第33話 新たなる胎動:独立への序曲、そして桜の反乱!?




 地元相良と焼津では、俺たちの事業はもはや単なる新興勢力ではありません。

 その影響力は地域経済の隅々まで浸透し、確固たる地位を築き上げていたのだ。


 相良油田から湧き出る油は、船を動かし、ランプを灯し、人々の暮らしを豊かに変えていった。

 焼津の工場で生産されるオイルランプは、飛ぶように売れ、新たな雇用を生み出し、地域の若者たちに希望を与えていた。


 相良商店の看板は、今や信頼と繁栄の象徴となっていた。

 その事業の中心で采配を振るう桜は、俺たちとの関係が日を追うごとに強固な絆で結ばれていくのを実感していたようだ。


 それは、彼女がこれまで依存してきた二条公爵家との関係とは全く異なる、対等で、未来を共に築く仲間としての絆だ。

 公爵家との関係は、幼い頃から当たり前のように存在し、彼女を守り、支えてくれるものだったが、それと同時に自分の先祖からの財産を奪われた悔しい思いもある。


 今まで庇護してくれた事実は同時に、彼女の行動を制限し、公爵家の意向に縛り付ける鎖でもあった。


「このままではいけない。いつまでも公爵家に庇護され、その意向に縛られるわけにはいかない」


 桜は、夜な夜な自室でそう自問自答を繰り返していた。

 窓の外は、オイルランプの明かりが灯り、活気を取り戻しつつある相良の町並みが広がってる。

 その明かり一つ一つが、彼女の心に問いかけているようだった。


 父が遺したこの地での思いを、本当に自分の手で守り、発展させることができるのか?

 公爵家の庇護の下で、果たしてそれが可能なのか?

 俺たちの技術と才覚、そして何よりもその人間性に触れるうち、彼女の中に秘められていた独立心と、この地を自らの手で切り拓くという強い意志が芽生えていた。


 桜は、俺が語る未来の知識、人々の生活を変える技術に触れるたび、胸の中に熱いものが込み上げてくるのを感じていたらしい。

 俺が目指す「文明開化」は、公爵家が思い描く「西洋化」とは根本的に異なると、彼女は理解していた。


 それは、上から与えられるものではなく、この地の土壌から、人々の手によって育まれるものだ。

 そして、その担い手は自分たちなのだと。

 しかし、いきなり公爵家との決別を宣言することは、あまりにも無謀だ。


 これまでの恩義もあるし、何より公爵家が持つ政治的・経済的な影響力は絶大だ。

 もし公爵家が敵に回れば、この事業は立ち行かなくなるかもしれない。

 相良の町が、再び苦境に立たされるかもしれない。


 そのリスクは、桜にとってあまりにも大きすぎた。

 そこで桜は、熟考の末、かつて父が信頼を置いていた執事、近藤を東京に遣わすことを決意した。


 近藤は長年二条公爵家に仕え、その内情にも通じていた。

 彼に東京での地ならしを依頼することで、公爵家との関係を円満に解消するための道を模索しようと考えた。


 それは、桜にとって、長年自分を縛り付けていた鎖を、自らの意思で断ち切る最初の一歩だった。

 ある日の夕暮れ、桜は近藤を自室に呼び出した。

 障子から漏れる夕陽が、二人の影を長く伸ばしていた。


「近藤さん、あなたにお願いしたいことがあります」


 桜の声音は、いつになく真剣で、微かな緊張を孕んでいた。

 近藤は背筋を伸ばし、桜の言葉を待った。


「これはわたくし個人のわがままではないのです。この相良と焼津の発展のため、そして何より、嶺さんたちの技術を真に世に広めるために必要なことなのです」


 桜の真剣な眼差しに、近藤は彼女の内に秘められた強い意志を感じ取った。

 彼は長年、桜の父に仕え、桜が幼い頃からその成長を見守ってきた。

 桜が、かつての父と同じように、この地の未来を真剣に考えていることを、彼は理解していた。

 そして、その決意が、どれほどの覚悟を伴うものかも。


「かしこまりました、お嬢様。この近藤、命に変えても、お嬢様のお志にお応えいたします」


 近藤は深く頭を下げた。

 彼の声には、桜への絶対的な忠誠と、この困難な使命を果たすという強い決意が込められていた。


 彼は、この若い主の未来にかける思いに、深く心を打たれたのだ。

 近藤は東京へと旅立った。

 彼の旅立ちを、桜は静かに見送った。


 彼が無事に使命を果たせるよう、心の中で深く祈りながら。

 彼の旅は、桜自身の「反乱」の始まりでもあった。

 その間、桜は地元での商いを一層盤石なものとするため、組織の引き締めを図った。


 彼女は、この事業が公爵家の庇護なしでも自立できる強固な基盤を築く必要性を感じていたのだ。


 まず、焼津に新たな拠点を設けることにし、そこを「相良商店」と名付けた。

 これは、相良と焼津を統合した、統一的な事業体であることを示すためだ。


 そして、この相良商店を中核として、相良油田、相良造船、そして焼津での商いを一手に担う焼津商会をその傘下に治め、まだ、外には商売はしていないが、縫製工場までもが形だけでも地方企業グループを形成させた。


 各事業体の責任者を明確にし、効率的な連携を促すことで、組織全体の生産性と安定性を高めようとした。

 それぞれの事業が独立採算制を意識しつつも、相良商店の統制の下で有機的に結合する。

 それは、この時代にはまだ珍しい、近代的な経営手法だ。


(「まさに、桜による『グループ会社化』の始まりだ!」)

 桜のこの大胆な経営戦略に、俺は感嘆したね。

(『この美少女、経営の才能もハンパねぇ!』)

 彼女は、ただの旧家の令嬢ではないね。


 冷静な判断力と、未来を見据える視点、そして何よりも困難を恐れない胆力を持ち合わせていた。

(『俺の『童貞魔法』も霞むほどのカリスマ性だぜ!』)


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