6-2
「クラッシュは食欲無くなったりしないんですか」
ハンバーガーを三口くらいで食べきってポテトを摘んでいる彼を見て、新人は言う。
「すみません、失言でした」
そしてすぐさま謝った。出会ってからどんな窮地でも常にへらへら笑顔を絶やさなかった彼が、あれだけ激昂していたのだ。平常心の訳がない。
「別に構わないぜ。君、レディも今頃お腹空かせてるんじゃないかなあ、とかそういうこと考えてるだろう。考えても仕方のないことは考えないことにしているんだ。助けたときに、腹いっぱいに食わせてやる。俺が腹を空かせて力が出なくなればレディが助かる訳じゃないからな」
クラッシュはまたポテトを三、四本口へ放り込んだ。
普通は、そう割り切れるものじゃないだろう。
「クラッシュって、あまり人間らしくないですよね」
「それ褒めてるのか?」
クラッシュはおかしそうに体を揺らした。
「そもそも、レディが泣いてるところなんて想像付かないんだよな」
咥えたポテトを煙草のように行儀悪く上下させながら言う。
「きっと今頃、テロリスト連中を逆に脅しつけて俺たちが見つける時間を稼いでるさ」
「そんなことできるんですか?!」
クラッシュは微笑む。
「信じられないくらい気が強いからな」
新人には想像も付かない。
「新人くんは歳は二十二だろう」
「そうですね。もうすぐ二十三になります」
「レディはUXがスカウトしてきたんだそうだ。新人くんと同じように大学を卒業してすぐに入職したが、二年ほどスキップしていて。当時、十八歳だった」
「若……。え? 若いですね。レディって今いくつですか」
「若く見えなかったか?」
「いえ、指揮官なのでもっと年配を想像していたら、会った時に思ったより若いとは思いましたが」
「声が若かっただろう。通信が混んで複数が一斉に話しているとあの通る声が聞きやすくて助かるんだ。俺たちは誰よりも彼女の指示を聞かなきゃならないからな」
ポテトを食べきってしまったクラッシュはコーラをストローで吸い上げる。
「話が逸れたが、女性の年齢なんてトップシークレット、俺の口からはとても言えない。本人に聞いてくれ」
「そこまで喋っておいて今更」
おどけたクラッシュに新人は真剣に話を聞いていた自分が馬鹿馬鹿しくなってきて、パスタを勢いよくフォークで突き刺した。
「冗談だ。入って十年くらいらしいから二十代なんじゃないか?」
「覚えてないんですね」
彼自身が何年も三十歳を自称しているらしいのは、自分の年齢を覚えていないんじゃないかということまで疑えてくる。興味のあることとないことに極端な偏りのあるクラッシュならあり得ない話じゃない。
「まあ、それでだ。当時のレディは君と変わらない年齢の訳だ。新人くんは任務が命懸けだってことに驚いていたが、逆に考えてみろ。君は自分が会議室にいて、部下に命を懸けろと命令できるか?」
自分の指示が、人の生死を分ける。
「できません。絶対に無理です」
新人は強く首を横に振った。
「俺も無理だ」
「でも、レディはそれをやってる?」
「入職してからずっとな」
新人はソファにもたれ、天を仰いだ。
途方もない。偉大だ。
「人間じゃない……」
クラッシュは噴き出した。
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