第9話
翌朝のこと、レンのスマートフォンに非通知の連絡が入る。恐る恐る電話に出るとボイスチェンジャーを使っているのかダミ声が聴こえる。
「お前は殺す」
たったその一言。レンには思い当たる節もなく気にもとめずに外に出た瞬間だった。目の前には澤田が立っていた。
「澤田さん?」
「……このクソガキ」
「え?」
澤田はレンの首根っこを捕まえて車に無理矢理乗せる。首元には爪がくい込んだあとが生々しく残っていた。何がなんだか分からずに澤田に聞こうとしたが隣にいたもう一人の刑事に口を塞がれる。
「うぐっっ」
「黙ってろ。やってくれたな……」
「むごごごご」
「黙れよ」
とても怒っていた。着いた場所は警察署だった。取調室にすぐに連れていかれ空気の薄い部屋の中問いただされる。
「中村理香子。知ってるな」
「あぁ、知ってるよ?」
「殺された!」
「へ?」
中村理香子。ギャルと男に虐められていたところを相澤とともに助けた女。その中村が殺害されたとしてレンは重要参考人として警察署まで引っ張られた。
「俺が殺したと?」
「あぁそうだ。違うのか」
「証拠は?」
「あ?」
「引っ張ってきたってことはなんかしらの証拠はあるでしょ」
「ベラベラと……」
「何もないのに引っ張ったってこと?」
澤田は額に皺を寄せ、腕に相当力が入っているのか血管が浮き出ていた。中村を最後には助けれなかったことを悔いているのか唇も噛み締めていた。
「僕何も知りません」
「相澤俊一郎。あいつの姿もねえ!」
「え?」
「澤田さん。本当になんも知らねぇみたいですよ」
「うっせえ!!」
レンは相澤も殺されたのだと思っていた。一向に話し合いも進まず、この日は澤田の不当な参考人引っ張りということで警察署から解放された。
一気に三名の生徒を失った学校は翌日全クラス閉鎖。学校も一ヶ月の休校が決まった。
「何が起こってる?」
レンはその翌日から協力者に電話を鳴らし、事態の把握をしようとしていたが、困惑していたのはレンだけでは無かった。
「俺もわからん。とりあえず調べてみる」
「頼む」
母親に警戒されているのかレンは部屋から出ることも許されず、一ヶ月の間、活動を停止せざるを得なかった。しばらくして再びスマートフォンが鳴る。
「もしもし」
「……レン。相澤を追え」
「死んだんじゃないのか」
「相澤は名古屋に居る。新幹線のチケットは取った」
「分かった」
レンは母親の目を盗み家から飛び出して名古屋に向かった。新幹線の中では協力者と一言も会話を交わすことなく、時間が過ぎた。
名古屋到着後、名古屋名物を堪能しながら相澤を探していると再び鉢合わせする。あの厄介な刑事と。
「……レン」
「チッ。澤田さん」
「分かりやすい舌打ちだなぁ?」
「何しに来たんですか?」
「分かってんだろう」
どちらも相澤の情報を得た中で名古屋に来ていることは明白だった。
「相澤なにかやらかしたんすか?」
「ふん。大事な捜査情報教えるかよ」
「なるほど。重要参考人って事ね」
「ケッ。黙ってろ」
不機嫌な澤田の顔を笑いながらレンは立ち去った。
「ケッ。あのクソガキぜってえ取り押さえてやっからな」
「澤田さん。なんであの子どもに目をかけてるんです?」
「俺の刑事の勘だよ」
澤田の相棒は不思議そうにしていた。無駄な捜査をしているだけではないかと不安も何度も口にしていた。それでも意地を通している澤田に尊敬の眼差しも向けながらついて行くだけだった。
―――――――――――――――――――
澤田と離れたレンは二方向に別れて行動をしている協力者のスマートフォンに情報が再び入ったことを知る。相澤に先に接触したのは澤田だという事だった。先を越されたことに怒りが湧き始める。
「俺やおっさんより情報を先取りって警察ふざけんなよ……」
「おい、レン」
すると後ろから協力者が声をかける。
「来てたのか」
「諦めて帰ろう。新幹線のチケットはある」
「あ?」
「澤田は相澤を中村殺しで引っ張った」
「は?」
ここに来て想定外の事実が襲う。中村理香子、相澤が助けた女を相澤が殺した。
「ありえねえ……」
レンは何が起こっているのか分からず天国にいるアスミに手を合わせながら言った。
「頼む。助けてくれアスミ……」
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