5-2
「聞こえているわ。叫ばないで」
UXは表情を変えず、クラッシュに向き合った。
「レディはどこにいる」
殺気立つクラッシュがUXに詰め寄る。新人はというとこの場が恐ろしいし気まずくて仕方なかったが、勝手に離れる訳にもいかずおろおろと行く末を見守っていた。
クラッシュはUXを敬っているんじゃなかったのか。もはや彼女の頭には唸るシェパードが思い浮かんでいる。警察学校にいた頃に警察犬の訓練の様子を一度見かけたが、いつでも飛びかかれる状態の彼らは怖かったものだ。
「結論を言うなら、私には分からない。落ち着きなさい、ジェイス」
この場でその声量を出す人間に話せる話題はないわ、とUXは彼を睨め上げた。たしかに周囲の人々は、「ボス!」と叫んだクラッシュとUXを不躾に見ないようにはしているものの、何事かと気にしているようだ。UXの口からビル内でクラッシュが使っている偽名が出たことからも、彼女の方が冷静なのは明らかだった。
「分からないって何だ、会議室を出たならあんたの隣りを通っただろう。何があった」
苛立ちを隠さないクラッシュはUXに覆い被さらんばかりに上半身を折って囁き、質問攻めにする。
「このビルの爆破予告が届いたの。真偽は定かではなかったけれどビル内にいた人間は念のため避難するように指示し、私たちは皆ここへ出てきたわ」
「で、彼女はどこにいる」
「ごめんなさいね、本当に分からないのよ。皆降りるのに階段を使ったし、私は足が遅いから部下たちと一番最後に部屋を出たわ。あの子がこの中に残っていることはない。
『UX、今は任務中なのでサポートできなくてごめんなさい』、そう言ってパソコンと通信機器を腕いっぱいに抱えて先に出ていった。貴方たちを指揮している最中なのは分かっていたから邪魔しないで見送ったの。出てきたら、あの子が見当たらなかった」
「それなら、インターネットカフェにでも移動したんじゃないのか。子供じゃないんだ、自分の意思で動くさ」
クラッシュたちに指示を出すため、ビルを追い出されたレディには通信環境が必要だったはずだ。クラッシュは安堵しかけた。
「これを見てもそう思う?」
UXの視線を追ってスナイプの抱えている物を見るまでは。
クラッシュは息を飲む。新人も口元を覆った。
スクリーンとキーボードの境目で、真っ二つに割れたパソコン。黒手袋が、そのスクリーンの方をスナイプの手から受け取る。さり、とパソコンの背を撫でた指先が僅かに震えているのを新人は見た。
「そこの植え込みに投げ込まれていたのを見つけたわ」
UXが固い声で言う。
そのとき、爆発音が轟き地響きがした。
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