第2話

 かつて茶色い小鳥から、紅く豪華で大きくなってしまった鳥は夜の森の手ごろな枝にとまり、そこで一夜を明かした。


 翌日、自分がたどり着いてしまった環境はどんなものなのか探ろうと、日の出と共に大きく煌びやかになった赤い翼をはためかせ、鳥は森の中を飛んで行く。


 今まで暮らしていた砂漠と比べて、ここらの森は幾分も冷え込んでおり、視界が水滴で白くぼやけるくらい湿っぽい。さらに、昨日の夜に見た通り木がかなり生い茂っていたが、地面にも柔らかな芝がぎっしりと生えており、葉先を長く伸ばしていた。


 異界とも言える土地に迷い込んでしまったものの、長い間暮らせば慣れそうな具合でもあるのを確認すると、ならば外はどうなっているのかと気になった鳥は、今度は森を出た。


 しかし、先へ進めないように氷河のある山脈が通せんぼしていた。仕方なく鳥は森の中へ戻り、今度は真反対の方向へ飛んで行く。


 やがて、森の中の開けた場所に木造の家が連なる、村のような場所の上空を通過しようとしていた。


 熱狂していた昨晩の砂漠の民とは違い、村の人々は穏やかに言葉を交わしており、助け合っている。


 他の人達より多く肉を保有していれば、他の家と分ける。森で見つけたのであろう紅い木の実や若草色の山菜も多く持っていれば、隣の家に話しかけ、それも分け合う。娘が背負子に薪を多く載せていれば、二、三人男どもが駆け寄ってきて、やっぱり分け合う。


 今まで人間のことなど、変な行動をとる生き物だと思っていたが、人の言葉が理解できるようになった今の状態でなら、その意味がよく分かる。


 さらに先を飛ぶと、村の端でごっこ遊びをしている男女三人組の子供たちを見つけた。


「わらわは~、プリンセス・カリーナ~。 そなたらは、名をなんというのだ?」


「ぼくは、ナイトのキリーです」


「おなじくナイトのクリーです。 なにがあっても、カリーナさまをおまもりします」


 姫役の女子を前に、男の子二人が跪いている。


 なかなか興味深いと思った鳥は近くの枝にとまり、ごっこ遊びを眺めることにした。時に木を悪い龍に見立てて棒で殴り、あるいは騎士二人が花冠を作って姫に受け取ろうとしてもらい、さらには地面に倒れている古木を王国の名馬にした。


 ほほえましい様子を見ていると、鳥も混ざりたくなってきてこんな言葉を口にしてしまった。


「わらわも~、プリンセスだ~」


「えっ今のだれ!?」


 カリーナが叫び交じりで驚く。鳥も、自分が人間の言葉をしゃべれたことに体を一瞬びくつかせて驚く。


「カリーナさま、ぼくたちがお守りします」


「でてこい! このつるぎで切ってくれる!」


 一方のキリーとクリーは完全に役に入っており、二人とも真剣な表情だ。


 さらに釣られて役に入り始めた鳥は、三人の前に降り立ち、紅く豪華なその姿を見せる。


「わらわだ。 わらわもプリンセスだ」


「まあ、なんて大きくてきれいな、かわいいおしゃべりフェニクスなの!」


 先程の怯えて引きつった顔つきが元に戻り、愛でたいのかカリーナは鳥に抱き着く。並んでみると鳥の大きさとカリーナの身長は大体同じくらいだったので、彼女にとって人間の友達となんら変わらない感覚だった。


 一方の男子二人は、騎士として倒すべきなのか、姫と仲良くする巨大な喋る鳥をそのままにするべきなのか分からなくなり、思わず一歩引いてしまう。


 カリーナにすり寄られて不思議と悪い気がしないどころか、体の奥がじんわりと温かく、くすぐったくなった鳥は、カリーナにすり寄り返す。


 「フェニクス? それは一体なんだ?」


「フェニクス知らないの~? 炎のつばさで空をとんで、いろんなけがとかなおせちゃう、しなない鳥だよ~」


「ほお、炎の翼の鳥、か」


 そう言うと鳥はカリーナから一歩離れ、炎の翼をだすフリをしようと、その場で羽を広げながら軽く飛び跳ねてみた。


 すると、本当に羽に炎が点いた。だが、不思議なことに火傷はせず、鳥にとっては少し温められているような感じだった。


「わっ、本当に炎の翼が!」


 予期しなかった事象が起き、鳥が困惑するが、カリーナ姫は手を叩いて喜ぶ。


「やっぱりフェニクスなのね!」


 かなり感心している。対してナイト達は非現実な出来事を前にどう反応してよいか分からなくなり、固まってしまった。


 そんな様子に見かねたカリーナ姫は、手を腰に当てて彼らの方を向き、喝を入れる。


「なにぼけっとしてるのナイトたち! お辞儀しなさい! あの方は私の友人よ!」

 

「そうなんですか、カリーナさま……?」


 なんだかしっくりこないのか、ナイト達はぎこちなくお辞儀する。


「そうだ、まだ聞いてなかったわ! そなた、名は?」


「わらわは、プリンセス・フェニクスだ!」


 快活にそう宣言すると、紅い鳥、もといフェニクスと三人はお昼の食事時になるまでごっこ遊びしたり、プリンセスたちを称える歌を自分たちで歌ったり、はたまたフェニクスも鳥のさえずりの要領でハモって歌ったりして過ごした。


 フェニクス以外の三人のお腹が空いた頃、四人で村に向かうと、カリーナはフェニクスを村の大人たちに紹介して回る。


 最初フェニクスに驚いた大人たちだったが、カリーナとの友達だということでフェニクスを快く受け入れ、その夜に大きな夕食会が村の真ん中の広場で開かれた。


 皆、談笑しながら鹿肉の料理、山菜のサラダ、さらには木の実のデザートなどをほおばっていくが、一方のフェニクスはというと、翼から炎を消したうえで人間と同じように椅子に座ったまま、鍋に入ったシカ肉のスープを温める焚火や近くに置かれたランプを見つめていた。


 砂漠の民たちは炎を儀式にのみ使っていたが、この村の人々は調理や灯として使っていたのだ。


 フェニクスは、調理の道具として火を使うこの村が気になって仕方がなく、とにかく村人たちと距離を近づけたいと思い始めていた。


 後にとんでもない惨劇に遭い、肉体が食われた末に氷に魂を閉じ込められてしまうというのに。

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