2-7

「クラッシュ。UXに失礼よ。全く、それのどこが敬ってるっていうのよ」

 レディがいち早く取り繕って言う。クラッシュがこの部屋に入る際にUXに話した言葉を取り上げて嗜めた。

「君も笑ってたじゃないか」

「笑ってないわ」

 クラッシュが首を竦めて新人を見る。だからさっきから喧嘩に巻き込むのはやめてほしい、と新人はどっちの味方もしないよう無表情を装った。

「そうだ、みんなのコードネームも紹介しておかないとな。こちらが俺たちのリーダー、『レディ・フローレス』。新人くんをスカウトしたのもレディだからもう話したことはあるな?」

「はい、よろしくお願いします!」

 クラッシュに紹介され、新人はレディの前で背筋を伸ばす。

「改めてよろしく、新人くん。私がいつも任務の作戦を立てているわ。その呼び名は私から名乗った訳じゃないけれど、好きに呼んでね。私の作戦は絶対に失敗しないの。貴女も作戦通りに動けば必ずうまくいくから、安心して任務をこなせばいいわ」

 レディはにこにこと微笑みながら新人の手を握ったが、新人はむしろプレッシャーを感じた。レディ・フローレスとは、つまりは「完全無欠女」の意だ。そんな呼び名を周囲から付けられるなんてよほど有能なのが分かる一方で、完璧というのは人間らしさがないとも取れる。勝手な想像に過ぎないが、失敗したら自分は切り捨てられるのかもしれない、と内心怯えた。

「レディの作戦が完璧だっていうことに異議はないが、いつも無茶な要求に完璧に応えてるのは誰だ? 昨日だって、パーティーの一時間前になって急遽新人くんも潜入させることにしたから俺の持ってる招待状を譲れって言われたんだぜ。作戦通りに前もって招待客を一人眠らせて確保しておいたのに」

「新人くんにいきなり自分で招待状を入手しろっていうのは酷だけど、貴方はどうとでもできるでしょう。私はちゃんと個人の力量を見極めて采配しているわ」

「まったく、俺がいないと何もできないなあ!」

 クラッシュが上から体重を掛けて嬉しそうにレディと肩を組んで、嫌悪感を露わにしたレディに払い落とされる。昨日、暗証番号式のコインロッカーに入っていた招待状はクラッシュが用意してくれたものだったのか、と新人は初めて知った。自分はクラッシュに振り回されているが、クラッシュもまたレディに振り回されているのだと思うと胸が空く。

「あー、他の奴の紹介に移ろう。ああ、その前に、君はバーガーを食べたらどうだ? 俺がせっかく奢ったんだから冷めないうちに食べてくれ」

 クラッシュに提案され、新人は納得できない表情で近くの席に着いた。誰が初出勤の場で、次々と知らない人間が自分に紹介されている状況でハンバーガーを食べはじめられるというのだろう。クラッシュと過ごすなら、この急発進急ブレーキのような会話に慣れないといけないのだろうか。

「……いただきます!」

「どうぞ〜」

 クラッシュが笑顔で促す。考えるのをやめた新人は、周りの目を気にせず包み紙を剥がしてハンバーガーにかぶり付いた。すっかり忘れていたが空腹なのを思い出す。

「大物ね」

 レディが満足そうに呟き、周囲は頷いた。

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