6話 覚悟
絶望的な静寂の中で、俺たち三人は巨大な倉庫の残骸に身を潜めていた。
「奏斗サンなら……そう言うと思ってましたよ!」
順が俺の顔を見る。目の前でA級部隊が壊滅させられた光景を見てさっきまで狼狽えていたが、腹を括ったらしい。
「ああ。あいつを野放しにするわけにはいかねえ」
「……賛成よ。ここで逃げても、後悔するだけだもの」
俺の隣で、怜が静かに頷いた。彼女の横顔には、これから始まるであろう死闘への覚悟が刻まれている。
「怜、ここから『核』の位置は特定できるか?」
「ダメ元だけど……やってみる」
怜は瞳を閉じ、全神経を集中させる。彼女の能力『骸識』は、大気中の骸粒子を読み解き、虚獣の弱点や核の場所を見つけることが出来る。俺たちの生命線だ。
しかし今回は……
「やっぱりダメね。距離が遠すぎる上に、あの虚獣の周囲を渦巻く瓦礫が強力なノイズになって、全然分からない。正確な位置を特定するには、もっと接近するしかないわ」
「あれに接近……」
順が頭を抱えている。
その気持ちも分からなくもない。最後にみせたあの念動力による攻撃を見たら尚更だ。
何か、何か方法はないのか……
攻略の糸口は……
脳内で先程の惨劇を何度も反芻する。
コンテナの雨が降り注いだ時、刃金たちがなすすべもなく叩きつけられた時。あの瞬間の、虚獣の動き。
……そうだ。
能力を使う時あいつは必ず対象物を見ていた。
コンテナを落とす直前は空を見上げていた。刃金たちを浮かせる瞬間も、落とす瞬間も彼らをその視界に捉えていた。
奴の攻撃の起点、念動力で動かす時、そして解除する時には、必ず「視認」というプロセスが存在する。
「なあ……あいつの能力、もしかして『視界に入っているもの』しか対象にできないんじゃないか?」
俺の呟きに、二人がハッとした顔でこちらを向いた。
「言われてみれば……奴の骸粒子の活性化は、じーっと何かを見ている時に起きていたかも」
「じゃあ、あいつから見えないようにすれば、あの念動力は食らわないってことすか?」
「ああ。もし、能力発動のプロセスの中に、『視認』があるとしたら、攻撃パターンも読めるかもしれない。活路は充分にある」
仮定の域を出ないが、試す価値はある。
「作戦を伝える」
俺は、二人の顔を真っ直ぐに見据えた。
これから話すのは、あまりにも無謀で、一歩間違えれば全員が死ぬ、決死の作戦。
「まずは俺が囮になる」
俺はこれから始まる死闘の筋書きを、静かに語り始める。
俺が虚獣の注意を引きつけ、その視線を釘付けにする。もちろん、奴に姿は見られないように立ち回る。
その間に、2人は順のシールドで身を隠しながら奴の死角を縫って前進。怜の『骸識』による核の位置判別が可能な距離まで接近する。
怜が核の位置を特定次第、俺が最大火力をぶっぱなす。
「奏斗サン、それは……」
「無茶よ、奏斗。あれを一人で対応するなんて……!」
案の定、二人が反対の声を上げる。
分かっている。無茶だということは俺が一番分かっている。
だが、これしか道はない。
「俺に任せろ」
俺は、二人の目をじっと見て言った。
「俺は死ぬ気は無いし、仲間を死なせるつもりもない」
俺の覚悟を感じ取ったのか、二人は押し黙る。やがて、怜が一つ息を吐き、そして、順が強く頷いた。
「……分かったわ。あなたを信じる」
「……ったく、しょうがないっすねぇ、奏斗サン! とことん付き合いますよ!」
三人の視線が、交錯する。言葉はもういらない。
お互いの信頼が、俺らに困難に立ち向かう勇気を与えてくれる。
俺は右手に紅蓮の炎を灯す。
「――行くぞ」
死地に赴くには、あまりにも静かだった。
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