第12話 ペンダント

「今の説明で分かったとは思うが、投票権を集めるという意味でも、戦力を増やすという意味でも、<役者>の仲間の数というのは重要になってくるのだ。だからこそ、貴様を勧誘したのだが……」


 はぁ……と。ウサギは俺を見て、これ見よがしに溜息をついた。


「なんだよ?」

「ネームドキャラではなさそうだし、力も使えない。何のために仲間に誘ったのやら」

「うるせぇな! 好きでこうなってるわけじゃねぇよ!」


 俺だって戦えるなら戦ってるわ! 

 でもどうしてその力が使えないのか分からないんだから、しょうがないだろ!


「なんだ? 力が使えないのか?」


 興味を惹かれたのか、今まで見守っていたパピーが意外そうな顔をする。

 それに、ウサギはあからさまに表情を作って言う。


「そのとおりだ。まったく、足を引っ張ることしかできないで、困ったものだ。おかげで私まで殺されるところだった」


「お兄ちゃん、力が使えないのー?」

「情けないなー。それでも男の子かー?」

「私が使い方を教えてあげようかー?」


「そ、そうだな。後で教えてくれるか?」


 周りではしゃいでいたガキどもが、憐れむような表情で、俺を囲んで口々に言ってくる。すっげぇムカつくんだが、こいつらたぶん悪意がないな。いや、だからこそムカつくんだが。


「力が使えないです? <役者>でそんなことがあるんです?」

「私は最初から使えたから、分からないわねー」

「オーホッホッホ! 心配することなくてよっ! 無能の一人や二人、いくらでも養ってあげますわっ! 暇ならコックの雑用でもしていなさい!」


「誠お兄ちゃんは無能なんかじゃないわっ! えっと……そうっ! 人に頼るのが上手いのよ!」

「庇ってくれてありがとう、アリス。でもそれトドメになってるんだ」


 その意思は本当にありがたいんだが、無能の証明でしかない。

 好き勝手なことを言っている奴らとは反対に、パピーは訝しむような目で俺を見ていた。


「力が使えない理由は分からないけど、でも、力自体はあるよな? 兄ちゃんからはそれだけの気配を感じるぜ?」

「そこなのだ。だからこそ私も最初は期待し、是非とも仲間に引き入れなければと思っていたのだが、蓋を開けてみればこれだ。まったく、詐欺にあった気分だ」


 やれやれと、ウサギは首を振る。

 勝手に期待して落ち込まれるとか、理不尽にもほどがあるな。


「ふぅん。――ん?」


 パピーは急に眼を細めると、クンクンと鼻を鳴らして、テーブル越しに顔を近づけてきた。

 えっ? なんだ? 俺ってにおっているのか?


 臭いと言われるかと思って、体が固まる。そんな俺の胸元に鼻を寄せて、何度か嗅ぐ仕草を見せると、パピーは離れて指を差してきた。


「なんかさ。兄ちゃんの胸元から強い気配を感じるんだけど」

「なに? ……おおっ、言われて見れば確かに。誠、胸に何か隠してないか?」


 隠しているというか、心当たりはあるが……。

 俺は胸元に仕舞っていたペンダントを取り出す。

 隣のアリスが、あらっ、と小さく声を漏らした。


「絵本のペンダントかしら? 可愛いわねっ」

「正確には、絵本型のロケットペンダントだな」


 そう答えながら、俺は本の部分を開く。


 その本に仕舞われているのは、折りたたんだ栞だ。本当は折り目も付けたくなかったが、このペンダントに仕舞うために仕方なくこうしている。いじり過ぎたら余計に痛むから、こうして取り出すのも久しぶりだ。


 俺は栞の皺を伸ばしながら、皆に説明した。


「これ、妹が学校の授業で作ったものらしいんだけどさ。俺の誕生日プレゼントを用意し忘れたからって、たまたま目についたこれを渡してきたんだよ。お兄ちゃんは本を読まないから、これを機に少しは読書でもしなよってさ。結局、本を読むこともなかったけどな」


 別に誕生日プレゼントを求めていた訳じゃないが、用意し忘れた言い訳だと分かって俺も呆れたっけな。


 当時は要らねーって思いつつも、せっかく貰ったもんだからと机の奥に仕舞っておいた。

 結衣が眠ってからふと思い出して、わざわざペンダントを用意して、こうして持ち歩いている。


 我ながら女々しいとは思うけど、嫌な気持ちになった時、ペンダントを握りしめるとなんとか頑張れた。どうでもいいと思っていた思い出の品だったが、これに俺は支えられてたんだよな。


 しかし、久しぶりにペンダントから出してみたけど、なんだか様子がおかしい。うっすらと栞が光っているような……?


「なぁ。これ、光って見え――」


 意見が聞きたくて、俺は顔を上げる。

 するとその場に居た全員が、身をのけぞらせて俺から距離を取ろうとしていた。


「え? 何だ? どうしたお前ら?」

「どうしたも何も……何も感じないのか?」


「えっ? 何が?」

「感じていないのか。鈍すぎるぞお前。その栞、何やら尋常ではない力が宿っているぞ。いや、宿っているのではないな。これは……どこかに繋がっているのか? その栞に力が送られている?」


 じっと栞を見つめながら、ウサギが自信なさげにそう呟く。

 そんな力があるのか? この栞に? 

 まさか、と笑いかけるが、ウサギの青くなった表情からそれが嘘ではないと分かる。


「本当にそんな力を感じるのか? でもこれ、妹が作ったただの栞だぞ? ぶっちゃけ紙切れだ」

「いや、兄ちゃん。マジだぞ。本から出した途端、すげぇ圧を感じた。本で封印されたみたいになっていたんだろうな。だからあたしらもそれまで気づけなかったんだ」

「お兄ちゃん。それ、本当に凄いわよっ! 私もびっくりしちゃったもの!」


 パピーは小さく震え、アリスですらどことなく引き攣った顔をしている。

 特に強いらしいこの二人でさえここまで警戒するなんて、一体どうなってるんだ?

 ううむ、と。ウサギは顎を撫でながら、難しい表情でこちらを見ていた。


「なるほどな。貴様から感じた力はこれが原因だったのか。重なっていたため分かり辛かったが、貴様には力が二つある。その栞の力と、貴様自身が持っている力だ。貴様自身の力はそう大きいものではない。だが、その栞から感じる力は……それは妹から貰ったといったな?」

「あ、ああ。そうだけど」

「ということは、その妹の力が栞に流れているのか? だとしたら……誠、お前この世界にはどうやって来た?」


 どうやって、と言われてもな……。


「たぶん病室で眠って、目が覚めたらこの世界に居たって感じだが」

「それだけか? 他に何か異変はなかったか?」


「……そういえば、深い海に沈んでいくような夢を見たな。その時、結衣の声が聞こえた気がする。私を見つけて、っていう」

「見つけて、か。なるほど。お前はどうやら自らの意志で此処へ来たのではなく、妹によって導かれたようだな。お前が普段から身につけていたその栞は、妹が作った物なのだろう? その繋がりを利用して力を送り込み、強制的に夢の世界に引きずり込んだのだ」


 結衣によって?

 俺が例外的に、アリス症候群になったのではなくて?

 混乱する俺を置いて、ウサギは続ける。


「そもそもこの世界は少女だけしか来れない世界だ。男のお前が入って来れるはずがない。だが、何者かによって狙って連れてこられたのならば、それも納得がいく。しかし、それはそれでまた新たな疑問が出てくる」


 ウサギは畏怖を隠そうともしない声で、続けた。


「本来、男は入って来れないはずのこの世界に、貴様を引きずりこむ。栞の繋がりがあったとしても、たとえアリス級の力を以てしても不可能な離れ業だ。それだけの力を持つ貴様の妹は一体何者なのだ?」


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