ライブ後①
初めてのライブが終わってから2週間、季節はすっかり秋だった。
今日はライブ後、初のスタジオ練習。
メンバーとはあの後、会っていない。
会っていないから今日会うのが少し気まずい。
なにせ、最後が誰も喋らずに帰路へ着いたあの日なのだから。
それにほのちゃんとは熱い電話を交わして以来だ。
何だか気恥ずかしい。
そんなことを考えていたら、予定より大分早くスタジオに着いてしまった。
いつもの待合スペースで時間を潰そうと、いつもの席へ向かうと、そこにはあっちゃんが居た。
「あれ!…早いね…!」
ん?
何だか、しおらしいな。
あっちゃんも気まずさとか感じるのだなと少し意外に思いながら、席に着く。
束の間の沈黙を破り、あっちゃんが話し出す。
「あのさ…!この間のライブなんだけどさ!私達、最高だったよね!!」
「…?」
「えっとー、だからさ!そんなに気にしなくていいっていうかー…そのー…あれ~おかしいな~言いたいこと考えてきたのに…」
うん?
まるで僕だけが落ち込んでいるみたいな言い草だ。
「励ますの下手過ぎない?」
後ろから菜奈さんが呆れた顔で現れた。
励ます?
みんな自分が落ち込んでるのは二の次に、僕を励まそうとしてくれているのか…!
なんて良い人たちなんだ、と感動をしていると、菜奈さんはスパッと言い放った。
「落ち込んでるの、ビジンだけだよ」
え?
僕は菜奈さんが何を言っているのか理解できない。
「その様子だと、やっぱりほのちゃん、電話で上手いこと伝えられなかったのね」
菜奈さんは優しく微笑むと全てを説明してくれた。
あの日、チェリーズのライブに衝撃を受けたのは4人とも同じだったらしい。
でも、それで「負けた」と感じたのは僕だけだったのだ。
もちろんみんな刺激は受けたようだったが、3人はジャンルの違い、活動歴によるファンの数、出順などを冷静に考慮していたみたいだ。
それらの要素を僕は一切考えず、尚且つ姉へのコンプレックスを拗らせ「負けた」と1人落ち込んでしまっていたのだ。
あの日、他の3人が落ち込んでいる様に見えたのは、僕の落ち込みっぷりを見て、気を遣ってくれていたらしい。
なんとも恥ずかしい話だ。
それで後々、ほのちゃんが3人を代表して僕に電話をしてくれたのだという。
口下手な彼女は重要な部分を伝えず、思いの丈をぶつけてしまったのだろう。
「そもそも音楽に勝ち負けなんてないのよ」
菜奈さんは僕に言い放った。
やはり菜奈さんはカッコいい人だ。
そうこうしていると、時間ギリギリにほのちゃんがやってきた。
「受付しました…いきましょう…」
ほのちゃんの顔は真っ赤だった。
僕も何だか照れる。
真相が何であれ、あの電話があったことは事実だ。
僕とほのちゃんの様子を見て、菜奈さんは言う。
「あなたたち…ほんとに電話で何話したの…?」
菜奈さんは僕の脇腹をつねり、スタジオへ向かった。
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