ライブ④
初ライブは大成功に終わった。
そう思えていたのは、最後のバンド『チェリーズ』の出番までだった。
そう、姉のバンドだ。
姉のライブはとてもじゃないが綺麗なものではなかった。
しかし、目が離せなかった。
ギターを搔きむしるように弾きながら、魂の叫びを乗せる。
全てを持っていかれた。
僕たちに何かが足りないとかではない。
まるでそれまでの全てが、姉の為の前座であったかの様だった。
そんなパワーをチェリーズは、姉は有していた。
何かを感じたのは僕だけではなかった様だ。
チェリーズの出番後、僕たちメンバーはほとんど会話をせず帰路に就いた。
4人ともチェリーズに『喰らって』しまっていたのだ。
家に着いたのは22時頃だった。
姉からチャットが来ていた。
内容は相変わらずのものだったので適当にあしらった。
こちらの気持ちもしらずに呑気なものだ。
すると数分も立たない内に電話が鳴った。
また姉かと思い、切ってやろうとスマホを手にすると、それはほのちゃんからだった。
何となく内容は分かった。
「もしもし?」
僕は電話に出ると、ほのちゃんは突然本題に入った。
「もしかしてですけど…先輩、今日負けたとか思ってません…?」
僕はドキッとした。
ほのちゃんは違うのだろうか。
「う、うん…俺らのライブは上手くいったし、練習以上のものが出せたと思うけど、最後のチェリーズが…」
「負けてないです」
ほのちゃんは僕を遮って言った。
「私たち、負けてないですから」
僕は言葉が出て来なかった。
「先輩の書いた歌詞が誰かにかき消されることはありません…確かに私の歌声は小さいですけど…でも誰よりも気持ちを込めて歌っています…今日も…そしてこれからも…だから…負けたなんて顔しないでくださいよ!!」
ほのちゃんの声は震えていた。
僕は自然と落ちていた視線を上に向けた。
そして答えた。
「ありがとう」
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