第3話 ゼニゼニの村

「ギアってアイテムを使って魔法を使うのか?」

「そうよ。手っ取り早く魔法を使いたいならギアを使うのがおすすね。仮に魔法の才能が全くない−−魔力が欠片もない人物でも、ギアを取り込めば魔法を扱えるようになる」

「それはどんな物体なんだ? そのギアってやつは」

「−−特殊な光を放つ半透明の歯車よ。天使の加護が形を成して世界中に散らばっている……なんて噂が流れてるけど、まぁ実際はよくわかんない。とんでもない力を秘めた遺物ってことだけは確かだけどね」


 森の中を軽く走りながら、新たに仲間になったエリスに魔法のことを色々聞いてみた。


 どうやらこの世界では、豊富な魔法が使える者と一点集中の一芸に秀でた魔法使いたちが幅を利かせているらしい。

 前者は元々莫大な魔力と才能を持って生まれた者が多く、最初からギアを必要としていない存在で、後者はギアを入手して強大な力を手にした者で、その力に溺れて暴走する人も結構いるんだとか。

 なら元々魔法の才能に優れた人物にギアを使ったらどうなるのか? という疑問を聞いてみると、

 なんとも不思議なことに、そういう人物の元にはギアが【現れない】らしい。

 まるで自分の意思を持っているかのように、才能ある者の前には現れない。

 故に、才能+ギアの欲張りセット人間は現状存在しないんだとか。


「じゃあ、もしかしたら……おれの元にはギアは現れない可能性が……」

「いやデウスの魔力は弱いから普通に可能性あるわよ。優秀な魔法使いの魔力には程遠いからね、天と地の差があるわ」

「うっ……それはそれで悲しいな」

「でも軽く調べてみた感じ、そこそこの適性はあるから−−そうねぇ、あーしと1、2日くらい特訓すれば簡単な魔法ならできるようになるわよ。空飛ぶ魔法は高度すぎて流石に無理だけど」

「やっぱり空飛ぶ魔法は上級なのか」

「そりゃもう−−上級も上級よ。魔法の中でも高度な重力魔法を扱えるようになるか、風の魔法でなんやかんや上手くやんないといけないからね。使えるやつの方が珍しいわ」

「じゃあさっき飛んでたエリスは……世界の中でも選りすぐりのエリート!?」

「いや、あーしは種族の力で飛んでただけ。吸血鬼と巨人の間に生まれた子だからね。透明化させてるけど羽の力で飛んでるの」

「なんだその贅沢なハイブリッド……! てかさらっと透明魔法使ってるし」

「でもなんか羽しか透明にできないからまだまだよ……まぁ努力とか嫌いだから、さらに精度を高めようとも思わないけど」


 疑問を色々ぶつけてるうちにとんでもない情報が飛び出してきた。

 吸血鬼と巨人のハーフって……普通にやばくない? どっちも創作物だと強種族として名を馳せる存在なのにそれのハイブリッドとか……。

 もしやおれは凄いやつを仲間にしたのでは?


「あ、そうそう! ギアは基本的に1人1つまでで、2つ以上は取り込めないから注意してね」

「2つ目を取り込もうとしたら、どうなる?」

「ギア側に体を弾かれて、吹っ飛ばされるらしいわ」

「なんだそれ。もう完全に意思あるじゃんギアに」

「聞いた話では眩い光と共に数十キロ以上吹っ飛ばされて重症を負った人や、それが原因で死んじゃった人とかもいるみたい。欲張りは良くないってことね」


 強欲は身を滅ぼす……というのは異世界でも共通らしい。

 つまりは手に入れた1つのギアを、極めて極めまくるだけに留めておけばいいというわけだ。

 しかもおれの場合、このダチョウの強靭な肉体もある。

 体を鍛えてギアも鍛えれば−−普通に最強になれるのでは? そう考えると、なんだか楽しくなってきたぞ。


「ポジティブね、あんた。漲るやる気が伝わってくるわ」

「でもそのためにもまずはギアを手に入れないと。自らの意思を持ったギア……欲しいけどどうやって入手すればいいんだ?」

「そのために今、村に向かってるのよ。−−物語の勇者が新たな力を手にするのはどんな時?」

「……危機に立ち向かった時?」

「そう! つまりは人助けしまくればそのうち現れるはずよ」


 豪語するエリス。

 その声は自信に満ち溢れている。


「それにすぐにギアが手に入らなくても、恩を売って徳を積んで人脈が広がれば別の良いことがいっぱいあるわ。−−困った時に助けてもらったり、便利なアイテムをもらえたり、知識を教えてもらえたりね。元の世界でもそういうの重要だったでしょ?」

「確かに、人脈やコネがものを言う世界だった……そしておれにはそれがなかった」

「なら新しい人生で積み上げていけばいいのよ、これからね」

「凄い。メンタルケアまでバッチリじゃん」

「当然よ! あーしはできる女だからねっ」


 数年間、湖のほとりで泣いていたのは一旦置いておいて−−


 ポジティブな人物の側にいると自分もポジティブになれる、メンタルが強くなるという話を聞いたことがあるが、まさに今がその状態じゃないだろうか?


 ギアはすぐにでも欲しいが、まずは地盤を固めるところからスタートしよう。

 前の世界ではすぐに結果を求め、焦って失敗したことが数多くあった。

 だから今度はゆっくり、でも確実に進めていこう。


「−−ん、あれが村か?」


 視界が開け、多くの建物が立ち並ぶ場所に出た。

 その建物は金ピカで、鬱陶しいくらい輝いてて−−札束みたいな形状をしている。


(なんだこの村……)


 ここまでハッキリとした『お金の家』は見たことがない。

 というかいくらなんでも主張が激しすぎる。

 黄金の家ってのは探せば他にもありそうだけど、札束の形の家なんて初めて見た。

 しかもそれが一軒だけじゃなくて、なぜか全ての家が札束形状になっている……どういうこと?


「驚いたでしょう? −−ここはゼニゼニ村。金にしかほぼ興味がない哀れな人たちが暮らす村よ」

「碌でもなさそうだなおい……え、なんでここを目的地にした? 普通に入るの怖いんだけど」

「安心しなさい。ちゃんと勝算はあるわ」

「いや、気持ちの問題で……」

「あれを見なさい!」


 エリスの指差した方向を見ると、なんと手足の生えたコインチョコレートがゼニゼニ村の住民をいじめていた。

 手に持った槍型のキャンディでペシペシ叩き、複数で囲んで嘲笑っている。

 しかも叩いた住民の服や持ち物がチョコレートに変化し、地面にどろっと落下するという意味不明な現象も発生していてさらにわけがわからない。


「今この世界は【お菓子化】という未曾有の危機に瀕しているわ」

「お菓子化??」

「世界中がお菓子に変化していくのよ。あなたもあーしに会う前にそういう現象に出くわさなかった?」

「…………っ! あ、そういえば!」


 ダチョウとしての転生を理解した場所にあったのは、オレンジジュースの湖。そしてお菓子と化した甘い森−−あれは元からそういう世界観だったのではなく、お菓子化という意味のわからん現象によるものだったのか!


「湖がオレンジジュースだったり、草木が甘いお菓子に変わってて美味かったが……まさかお菓子化の影響だったとは」

「お菓子の軍団、通称【スウィートスウィッウィ】による惑星侵略作戦によって、この異変は引き起こされているの」

「名前ダサいなぁ」

「まぁあーし的には? 甘いお菓子が食べられるなら、多少は放置でもいいかなって思ってるんだけど」

「でしょうね。というかおれ的にも、多少はお菓子化の影響残しておいて欲しいな。マジで美味かったし」

「と、いうわけで! スウィートスウィッウィを蹴散らして、かつ人助けもして−−感謝とお菓子化の力を奪っちゃおうって計画よ! 良くない?」

「それ……マジでいいアイデア!」

「じゃあ早速蹴散らしちゃって! コインチョコ兵隊は雑魚も雑魚−−下っ端の中の下っ端だから、あんたのその蹴りで余裕で倒せるから!」

「よし、いっちょやるか!」


 背中を押すように煽られ−−おれは突撃した。

 目が疲れるような煌びやかな黄金の村に突っ込み、ゼニゼニの住民をいじめているコインチョコレート兵隊の一人に、ダチョウの強烈な蹴りを喰らわせる。


 −−当然、そいつは弾けた。


 針を刺した風船のように、あの時のゴブリンのように、そいつは『パァン!』という気前の良い音を響かせながらチョコ花火となった。

 そして周りにいた他の兵隊はというと−−こちらに反撃してくることはなく、突然の事態にパニックになったようで、その場で転けたりどっかに走って行ったりと、もう現場はぐちゃぐちゃ。


 確かにエリスの言っていた通り、こいつらは下っ端の中の下っ端だ。

 体の強度もゴブリンと大差ないし、普通の蹴りで倒せる。

 ついでに体にかかるチョコも、食べると美味い!


 人助けをして甘いお菓子も楽しめて一石二鳥! なんて素晴らしい仕事なんだ!


 −−などと調子に乗っていると、一気に雰囲気を変える事態が発生する。


『おかしな鳥め! 我がテリトリーに何用か!?』


 村の奥からのっしのっしと現れたそいつはトロールのようにデカく、三叉槍と盾を身につけていた。

 雰囲気も迫力も、蹴りで破裂させた下っ端共とは格が違う。

 おそらくここら一帯を任されているリーダーだろう。


「色が赤? ということは……」

『む?』

「イチゴチョコか!」


 だがそんなことは関係ない。

 おれはギアのために人助けをし、美味しいチョコを食べるために戦う。

 欲望に忠実に、そして確実に作戦を遂行する。


 ダチョウとはそういう生き物なのだから……!


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