6-5

「そういえばUXが戻ってる。一つ下の階の部屋だ。お前に伝えておいてくれと頼まれた」

 ひとしきり笑い終えるとスナイプに告げられる。

「そうか、ありがとう。ちょっと行ってくるからその間新人くんを頼む」

「了解」

 クラッシュはひょいと部屋を出ていき、UXのいるらしい部屋のドアを叩いた。廊下で待っていると微かにドアスコープを覗く気配がして、鍵が開く。クラッシュが銃を構えてドアノブを引けば、ドアはチェーンで阻まれ隙間からは銃口を向けられた。眼鏡の奥の灰色の瞳と目が合う。

「俺だ、クラッシュだぜ」

 クラッシュは笑って銃を胸ポケットに仕舞い、両手を上げてみせた。一度ドアが閉められ、チェーンが外され再び開かれる。

「新人くんも早くこうなるといいんだけどな」

 部屋の中へするりと体を滑り込ませた。

「あら、新人くんはどんな感じなの?」

 UXも拳銃を仕舞いながら背を向け、部屋の奥へ進んでいく。

「ドアをドラムのように叩くと起きたままの姿で全開放してくれるな」

 UXは大きな口を開けて笑った。

「素直な子だから貴方が教えてあげればきっとすぐにできるようになるわよ。警察学校での成績は良いと聞いてるもの」

「骨が折れる。俺は入ったときから元々あんなに無警戒じゃなかったから、どこまで教え込めば生き延びられるようになるのか見当もつかない」

「全部よ。二十年生きてきた環境が違うんだから仕方ないのは分かるでしょう。育ちきれば楽になるのは貴方よ」

「そうだな。何か淹れるか?」

「ドリップコーヒーにしてちょうだい」

「了解」

 クラッシュは電気ポットに水を入れ、電源を入れる。UXはテーブルに戻り、パソコンを眺めていた。

「大体、貴方だって元からできていたような顔をしているけれど仕事を教えるのは大変だったってレディから聞かされてるわ」

「今それを言うのか? また失敗談を挙げ連ねるのは勘弁してくれ。分かったよ」

 クラッシュは両手を挙げて降参のポーズ。お湯が沸き、カップに組んだコーヒーフィルターに注いでいく。

「新人くんは今どうしてるの?」

「寝てる。スナイプに頼んである」

 UXはふふふ、と口元を押さえて笑った。

「本当に面白い子ね。貴方もよくやってるわね」

 クラッシュは眉を上げる。

「驚くよな。新人くんは何も知らないが、言えば何でもできるから感心する」

「貴方は人前で寝ないものね」

「俺はもうそういう風に生きてきたから無理だな」

 UXの前に出来上がったコーヒーを置いた。

「……昼間は怒鳴って悪かった」

 お礼を言ってカップに口を付けようとしていたUXは、ぽつりと落とされた謝罪に微笑んでカップをソーサーに戻す。

「あら、私がそんなことで怒ると思ってるの?」

 クラッシュはちょっと目を見張った後で口を尖らせ、居心地悪そうにUXに目を合わせながら少しずつ言葉を零した。

「あんたが許す許さないじゃなく、俺が反省したんだ。受け取ってくれないか。あんたが考え無しだなんて思ってた訳じゃない。俺の八つ当たりだった。本心じゃない」

「クラッシュ。顔を上げて」

 UXは穏やかに彼を呼び、悪戯っぽく口角を上げる。

「演技が得意とは思えない表情をしているわね。私も貴方があそこまで動揺するとは思っていなかったわ」

「じゃあ俺が今何考えてるかも分かるか? 正解は『一刻も早くこの部屋から逃げ出したい』だ」

 UXはくすくすと笑ってカップに口を付けた。

「おいしいコーヒーをありがとう。貴方だってまだ若い。世界の命運が懸かってない失敗なんていくらでもすればいいのよ」

 クラッシュはふっと気が抜けたように笑った。

「そりゃ、あんたに比べれば若いだろうけど」

「歳を取るって良いことよ。体は辛いけれど生きるのは楽になるわ」

 UXは片目を閉じる。

「もう行きなさい。新人くんをスナイプに任せてきたんでしょう」

「俺に用事があったんじゃないのか?」

「いいえ。貴方が私に謝りたいだろうと思って」

 彼はいよいよこの女が怖くなってばりばりと頭を掻いた。

「お言葉に甘えて退散するぜ! じゃあな!」

「はいはい」

 大股で部屋を横切るのを見送ると乱雑にドアが閉められる。静かになった部屋でUXはゆっくりとコーヒーを楽しんだ。

 本当は彼にレディをどう思っているのか興味本位で聞いてからかってみたかったのだが、彼はどうせいつものように質問を質問で返して真面目に答えないだろう。それに、レディの部下たちが彼らを大事に見守っているようなので、踏み込むのは無粋かと思い直したのだった。

「ああ、でもやっぱり聞いてみたかったわ! 若いって良いわね」

 UXは嘆いてパソコン作業を再開した。

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