第4話 商品開発?

蓄魔石ってのは俗称だ。魔力を蓄積する性質が飛び抜けて高い鉱石の事を蓄魔石と呼んでいる。

極端な話、その辺の土も木も草も、魔力自体は持っている訳だ。


蓄魔石に求められる性能は四つ。体積あたりの魔力保有量、魔力の吸収性能、魔力の出力性能、そして加工のしやすさ。


この辺で採れる蓄魔石といえば、東岩洞窟から掘り出される鉱石。

柔らかく、魔力の吸収性能は高いのだが、魔力保有量は決して多くなく、出力も低い。


実はまあ世の中で言えば中の上ぐらいの性能ではある。出回らないのは単純に発掘量の問題だ。


発光ガラスに魔力を供給するには充分機能する。



「本当に大丈夫ですか? 商会に目をつけられたりしないです?」

「さあ、どうだろうな。今のところまだ身内間でのやり取りに収まってるが、あとは商会の奴らの懐次第だ」


セムリア冒険者会のメンバー八人にそれぞれ二つずつ。数としては大したもんじゃない。

葉脈を編むのが多少面倒だが、農家出身らしいコトリがこの辺の器用さはあるようで助かる。


「セムリア会長はああ言ってたが、多分俺に会うのはついでだ。何か大きな開拓があるんだろうな」

「開拓?」

「未開地を拓くのが冒険者の本懐だろ。セムリア冒険者会も例に漏れずこれを期待されてるんだよ」


未開地の探索は何日も通すことがほとんどだ。当然、自然の中で何度も夜を超える事になる。

有効な明かりの調達は生存率に大きく影響するだろう。


新型魔動エコランプ(仮)は高性能だが、量産と商売には向いてないんだよな。

むしろ一般的な魔動ランプの市場を破壊してしまう可能性があるのは、商会だけじゃなく俺も懸念するところだ。


というか、これを生産できるのは今の所俺だけなのでこれ以上広がって欲しくない。

俺と商会の利益は完全に一致している。


エコランプを作るのは今回限りにしたいものだ。


「そういえば、今回の発光ガラスはセムリアさんに貰いましたけど、蓄魔石とか薬草ってどこから仕入れてるんですか?」

「薬草は俺が直接採ってるが、蓄魔石は客の冒険者たちから買った。どうせ町で卸すやつだしな」

「へー。新しい商品とか作らないんですか?」


作ったからこんな面倒な事になってるんだろう。在庫があるからと暇つぶしに作ったことを後悔してるよ。


俺一人で暮らしていくには、自給自足が前提にはなるがポーション売ってりゃ充分なんだよな。

だがコトリの借金を買ったことで少し財布が寂しいのは事実。エコランプはまあ、値段設定も適当だったしなあ……。


「新商品か……」


市場への影響が小さく、俺の負担も小さく、安定して一定の需要があるもの。

ぐぬぬ、今まで真面目に商品なんて考えてこなかったから、いざとなると難しい。



「はい! はい! ポーションの出涸らしって何か使えませんか?」

「うん? あー、あれか。毒物だぞ?」

「え!!!? 塗り薬とかに使えると思ったのに」


魔性植物や一部の素材には、魔力を何かしらの効果に変える魔術性能を宿している。

俺たちはそれを加工して上手く錬金製品にしている訳だが——


「あのオムリネプツ草はな、人にとって毒になる魔術性能なんだよ。それを六〇〜九〇度で変性させて回復効果を持たせてんだ」

「ひっ! 食べなくてよかった……」


食事に困ったら食ってたなコイツ……。


「変性させて抽出した魔術性能に新たな魔力を補填する事で回復効果を持たせてるんだ」

「毒の魔力だけが残ってるのかあ……」

「ああ。ん?」

「え?」


話してて気付いたが、出涸らしに残った魔力を取り出して、新たな魔力を注いだら、もしかして蓄魔石みたいなものになるのか?


植物は基本、葉脈経由での魔力供給が基本で、外気から取り込む効率は悪い。

だからこそ基本は外気から魔力を取り込める蓄魔石が使われてる訳だが、体積あたりの魔力保有量は植物系が比較にならないほど高いのは常識だ。


魔力の引き込みと取り出し回路は工夫する必要があれど、積んである不良在庫の中には魔力半導体もあったはずだし、これはもはや技術力だけの話。

もし蓄魔石から葉脈経由で葉肉に魔力をストックできるのだとしたら……。


「商品化はしないぞ? 絶対に売らないからな?」

「何の話ですか?」


これは研究、ただの趣味だ。これ以上、魔力の永久機関を作ったってそれこそ戦争にしか使えないからな。


「ちょっと手伝え。出涸らしをかき集めてこい」

「……新商品は?」


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