アストラリス:無力と出会い
「魔法が星のように輝く世界で、
ひとりの小さな少女の勇気が試される――」
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昨日の激しい訓練の疲れも癒えぬまま、
今朝、アストラリスの生徒たちは新たな試練に向き合っていた――
それは「魔法訓練」だった。
広々とした訓練場には、整列する生徒たちの姿。
その中で、ミラは緊張した面持ちでローブの裾をぎゅっと握っていた。
やがて、はっきりとした足音と共に一人の女性教師が姿を現す。
「えへん! 全員そろっているわね?
今日はみんなの魔法の基礎力を試す日よ。
失敗を恐れないこと――アストラリスでは、失敗さえも輝きになるのだから!」
彼女――教師のヴェガは、長いテーブルを指さす。
そこには、星の光を宿したような魔法の杖がずらりと並んでいた。
生徒たちは一人ずつ前に出て、それぞれの杖を手に取っていく。
ミラの番が来ると、彼女は震える手でおそるおそる杖を取った。
まるで落としてしまいそうなほどに、慎重に。
全員が取り終えると、ヴェガが声を張り上げた。
「さて、よく聞きなさい!
これから一対一の模擬戦を行います。
相手が『降参』するまで攻撃を続けること――
それが皆さんの魔力量を測る基準です。
ただし安心して。杖には出力制限が施されているし、
結界も張ってあるわ。怪我の心配はないわよ!」
「はーい、先生!!」
「よろしい。では最初の組、アレクサとシリウス! 前へ!」
二人の生徒が堂々と中央へ進む。
ヴェガが杖を掲げると、透明な魔法障壁が周囲を覆い、
青白い光を反射して星空のように輝いた。
「準備はいい? いち、に――」
杖が高く掲げられる。
模擬戦開始!
水と炎がぶつかり合い、
閃光のような魔力の火花が宙を走る。
ミラは息を呑みながら見つめ、鼓動が速くなる。
数分後、水は炎に飲まれた。
「勝者、シリウス! 火の制御は安定していたわ。
アレクサ、集中力をもっと高めなさい!」
次々と戦いが繰り広げられ、
観客席は歓声と魔力の爆音で満たされた。
そして――
「次、ミラ!」
その名が呼ばれた瞬間、
ミラの足取りが一段と重くなった。
中央に立った彼女の前に現れたのは、
まるで生きた岩のような巨体の男子生徒だった。
「相手、あの子?」
「かわいそうに……あんな大男と?」
「勝てるわけないよな……」
周囲の囁きが耳に刺さる。
男は鼻で笑い、ミラを見下ろした。
「はっ! 相手が子どもだと? 先生、システム間違ってんじゃねぇの?」
「間違ってないわ。これは訓練、戦争じゃないの。」
「チッ。」
杖が掲げられ――
試合開始!
巨大な火球が立て続けに放たれ、
ミラは慌てて逃げ回る。
息が荒く、額に汗が流れ落ちる。
(炎が……速い……息まで焼けそう……)
「おいガキ! 逃げてばっかか? さっさとかかってこい! ハハハハ!」
震える手で、ミラは杖を構えた。
空気が一瞬にして冷たく変わる。
杖の先から、小さな氷の粒が生まれ――儚くも美しく輝いた。
「――っ、いけぇぇぇ!!」
氷と炎が衝突。
轟音と共に煙が立ちこめる。
ミラは咳き込みながら前を見ようとする――その瞬間。
巨体の影が目前に迫っていた。
杖の先が彼女の顔を指す。
「――ストップ!!」
ヴェガの声が響き渡る。
「訓練終了! 二人とも退場!」
男は舌打ちしながら去っていった。
ミラはその場に座り込み、震える手を見つめる。
(わたし……一撃も……当てられなかった……)
彼女の心に、静かに「無力」という言葉が落ちた。
***
夕暮れのアストラリス。
空が紫に染まり、訓練を終えた生徒たちが寮へと帰っていく。
静かな廊下に、ミラの足音だけが響いていた。
「はぁ……今日は最悪。
どうして、私はこんなに弱いんだろう……」
うつむいたまま歩いていたその時。
廊下の先に、見覚えのある三つの人影が見えた。
橙色の髪をした青年と、二人の女性――。
「みんな!」
三人が同時に振り向く。
「ミラちゃん?」ユキナが驚く。
「あら、ミラちゃん?」リリアナが微笑む。
レンジは無言で見つめていた。
「どこ行くの?」
「図書館よ、ちょっと用事があってね。」ユキナが答える。
「そ、そうなんだ……あの、みんな服が違うけど?」
「私たち、実習中の教師なの。」リリアナが優しく説明する。
「えっ!? せ、先生!? ご、ごめんなさいっ!」
「気にしなくていいわ。」レンジが淡々と返す。
「ねぇ、ユキナが言ってた“オレンジ人間”ってあなたのこと?」
ミラが無邪気に尋ねると、レンジがピタリと動きを止めた。
「ユキナ……今なんて言った?」
「えっ、それは……うっかり……」
「理由を聞こうか?」
「だ、だって昨日リリィを放って帰ったんだもん! ムカついたの! 文句ある!?」
「はぁ……。次から変なあだ名つけるな。」
「アハハ、危うく第三次世界大戦だったわね。」とリリアナが笑う。
ミラはその光景を見て、胸の奥が少し温かくなった。
「ミラちゃん、あの時の試合、見てたよ。」ユキナが静かに言う。
「えっ……どうして?」
「偶然、見かけたの。」
「……そう、ですか……」
ミラの瞳に涙が滲む。
ユキナは柔らかく微笑んだ。
「でもね、君はもう十分すごい。
怖くても立ち向かった。それだけで立派だよ。」
「……ユキナさん……」
「それなら、私たちが少し教えてあげようか? 魔法の使い方。」
「えぇっ!?」レンジがすぐ反応する。
「何か問題?」ユキナが目を細める。
「ほ、本当ですかっ!?」ミラが顔を輝かせた。
「もちろん! この子に教えるの楽しそうでしょ?」
「ええ、ぜひ。」リリアナが微笑む。
「……好きにしろ。」レンジはそっぽを向きながらも、口元に小さな笑みを浮かべた。
「ありがとう……ございますっ。」
「じゃあ改めて自己紹介ね!
私はアキラボシ・ユキナ、ユキナって呼んで!」
「私はリリアナ・ツバキ、リリィでいいわ。」
「レンジ・アカマツ。レンでもいい。」
「ミラ・ユキハナですっ! よろしくお願いします、ユキナさん、リリィさん、レンさん!」
「じゃあ行こっか、もうすぐ怒られるし!」
「ミラ、授業に遅れないようにね?」
「は、はいっ!」
「じゃあね~!」ユキナが手を振り、三人は去っていく。
ミラはその背中を見送りながら、
そっと深呼吸をした。
胸の奥にまだ残る悔しさと無力さ。
けれど、今日は――
(少しだけ、明日は……優しい日になるかもしれない。)
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