作詞①
初のスタジオ練習から数日が経ち、僕はお馴染みの体勢でノートとにらめっこをしていた。
歌詞が思い付かない…!
正直なところ、僕の歌詞は無難と言われてしまったもので完成だった。
このままじゃ埒が明かない。
外の空気を吸って来ようとコンビニへ向かった。
無難を打ち破りたい…
でもどうすれば…
何だかイライラしてきた。
そこで、コーヒーを片手にコンビニのレジに立っている僕は思い付いた。
「久しぶりにタバコでも吸ってみるか」
社会人になってから止めていたタバコを吸ってみることにした。
少なくとも、このイライラは和らぐ…かもしれないし。
学生時代からかなり値上がりをしていたことに少し驚きつつ、タバコを手にした僕は、散歩がてら最寄りの駅の喫煙所へと向かった。
久しぶりに入場する喫煙所は煙かった。
ドキドキしながらタバコを口に咥え、火を…
しまった、ライターを買っていなかった。
久しぶりすぎて、火が必要なことも忘れてしまっていたのか…
自分に失望しつつ誰かからライターを借りようと周りを見渡すと、僕は目を疑った。
菜奈さんだ。
菜奈さんがいるぞ!
僕は考えるよりも先に菜奈さんの方へ歩み寄っていた。
「菜奈さん!」
「あら!偶然だね!どうしたのこんなところで?」
「いや、ここ僕の最寄りなんですよ。菜奈さんこそどうしたんですか?」
「今日仕事でここに用があって…ほんと偶然!」
菜奈さんにライターを借り、思い出に浸る。
「いやー、懐かしいですね。学生時代よく菜奈さんと喫煙所でご一緒したのを思い出します…まさか喫煙再開の初日にお会いできるとは!」
「あら、止めてたの?どうしてまた今日」
「いや実は…」
「歌詞?」
鋭い。
さすが菜奈さんだ。
「そうなんです…書き直すって宣言したものの、全然思い浮かばなくって…」
「そう…」
菜奈さんはタバコをひと吸いしてから続ける。
「あのさ…ほのちゃんが何であなたに歌詞を書いてほしいか分かる?」
「いや…分からないです…僕が面白いとか言ってくれたんですけど、それもピンと来なくて…何かほのちゃんから聞いてるんですか?」
「ううん、何も聞いてないよ。でもやっぱり…ほのちゃん、学生時代からあなたのこと本当に…尊敬…していたものね」
ほのちゃんが?
僕を?
ますます分からない。
黙り込んでいると、菜奈さんは僕の心情を察したかのように言った。
「分からないことがあったら、本人に直接聞いてみなさい?変な気を遣っちゃうのはビジンの良いところだけど、悪いところでもあるよ?」
僕は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたと思う。
菜奈さんは一体、何がどこまで分かっているのだろうか。
気づけば2本目のタバコを吸い終わっていた。
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