8-2
新人が話せないので、クラッシュは一人で順序立てて話して聞かせた。
普段から誰にでも話しかけるクラッシュは、一年程前、就職してきたばかりのショーンにも話しかけたこと。入口で顔を合わせるだけの関係なので毎回長話はしなかったが、気が合って何度か食事にも行ったこと。過去の話にはならなかったので、犯罪歴などは知らなかったこと。
「レディの残したファイルには何か意味があるんじゃないかと思った。ハック達と違って俺は暇しているだけだったからな。ずっと眺めていたら、レディがビルを出入りする何人かを要注意人物として炙り出していたことに気づいたんだ。その中にショーンもいた。あいつと同じ気持ちさ。驚いた。まさかと思った。今夜ビルへ戻って、会うなんてことも予想してなかった。でも会ったなら、レディの疑いは本当だろうと思った。エレベーターで来るなんてど素人だから、早めに気づけて運がよかったけどな」
だから、彼は銃を下ろさなかった。
「気づかなくても君は悪くない。気づいたのはレディだけだ。先に情報を与えていなかった俺が悪い。確証がなかったんだ」
「それでも私が撃てばよかったです」
「どうして?」
クラッシュは意外そうにする。
「ショーンとまだそれほど親しくなかったからです」
彼は破顔した。
「俺は自分の嫌なことを君にさせる気はないぜ。任務上、俺に無理なときは頼むけどな」
「嫌なことこそ押し付けてくださいよ! クラッシュにできないことなんてないんですから!」
「そんなことしたらパワハラになるだろ!? 入職して三日で二度も泣かせるなんて、一般企業ならただでさえ問題だろうに! なんてこと言うんだ、勘弁してくれ!」
新人は真剣だったが、クラッシュはクラッシュで必死だ。
「だって、友達を撃つのは辛いじゃないですか。次は私に言ってください」
彼女は引き下がらない。彼は自分からは決して弱みを見せないだろうと思うから。
「友達か。この仕事をするなら友達も家族も持たない方がいいんだろうが。俺は人間が好きだし話すのも好きだから、友達を作るのはやめられない。偽名を使って嘘の情報しか与えてない関係が友達と呼べるのかは分からないがな」
クラッシュは自嘲する。
ちゃんと友達だったから、聞いているだけでこんなにも悲しいんじゃないかと新人は思った。
「ショーンはどうなるんですか」
「NSB職員が回収に行ったぜ」
「でもあのビルには入れないんじゃないんですか」
「近くでちょっとした騒動を起こして警官を呼び寄せればいいんだ。その隙に出入りできる」
「そういうものですか」
「もうほしい情報は手に入ったから何でもいいんだ」
「ショーンを尋問するってことですか」
「いや、あいつからは大した情報は出ないだろう。それよりもスマホだ。『チーム』に連絡する手段が手に入った」
ハックがクラッシュを呼ぶ。
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