転移は異世界オタクたちと準備して挑みます!
ピタ
第1話 試されるミコトと準備の始まり
「気配なんてなかった…!
――望んでもいない2度目の異世界転移から3ヶ月。
ようやく「普通の旅」が始まるはずだった。
が、戦いは、音もなく始まっていた。
帝国軍は、まるで空気の裂け目から滲み出るように現れた。
足音も、物音も、気配すらなかった。
(
音と歌を媒介に、世界の理を操る魔法。
旋律が紡ぐ術式は、風を止め、気配を消し、命さえ震わせる。
その力で、帝国兵は音もなく現れたのだ。
ミコトが乗り込んだ馬車を含むキャラバンは、森の小道でいつの間にか包囲されていた。
馬車は五台。
(あの一台だけ異様に護衛が多いから嫌な予感してたんだよね…)
重要人物でも乗っているのだろう。
「誰が乗ってるかなんて知らないけど……巻き込まれるこっちとしては、迷惑すぎるよ!」
帝国軍はざっと30人。
キャラバンの護衛はわずか10人。装備も士気も劣っていて、勝ち目はなかった。
漆黒の鎧、盾、剣、槍で武装した帝国兵は、容赦がなかった。
初動で対応できなかった護衛も、逃げようとした一般客も、もれなく切り伏せられた。
(皆殺し!? 口封じってこと……?)
この場にいる者を――誰一人として、生かして帰す気はなさそうだ。
血の色や叫び声、混乱するキャラバンの商人、乗客、護衛たちと対照的に帝国兵は淡々と襲いかかった。
そんな混乱の中でミコトは戦況を冷静に判断する。
(敵に魔法使いがいるってことだよね。相当厳しいなぁ。)
帝国軍の出現に全く気付かなかった。
足音や物音を消す神韻魔法『シレンティア』を使ったものがいるはずだからだ。
(『まずは状況把握。どんな状況でも、混乱したら立ち直せない。』局長たちの大事な教え......
ミコトは背中に背負ったロングソードの存在を確かめながら、自分に言い聞かせる。
ミコトの背丈は150センチ程度、細い体に不釣り合いな長さのロングソードを背負っている。
このロングソードには刃がない。訓練用のロングソードだ。
深い緑の外套に身を包み、フードの奥から鋭い視線で馬車の荷台から帝国兵と護衛を観察する。
自分の次の行動に頭をめぐらす。
(早く行動に移さないと......全滅しちゃう)
このまま護衛たちがやられてしまえば、キャラバン全員の死が待っている。
(『逃げられるのであれば逃げる。』
帝国兵に囲まれている。それにー
ミコトは馬車の中で怯える小さな子供を見た。
母親は必死に子供を隠すように抱きしめ、祈りの言葉を唱えている。
「お嬢ちゃん、危ないからここにいなさい!」
老人がフードの奥のミコトの顔を認めて少し驚いてから声をかけてきた。
(逃げることは、できない......か)
「ありがと......でも大丈夫」
首から下げた二股に分かれた金属を握る。
ひんやりとした感触が、ミコトを冷静にさせる。
叩けば440Hzの音を鳴らす。ギターや楽器を調律するのに使う金属。
帝国兵と戦う護衛たちを見る。
馬車の前に立つ1人の護衛が周りに声を掛けながら、孤軍奮闘している。
護衛のリーダーなのだろう。
派手ではないが、質の高そうな鎧を纏い、無精髭の30代後半に見える男は、歴戦の戦士のようだ。
(あの人たちに頑張ってもらっちゃおう)
手元の
護衛たちを見つめながらミコトは囁くように歌う。
「我らの声 打ち鳴らせ――」
音叉の基準音が空気を震わせ、風鈴のような澄んだ歌声が、音叉の音に共鳴して重なる。
一瞬の静寂。
次の瞬間、ミコトが持つ音叉を媒介し緑色の粒子が空気中に舞い上がり、紋様を描き始めた。
それはまるで、光の糸で織られた古代文字のよう。
「ー大地に火を、《ヴァレラン》」
淡く輝きながら、宙を舞い、ミコトの周りに収束する。
「あ、あなたいったい何を...!?」
馬車の乗客の視線が集まった。
護衛たちに、明らかな変化が現れた。
怯えていた者の目に、力が宿る。
死を受け入れかけていた瞳に、再び火が灯った。
それは、絶望の底から這い上がる者だけが持つ、決して折れぬ意志だった。
「……なんだ、これ……」
「身体が、軽い……!」
護衛たちが次々と声を上げる。
その声には、確かな希望と、戦う意志が込められていた。
バラバラだった隊列が、自然と整い始める。
盾を構え、剣を振るう動きに、迷いがない。
「神韻魔法使いがいるぞ!!」
帝国兵の一人が叫ぶ。
その声に、周囲の兵が一斉に警戒を強める。
(あなたたちの神韻魔法とはちょっと違うけどね......)
ミコトはそんなことを頭で呟き、意外と冷静でいられている自分に気づいて、ふと、笑った。
(怖いけど大丈夫。いや、怖い!
......きっと大丈夫......!)
ミコトは音叉を握り直し、静かに息を吐いた。
(この神韻魔法は、心に火を灯すだけ。
でも、灯った火は、誰にも消せない)
(今度こそ生き抜くんだから!)
「よし......いこーか!!」
そう思えたのは、局長たちとの出会い、「準備期間」があったからだ。
——そして、「準備期間」の始まりは、あの教室。
あの日、誰にも信じてもらえなかった。「私、異世界に行ったことがあるんです」——そう言った瞬間から、私の人生は変わった。
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