十二夜 ハード系じゃニャイト
「ジ・オ・ジ・オ、のパン屋! テンテ、ここですにゃ!」
クリスが張り切っている。
そしてパンの焼ける良い香りが店の外まで漂っている。
「ふむ、お腹はいっぱいにゃが、夕飯のパンを買うか」
カランコロン♪
「らっしゃい♪」
「いい匂いにゃ♪」
鬣が立派なライオン種の主人。パン屋に似つかわしい巨躯にゃ。でもふりふりエプロンとのギャップがなんとも可愛らしいにゃ。名札も似顔絵と丸い字体でジオジオと書いていて可愛らしい。
「ご主人、ここはパン屋かにゃ?」
「観てわかんにゃーか?」
「⋯⋯ハード系のパンが美味しそうにゃ」
「よく分かってんじゃにゃーか」
「このクロワッサンにゃんかはとても猫技じゃにゃーにゃ。これ、いったい何層折り込んだにゃ?」
「二百層はあるにゃ。そこまでうちのパンのことが解るにゃんて、ただ猫じゃにゃーにゃ」
「最近よく言われるにゃが、ただのぐ~たら猫にゃ。かいかぶらにゃいでほしーにゃ」
「で、聴いて来たんにゃね? どんなのが欲しいにゃ?」
「耳の部分は香ばしくて、中はふんわりが基調で、ちぎれる時にもっちり粘りがある山食はあるにゃか?」
「さすが良いセンスしてるにゃね⋯⋯って、おいっ!? 武具の相談に来たんじゃにゃーのか?」
⋯⋯パンに夢中ににゃっていたのは内緒にゃ。
「実は⋯⋯クリス」
「どうも、お世話ににゃりますにゃ」
「この子に合う初心者用の武器を探しているにゃ」
「わざわざこんにゃところまで来るくれぇにゃ。他所は全部観て来たってことにゃね」
「ああ。街の有名な商店や鍛冶屋はあらかた回ったにゃがダメにゃ、どれも見かけ倒しでめぼしいのがにゃかったにゃ」
「大手の商品を堂々とダメだと言ってのけるその目利き。初心者が扱う最初の武器の大切さを知っているみたいにゃ」
「初心者の武器ってのはとにかく手の馴染みが良く、癖がないものが良いにゃ。武器は育てるものにゃよ」
⋯⋯ジオジオがニンマリと笑った。
「大手の商店やそれに準ずる鍛冶屋は、今の流行りをすぐに取り入れて、人気商品ばかりを取り扱うようににゃったにゃ。俺はそんなトレンドに流されがちの販売戦略に嫌気が差して、鞍替えしてパン屋を開いたにゃ。しかし、ひいきにしてくれていた冒険者が困っているのを見て、さすがに申し訳なく思ったにゃ。にゃので、俺を頼って来てくれるお客だけ取引しているにゃ」
「俺は順風満腹亭の客、ブッチさんに紹介してもらったにゃ。女将もここなら間違いにゃいと太鼓判を推してもらったにゃ」
「ブッチさんと女将の紹介ですか。それはそれは、邪険に出来んにゃ。坊主、こっち来いにゃ」
「はいにゃ!」
クリスはジオジオの気圧に少し圧されながらも店の奥に入って行った。俺もついて行くにゃが、ジオジオはクリスの腕の採寸を細かく始めたようにゃ。今までの店ではにゃかったにゃ工程にゃ。
「おまえ、クリスと言ったか⋯⋯」
「はいにゃ」
「本当に武器を使うにゃか?」
「使うにゃ!」
「そうか⋯⋯猫の事情までは聴きゃあしにゃーが、無理はするにゃよ?」
「ありがとうにゃ!」
手を見りゃ猫が解ると言う鍛冶屋職人。どうやら当たりのようにゃ。
「こいつの手に合うグローブの部分はすぐ調整するにゃ。爪の部分は通常よりも細身の爪を使うにゃ。軽くて丈夫にゃものを。先はシャープにしておくにゃ。防具の上から、あるいは甲殻系のモンスターには刃が立たにゃいと思いにゃ? そんにゃ相手の場合は関節部を狙え。皮膚が硬そうにゃ相手には刺突攻撃が有効にゃ。忘れるにゃよ?」
「ありがとうにゃ!」
戦闘を教えるにあたって、クリスは本当に従順で飲み込みが早いにゃ。力はにゃいがスピードや柔軟性はにゃかにやゃかにゃ。それを活かした武器、的確にゃ見立てにゃね。
「さて⋯⋯作業に入るにゃ。店の方に丸椅子があるにゃ」
ジオジオは炉に向かうと俺たちに退室を促したにゃ。これから集中するから出ていけと言うことにゃね。
ゴウ、と炉の火力が一気に強まる。
カーン、カーン、カーン⋯⋯。
小気味よい音が響き渡る。迷いがない、一定のリズム、音に濁りもない。間違いなく良い職人にゃね。
「おい⋯⋯」
「ああ、出ていくにゃよ。頼んだぜにゃ」
「おう!」
ジオジオは一瞬頬の筋肉を持ち上げると、大きくハンマーを振り上げた。
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