第32話 工作機械研究と溶接技術の衝撃
今では、おやっさん(権蔵さん)も芝島夫婦も、今では造船やエンジンそのものの製造には携わることなく、もっぱら工作機械の研究製造に注力していた。
彼らの仕事は、事業の根幹を支えるものへと進化していた。
精製された油とオイルランプ、そしてエンジン駆動船。
これら全てを支えるには、高品質な部品を大量に、かつ効率的に製造する手段が不可欠だ。
「権蔵さん、この旋盤では、もっと複雑な部品を削り出すのが難しい。どうにか、より高精度で、より大型のものが作れないか?」
俺の問いに、権蔵さんは目を輝かせて答えました。
「任せてください、嶺さんや。この間、娘夫婦と夜通しで考えていたんですが、この方式を取り入れれば、もっと精度が上がるはずです!」
権蔵さんの工房からは、昼夜を問わず、金属を打ち、削る音が響き渡っていた。
彼は、俺が持ち込んだ現代の工作機械の設計図を貪るように研究し、この時代の技術で再現可能な範囲で、最高の性能を引き出そうと試行錯誤を繰り返していました。
ある時、俺が工房を訪れた際、権蔵さんと芝島夫婦が金属部品の接合に苦労しているのを見かけた。
彼らは、リベット打ちや鍛接といった鎧兜などの製造工程で伝統的に使われていた方法で部品を繋ぎ合わせようとしていましたが、どうしても強度や精度に限界があった。
「これは、溶接という技術を使えば、もっと簡単に、そして頑丈にできるんですが……」
俺が何気なく口にすると、権蔵さんたちの目がキラリと輝きました。
「溶接、ですか?それは一体どのような技術ですかな?」
権蔵さんが前のめりになって尋ねてきた。
俺は、電気溶接の原理を簡単に説明した。
金属を電気のアーク熱で溶かし、一体化させるという現代の常識を、この時代の彼らに理解させるのは至難の業だったが、権蔵さんたちの探求心は並々ならぬものがあった。
「これは……もしそれが本当なら、今までの金属加工の常識が変わる!」
権蔵さんの興奮は尋常ではなかった。
芝島夫婦も、その話に強く引きつけられている様子だった。
彼らは、これまでの経験から、金属加工の限界を痛感していたため、桜が語る「溶接」という未知の技術に、大きな可能性を感じ取ったのだろう。
桜は、彼らのただならぬ興味に驚きつつも、ここがチャンスだと直感した。
「実は、高専に納品予定だった電気溶接セット一式がEV車の中にあるんです。試しに、実演してみましょうか?」
俺が提案すると、権蔵さんたちは目を丸くして頷いた。
早速、EV車から電気溶接セット一式を取り出し、簡単な実演を行った。
アークの閃光が眩しく、バチバチと音を立てながら金属が溶け合っていく光景は、彼らにとってはまさに魔法のようだった。
これまで彼らが経験してきた金属加工の常識を覆す、衝撃的な光景だ。
実演を見た後、権蔵さんだけでなく、芝島夫婦も溶接に興味を持ち、ことあるたびに溶接を学んでいくようになった。
俺は、簡単な溶接技術や安全対策について指導し、彼らはまるで新しい遊びを覚えた子供のように、夢中になって溶接の練習を始めた。
彼らの手は、最初は不慣れでぎこちなかったものの、その探求心と職人としての腕は確かで、みるみるうちに溶接技術を習得していった。
彼らのいる工房には、溶接特有の香りが漂うようになった。
そのうち、ただ溶接するだけでは物足りなくなり、彼らは何かを作りたそうにしていた。
彼らの創造性が刺激され、新たなものを生み出したいという欲求が芽生えたのだろう。
そこで、俺は彼らに新たな大きな目標を提案してみることにしました。
「鉄で溶接を使い船を作りませんか。エンジンを載せた船を始めから作ってみませんか」
俺の提案に、権蔵さんたちの顔に驚きと興奮が混じった表情が浮かべた。
鉄の船、しかもエンジンを載せた船。それは、この時代の造船技術からすれば、まさに夢のような話だ。
木造船が主流の時代に、鉄の船を造るという発想は、彼らの想像をはるかに超えていた。
俺は、参考までに小さ目なクルーザーの図面をCADから出して、その他クルーザーの様子を描いた絵なども多数渡し、研究させた。
流線型の美しい船体、居住性の高い船室、そして高性能なエンジン。
それらの図面や絵は、彼らにとって、まさに未来の乗り物そのものだ。
もちろん、そう簡単に実現できそうにない夢のような計画だ。
しかし、権蔵さんたちは、その挑戦に燃えていた。
工作機械製造の傍ら、彼らは鉄の船の建造に関する研究を続けている。
彼らの工房の一角には、クルーザーの図面や、溶接で試作された鉄板の模型などが所狭しと並べられるようになった。
近々の課題は、エンジンの製造が間に合っていないことだ。
需要の爆発的な増加に対し、生産能力が追いつかない状況だ。
エンジンの増産にも、他の事業拡大においても、その元となる工作機械が足りていないし、性能面でも不満があった。
手作業では限界がある。より多くの、より高性能な工作機械が必要だ。
権蔵さんはその改良に全力で取り組んでもらっている。
彼の工房からは、昼夜を問わず、金属を打ち、削る音が響き渡ってた。
俺の、そしてこの地の未来を乗せた機械たちが、今、この場所で生み出されようとしていた。
(俺の童貞魔法が、ついに日本の産業革命を巻き起こそうとしていました。次の課題は、さらに高性能な工作機械の開発か……燃えてきたぜ!そして、いつかこの工作機械で、俺専用の「童貞卒業マシン」とか作れないかな……?)
俺は、そんな下世話なことを考えながら、それでも目の前の、そしてその先の壮大な未来に、胸を躍らせていた。
彼らの事業は、単なるビジネスの枠を超え、この国の産業と文化、そして人々の生活を根本から変革する、壮大な文明開化の波を起こそうとしていたのだ。
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