第25話 幸の懸念と新たな工場計画、そして「もったいない」精神の覚醒!




 相良の陣屋跡での精油作業は、ますます活発になっていた。

 庭先では、若い衆が汗を流しながら、釜から湯気を立ち上らせ、採れたばかりの原油をかき混ぜている。

 そんな光景を、幸はいつになく複雑な表情で見つめていた。


「主任、あれって、もったいなくありませんかね」


 ある日の午後、幸がぽつりと呟いた。

 彼の視線の先には、精製作業の際に排出される、薄茶色い油膜が張った水たまりがあった。


「もったいない?」


 俺は首を傾げた。


「あれ、ガソリンを捨てているのでしょう?」


 幸の言葉に、俺はハッとした。

 確かに、この原始的な精製方法では、揮発性の高いガソリン成分は、そのまま湯気と共に大気中に放出されている。

 それは、貴重な資源を無駄にしていることに他ならない。


(しまった!童貞魔法使いなのに、SDGsを忘れていた!これでは未来の環境活動家に怒られてしまう!)


「そうだな……。ガソリンを捨てないようにするには、蒸留器が必要だな」


 俺が呟くと、幸は目を輝かせた。


「あれって、作れませんか?」


 希望に満ちた幸の言葉に、俺は少し困惑した。


「いや、作っても設置場所がないでしょ。今の蒸留だって陣屋の庭先でおこなっているのだから。それに、蒸留器を設置するとなると、もっと大掛かりな設備が必要になる」


 俺の言葉に、幸は少し肩を落とした。

 しかし、すぐに彼は顔を上げ、別の提案をした。


「それなら、いっそのこと、そろそろきちんとした工場を作りましょうか?商売の方も順調に伸びてきていますし、資金にも余裕が出そうです」


 幸の言葉に、俺は目を見開いた。

 確かに、今の精油方法は、効率的とは言えない。


 それに、これからの事業拡大を考えれば、ちゃんとした工場が必要になることは明らかだった。

(幸、まさかここまで見越していたとは!できる女だぜ!もはや俺の秘書というより、俺の未来の経営パートナーだな!そして、あわよくば……!)


 幸は、すぐに桜の元へと向かい、原油の精製工場を建設することを提案した。

 桜は、事業の拡大と、より効率的な生産体制の確立の必要性を理解し、その提案を快く許可してくれた。


 これで、俺たちの「文明開化」は、新たなステージへと進むことになる。


 


 桜の許可が下りると、陣屋に新たな建物を建設するための計画が動き出した。

 駿府から、この手の建設に詳しい職人たちが派遣され、俺たちは彼らと相談を始めた。


「新しい工場は、丈夫な洋館のような作りにしたい」という桜の意向があり、その実現には大量のレンガが必要になる、という話になった。


 職人たちの言葉に、俺は頭を悩ませた。

 レンガを駿府から運ぶとなると、莫大な費用と時間がかかる。

 その時、黙って話を聞いていた俺が、すっと手を上げた。


「それなら、レンガを作りましょう」


 俺の言葉に、皆が驚きの声を上げた。

 レンガを作るなど、我々素人が簡単にできることではない。

 しかし、俺の表情は真剣そのものだった。


(なぜなら俺は、この世界に童貞魔法の力を知らしめる使命を帯びているからだ!もちろん、未来知識チートの力もな!)


 俺は、早速行動に移した。

 彼は、近くの川から粘土を採取し、河原に簡単な窯を作り、レンガ作りの実験を始めた。


 幸いにも、相良の油田からは燃料だけは十分に確保できる。芝島夫婦に頼み、簡単なコンロを作ってもらい、それを窯にセットした。


 俺は、採取した粘土をこね、型に流し込み、窯で焼き始めた。

 最初はなかなかうまくいかなかったが、俺は決して諦めなかった。

 彼は、何度失敗しても、粘り強く試行錯誤を繰り返した。


 そして、ついに、十分に使えるレンガができたのだ。

(これぞ、童貞錬金術師の真骨頂!俺は、泥から金を生み出すぜ!……いや、レンガだけどな!)


 俺が作ったレンガは、すぐに駿府から来てもらった職人にも確認してもらった。

 職人たちは、その品質の高さに驚き、これなら工場を作れると太鼓判を押してくれた。


 こうして、桜の商売に、軽油、オイルランプに続き、レンガも加わった瞬間だった。

 相良の地から生まれる新たな産業は、着実に広がりを見せていた。


 一連の出来事を振り返り、俺は感慨深げに呟いた。


「渋沢栄一が、なぜあれほどの事業を起こし、それも多岐にわたる業種だったのかを理解した。彼は、自分が必要なものが欲しくて作っていったんだ。今の俺たちの様に……」


 俺の言葉に、俺は深く頷いた。

 近代日本の礎を築いた渋沢栄-もまた、自らの必要性から、そして社会の発展のために、多くの事業を手掛けていった。


 今、俺たちがやっていることも、まさにそれと同じことだった。

 相良の油田は、単なる油を産出する場所ではない。


 そこから、新しい技術が生まれ、新しい産業が育ち、そして新しい未来が創造されようとしていた。


(俺の童貞魔法が、ついに日本の近代化を加速させる……のか?まだまだ、俺たちの冒険は終わらないぜ!そして、俺の童貞もな!)




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