第4話 卒業という名の別れ

卒業式当日、桜は満開だった。


 薄紅色の花びらが春風に舞って、まるで私たちの門出を祝福してくれているようだった。でも、私の心は全く晴れやかではなかった。


 体育館での卒業式では、校長先生の話も、来賓の方々の祝辞も、まるで遠くから聞こえる音のようだった。私はただ、前に座る拓海くんの後ろ姿を見つめていた。


 もう、彼と同じ教室で過ごすことはない。毎日当たり前のように見ていた彼の横顔も、今日で最後になってしまう。


 式が終わって教室に戻ると、みんなで写真を撮ったり、連絡先を交換したりと、別れを惜しむ時間が始まった。


「美咲ちゃん、拓海くんに話しかけないの?」


 麻衣が小声で聞いてきた。私は首を横に振った。


「もういいの」


「えー、なんで?せっかくのチャンスなのに」


 麻衣には、拓海くんに彼女がいることを話していなかった。話したところで、どうにもならないことだったから。


 彼は友達と楽しそうに話している。時々見える笑顔は、私が三年間見続けてきた、あの優しい笑顔そのものだった。


 きっと彼は、私が彼を好きだったことなんて、これっぽっちも知らないだろう。それでいいのだと思った。知らないまま、お互いに新しい道を歩んでいけばいい。


 教室を出る時、私は最後に振り返って拓海くんを見た。彼は相変わらず友達と談笑している。その姿を記憶に焼き付けて、私は教室を後にした。


 家に帰って制服を脱ぎながら、長かった高校生活が本当に終わったのだと実感した。そして、私の初恋も、今日で終わったのだと思った。


 でも、不思議と清々しい気持ちもあった。想いを伝えることはできなかったけれど、三年間、誰かをこんなにも深く想えたということは、きっと私にとって大切な宝物になるのだろう。


 机の引き出しの奥にしまった手紙のことを思い出した。あの手紙は、私の青春の証だった。送れなかった想いの全てが込められた、大切な思い出だった。

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