迷わすのは愛情の裏返し、世話焼きで商売熱心なオカン
現実世界:梅田ダンジョン
「まいど!あんた、よう来たなあ!今日はどこへ行くん?まぁ、ウチに入ったら、そう簡単に目的地には着かへんけどな!迷ったら迷ったで、おもろいもん見つかるかもしれへんし楽しんでってや。」
梅田ダンジョンは、そう言って、威勢よく笑う。彼女の身体は、JR大阪駅、阪急梅田駅、阪神梅田駅、そして地下鉄の各路線が複雑に絡み合い、さらに巨大なデパートやショッピングモール、地下街が縦横無尽に接続された、地上も地下も巨大な迷路そのものだ。地元では「梅田の地下は魔境や」「遭難する」とまで言われるほどの難易度を誇る。彼女の体内を行き交う人々は、そのほとんどが足早に、しかしどこか焦燥感を抱えながら歩いている。その活気とエネルギー、そして時折聞こえる「あれ?ここどこ?」という戸惑いの声が、彼女にとっての「生気」なのだ。
彼女の日常は、朝から晩まで、いや、終電がなくなるまで続く「人間観察」と「商売」の繰り返しだ。彼女は、関西特有の商人気質を持ち合わせる、世話焼きで情に厚い、だけどちょっと口うるさい「大阪のオカン」といったところだろう。
「あんた!そんなキョロキョロしてたら、カモられるで!ほれ、あめちゃんあげるわ。」
「おっちゃん、今日の特売、見逃したらあかんで!あそこのデパ地下、ええもん入ってるで!」
彼女は、訪れる人々を、まるで自分の子供のように見守っている。彼女の体内にいる人々は、仕事に急ぐサラリーマン、流行の最先端を追う若者、そして時には、道に迷って途方に暮れる観光客だ。彼らは、梅田ダンジョンの活気を保つための訪問者であるが、同時に徘徊する守護者でもあり、彼女自身が彼らに「試練」を与える存在でもある。
彼女の真骨頂は、その「迷わせっぷり」にある。目的地まで一直線に進めたら、それは奇跡だ。
「え?目的地は『ホワイティうめだ』?せやなぁ。じゃあ、まずは『ディアモール大阪』を抜けて、その後に…って、あぁそこ工事中やったわ!ごめんごめん!ほな、一回地上に出て、あのデパートの横から入る方が早いで!」
彼女は悪気なく人を迷わせる。いや、むしろ迷うことを「楽しんでほしい」と思っている節さえある。彼女の体内は日々少しずつ姿を変える。新しい通路ができたり、店が入れ替わったり、既存の通路が閉鎖されたりする。それは、訪れる人々に「変化に適応する力」と「臨機応変さ」を身につけさせるための、彼女なりの「教育」なのだ。
彼女の喜びは、人々が迷いながらも、結果的に目的地にたどり着き、あるいは迷った先で新しい発見をして喜んでいる姿を見ることだ。「迷ったけど、この店見つけてよかったわ!」という声を聞くと、彼女は心の中でガッツポーズをする。彼女にとって、迷宮とは、ただの移動手段ではなく、「出会い」と「発見」の場なのだ。
そして、彼女の至る所には、誰もが求める「出口」がある。至る所というぐらいなので、その出口は一つではない。遠く東にも西にも行ける新幹線、京都へ向かう阪急、神戸へと続く阪神、大阪の各方面へと広がる地下鉄…その全てが、彼女から巣立っていくための「旅立ちの扉」だ。
「よう頑張ったなあ!もう迷わへんやろ?そんなことあらへんて?おかしいなあ。まあええわ。次に来た時もしっかり道に迷うて、何かええもん見つけてや!知らんけど。」
人々が、それぞれの目的地へと旅立っていくのを見送ると、彼女は満足そうに微笑む。彼女の言葉は、常に温かく、訪れる人々を次のステップへと送り出す。
しかし、時にはこんなことも。
「ちょっと待ちなはれ!あんた、さっきからおんなじとこグルグルしてるで!一回地図しっかり見いや!」
「こら、そこにゴミ捨てんな!ゴミはゴミ箱にポイしとき!ウチの身体を汚したらあかんで!」
たまに、彼女の複雑な構造を前に完全にパニックになってしまう観光客や、マナーの悪い利用者を目の当たりにして、思わず「オカン」としての本性が出てしまうことがある。そんな時は、彼女の内部を走る地下鉄の音が、一際大きく轟き渡る。
「はぁ……。まあ、みんな、ウチに来て、色々学ぶしかないんやろな。」
彼女の日常は、ひたすら「賑わい」と「混乱」の繰り返しだった。しかし、その根底には訪れる人々と、大阪という街への深い愛情があってこそ。彼女は知っていた。人々が彼女の中で鍛えられ、たくましくなり、新しい活気を街に、そして彼女にもたらしてくれることを。
その日のために、彼女は今日も地下と地上を行き交う人々を眺め続ける。彼女は、単なる駅やビルを繋ぐ地下街ではない。彼女は、人々を魅了し、迷わせ、そして逞しく育てる「商売熱心なオカン」なのだ。時折、体内のどこかで流れる流行の音楽が、彼女のエネルギーを高めるかのように響き渡る。
そして、また一人、彼女の迷宮に足を踏み入れる者がいる。梅田ダンジョンは、今日も静かに、しかし温かく、そしてちょっぴり意地悪に迎え入れるのだ。
「さあ、おいでなはれ。ウチで迷うんは、ここでは常識やで。ほな、気ぃつけて行ってらっしゃい!」
これは、多くの人々が迷い、戸惑い、そして最終的に目的地へとたどり着く、とある街の、とある日常である。その名は「梅田ダンジョン」。迷わすのは愛情の裏返し、世話焼きで商売熱心な、永遠のオカンだ。
名称:梅田ダンジョン
所在地:大阪府大阪市北区梅田
知名度:★★★★☆
来訪者数:測定不能
リピート率:★★★★☆
見どころ:いつの間にか地下一階から地下二階にいる驚き
とあるダンジョンの人となり~十ダン十色~ 深香月玲 @crescent_
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