第6話 白秋事件③ カスミソウ
辻本が殺し合いの口説き文句を言ったすぐその後、死神の鎌を持ってこちら側に高速で向かってくる。瞬時に神代先輩は夢切りの鎌を胸から鎖骨の上まで撫でて取り出し、藤宮先輩は指で変身の儀式を行い、変身した。それに連動して僕と笹内もそれぞれ変身する。辻本が矛先を向けたのは僕……じゃない! 神代先輩の方だ。神代先輩に向けて、鎌を振りかぶって切り込もうとする。神代先輩は咄嗟に夢切りの鎌を構えようとするが、辻本の迷いなく神代先輩の命を刈り取ろうとする行動には間に合わなかった。辻本の攻撃を目で追い続けて応戦態勢をとっていた僕は、どうにかして刀を抜いて、神代先輩を辻本の初撃から守った。
「辻本、神代先輩の命は取らないんじゃなかったのか」
「ああ、邪魔しないなら取らないさ。夢切りの鎌を持っている以上は計画を遂行する上での足枷になる」
「約束を忘れたのか!?」
「忘れてなんかいないさ。ちゃんと、花火が咲くまで何も手を出したりしなかったさ。君たちにはな」
刀と鎌がぶつかり合い、火花が散る。刃と刃が重なる部分を擦り減らしながら、ジリジリと音を立てている。周囲に居た人間から憂鬱がどんどんモクモクと飛び出し始めた。一人、いや、三人か? しかも、階段の下からも悲鳴が聞こえる。まさか、辻本の持っている鎌も夢切りの鎌なのか? それなら、神代先輩と同じく憂鬱を外部に放出する事が出来る。まさか、憂鬱を外部に放出したまま放置して、自家中毒を起こす事が大量殺人の方法か?道徳や倫理感を投げ捨てている。憂鬱を蝕まれた人間は笹内の時のように、苦しむんだ。早く切り裂いて倒しに行かないといけない。しかし、もしそれを神代先輩が対処しようものなら記憶をどんどん失ってしまう。かと言って、放置すればいずれ憂鬱に侵されて死んでしまう。
「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」
藤宮先輩は笹内を連れて辻本から間合いを取り、僕が辻本の攻撃を防御し続けているところを見て、両手の魔法陣を辻本に構える。この前と違い両手から放出する形をとって攻撃を更に強化していた。辻本はそれに気付くと、僕に対する攻撃をやめて、再び神社の屋根に登って回避する。
「辻本くん、霞の件は私も知っている。霞を復活したい気持ちも分かる。でも、人殺しはさせない」
「分かる? 藤宮先輩が?あの時に霞に何があったか知った上で、俺の計画の邪魔をするのに? ならどうして神代先輩にやったように、霞には憂鬱切りの代行をしなかった?」
「それは……」
辻本は神代先輩から今度は藤宮先輩に攻撃対象を変える。僕が普段使っている刀を、藤宮先輩の死角から鞘から抜く仕草を見て、刀で不意打ちを仕掛けるところを見逃さなかった。僕が神社の屋根に跳んで、刀で攻撃を仕掛けようとすると、それに気付いて、鎌をブーメランのように神代先輩に投げつけて、神代先輩の不意打ちを牽制しながら、それに気を取られた僕を見計らって、辻本が僕に右肩に肘打ちを仕掛けた。武術から刀、鎌まであらゆる攻撃手段を興じてくる。神代先輩はブーメランの要領で飛んできた鎌を弾き、神社から落っこちる僕を神代先輩は両手でキャッチする。辻本は刀をローブで隠して、藤宮先輩の方へ突進していく。その途中、刀を抜き始めた。僕もただで攻撃を食らわない。肩の痛みを我慢しながら藤宮先輩に叫ぶ。
「藤宮先輩、辻本は素手で攻撃しに来ているんじゃない。刀を隠し持っている」
「待って、八岐大蛇を使ったから間に合わない『けるべろす! 藤宮先輩を守って』」
笹内は両手側面をくっつけて、辻本に向かってあの柴犬みたいな『けるべろす』が襲いかかる。けるべろすは辻本の刀に噛みつき、辻本の攻撃を妨害する。辻本は『けるべろす』が噛みついている刀をブンブン振って、振り落とす。
「面倒だ。笹内の事を殺す事は考えてないんだけれどな」
笹内は落っこちる『けるべろす』を直ぐに片手でキャッチして、笹内は右手で人差し指を辻本の方へ向けてこう宣言した。
「けるべろす、口を大きく開けて!」
「ワンッ」
『けるべろす』が口を開けると、あの『やまたのおろち』が『けるべろす』の口の中で待機していた。
「火を吐いて、『やまたのおろち』」
そう言うと、『けるべろす』の口から蛇が飛び出して、辻本に火を吹いた。辻本は死角からの攻撃だったからか、直ぐに防御の姿勢をとれずにもろに『やまたのおろち』の火を受けて、右手のローブが少し焼け焦げた。
「小賢しいんだよ。笹内、邪魔だ」
そう言って、辻本は刀を鞘に仕舞って、先程の鎌をとり、今度は笹内に刃を向ける。すると、後ろには 藤宮先輩が瞬間移動して、辻本の後ろをとっている。
「ケルベロス、辻本くんを攻撃」
「瞬間移動の魔法陣か、それなら」
藤宮先輩は左手の魔法陣からケルベロスを召喚した。それを見て、辻本は鎌で防御姿勢を瞬時にとった。ケルベロスの攻撃を防御して、鎌でケルベロスに突進する。ケルベロスが怯んでいるその隙に、刀を藤宮先輩に投げつける。藤宮先輩は避けられたが、よく観察して見ると、少し藤宮先輩の方向からズレている。魔法陣だ。瞬間移動の魔法陣に投げつけている。まさかと思ったら、嫌な予感が的中していた。先程、藤宮先輩に後ろにある、木に描かれた魔法陣から刀が瞬間移動して、神代先輩目掛けて飛んでくる。
「神代先輩、後ろ!」
「ッ!」
魔法陣のどこから攻撃が来るのか特定するのに時間がかかってしまった。肩に肘打ちを食らった痛みがまだ響いて、刀を上手く使えない。かくなる上は。
「轟くん!」
肘打ちを食らっていない左腕を使った。今後長期戦になる可能性が高い状況では選択肢としては悪手だったと思う。左腕の関節を腕と腕の付け根を折り畳み、痛み分け覚悟で辻本が投げた刀を受け止めた。幸いにも刀の勢いが左腕に刺さった事で弱まり、神代先輩に刃が届くことがなかった。
「どうして、そこまでして私を守るの」
「約束したじゃないですか、四人で、全員仲良くして、神代先輩が忘れられないように思い出を沢山作って皆で生きて帰ろう。そして、辻本の計画も止めるって」
「私、やっぱり夢切りをやる。轟くんが自分の腕を差し出してまで、笹内さんと藤宮さんが命懸けで戦っているのに、それにもうすぐ周りにいる人も憂鬱に侵されて死んでしまう」
「絶対に夢切りはさせません。僕が倒します」
「その右肩のダメージと刀に貫かれた左腕で本当に戦えるの」
「それでも辻本の事も止めて、神代先輩を忘れないようにしようと藤宮先輩とも決めた。笹内とも皆で思い出作りをしようって決めた。戦えなくても戦います」
「なあ、どうして何だよ。轟。お前を殺すのは最後だよ。君たち四人が戦闘不能になって、俺の計画の邪魔を出来なくなった時に最後まで轟を殺さないで霞を復活させる方法を探すんだよ。生徒会役員の三人は殺す必要がないから、殺す気なんてない。でも、計画の邪魔になるなら、君たち四人を傷つける事なんて、厭わないんだぞ俺は」
辻本は攻撃を一旦やめて、僕らに語りかけてくる。後ろに居る藤宮先輩にも攻撃する気配もなく、ケルベロスから身を守る動きをするだけだ。今なら、今誰も殺していないのなら説得出来るかもしれない。そう僕と同じように思ったのか、藤宮先輩はケルベロスを両手の魔法陣に取り込み、辻本への攻撃を保留した。
「辻本くん。私も霞ちゃんの事を助けたい気持ちも分かる。もしも、人殺しのような人道に反しない方法があるとするなら協力する」
「私も、自分の事を傷つけてくる人は嫌いよ。でも、私もまた霞ちゃんに会いたくて、ずっと探していたから、どこまで苦しい気持ちだったか、そんな凄惨な過去があるなら辻本くんの事を嫌いになんてなれないわ。それに、轟くんも同じように霞ちゃんを神代先輩と一緒に私と探していた。勿論、藤宮先輩もよ」
「辻本くん、私も藤宮先輩に夢切りの真実を聞かされた時は怖くて何も言えなくなったわ。だから、自分の妹がそうなってしまった事がどれだけ辛かったか計り知れない。もし他の方法があるなら、私たち四人と一緒に探しましょう」
「でも、轟を負傷させて」
そんな事なんてどうだっていいんだ。痛いよ、苦しいよ。本当は。左腕を貫いた刀から血がじわじわと僕の身体に重くのしかかり、鉄のような匂いが鼻につくほど左腕に滴る。でも、そんな事なんて神代先輩たちとの思い出と、辻本の苦悶を止められるなら左腕なんて僕にとって安い。僕は辻本に向かってこう言った。
「祭りの人間はまだ死んじゃいない。憂鬱を植え付けたんじゃなくて、無理矢理放出させたのだろう。手当てすればこの傷も、近くにいる人も出血が酷くないし治療すればまだ助かる。今なら引き返せる、辻本。やり直そう、また皆で。そして、霞を復活させる手段を五人で模索しようよ」
辻本に対して、説得を試みた。辻本は力が抜けたのか、死神の鎌を落としてその場で泣いていた。涙を流して、それが滴り、神社の賽銭箱に入るほど。でも、その涙目は僕らに受け入れられて、嬉し泣きしているようには見えない。口元が引き攣っているが、口角が上がらない。目元も虚ろのままで、目に光が灯る事がなかった。
「どうして皆そんなに優しいんだよ。俺は、俺は」
辻本は言葉を喉に詰まらせていた。僕たち四人に対して攻撃を行う様子もない。ブーメランにした夢切りの鎌を、取りに行かずに空中に浮いたまま、その場から一歩も動かなかった。その間にも周りの憂鬱が進行している、助けに行きたいが、このまま辻本を放っておくと、どうなるかも分からない。攻撃を止めるか、戦いを続行するか辻本が言うまでは、辻本を四人で見守るのが安牌だろう。そう考えていると、辻本はついに計画を止めるか、止めないか話始めた。
「確かに、まだ祭りの人は誰も死んじゃいない。轟の言う通り、無理矢理憂鬱をそこまで抱えていない人間を夢切りの鎌で放出したから、手遅れになるまで時間がかかる。今から全員助ける事なんて君たちなら楽勝だよ。でも、その人たちは過去に殺した事がある人間たちなんだよ。エンデバーでタイムリープしたから無かった事にあるだけで、何回も。俺は君たちも殺した事があるさ」
辻本は声を震わせて続けてこう言った。
「俺はもう後戻りなんて出来ない。轟、屋上で言っていたよな。命に価値なんてつけるなんて。俺もそんな事、間違っていると心の何処かで思っていた。だから俺は」
ああ、そうだった。辻本という人間は矛盾を抱えながらも根は真面目だった。
「俺は自分の家族を殺した。祭りの人間を殺すケジメとして。霞を復活させたとしても、今まで人を殺した事や罪なんて消えない。俺はその咎を一生背負い続ける。続けないといけない。忘れてはいけない、殺してしまった人間の悲鳴も、霞の号哭も、絶対に。霞を助ける為に捧げる命を無駄にしてはいけない。もう、もう後戻りなんて出来ない」
「辻本……?」
何か様子がおかしい。いや、様子というより「変」だ。比喩的な意味ではなく、暗雲が立ち込め始めた。紫色の雲が辻本の上空に局所的に立ち込め、どんどん辻本に近づいてくる。近くの憂鬱に蝕まれて、苦しんでいる人間も、徐々に生気が弱くなり声が小さくなっている……何が起きているんだ?
「なあ、轟が屋上で言っていた『霞はそんな事望んじゃいない』って話。あれは、俺も正直同感だった。お前を殺した時にまるで俺が存在していないように素通りした。あの時、何も言わなかったけど、恐らく大量殺人されてまで復活なんてしたいと思っていないのだろう」
「なあ、辻本……何をやった?」
「辻本くんの周りの大量の暗雲、あれはやっぱり憂鬱だわ。大量に辻本くんの上に浮かんでいる……周りの人も皆もさっきよりも苦しんでいる。ねぇ、皆。やっぱり私、夢切りする」
「神代先輩、それは」
「でも、轟くんの今の身体じゃ」
「二人とも話を一旦やめてよく聞いて。怪我に関しては、今連絡をとった人が治療する為に、祭り会場に向かって来ている。それよりも、本当にマズイことが今起きている。どうして? そんな事は起こり得るはずがない。神代先輩の代わりに私が対処しているから」
藤宮先輩は眉を上げて、困惑した表情で言った。
「霞ちゃんが最後に戦った時とほとんど同じ状態。膨大な憂鬱が辻本くんの身体に近付こうとしている。なんで? しかも、これは辻本くんの一人の? 霞ちゃんと状況の違いは、大量の人間からではなく、辻本くん一人から出ている」
辻本がどんどん紫色の雲の乱気流に纏わりつかれていく。辻本の虫の音のようなか細い声で、僕たちに話しかけた。
「俺は、最後に言った言葉を忘れない。『消えたくない。お兄ちゃん助けて、忘れられたくない』って言ったこと。霞が忘れられたくなかったことも、神代家の祖母への危害を加えた事や遺産でハッキリしている。望んでなくても、消えたくない事は事実なんだ。だから、俺は、祭りの人間の命を捧げてもいい。初めて霞を復活させる為に人を殺した時。トラウマになってしまった。反射的にエンデバーを使って無かった事にした。あらゆる方法を試しても、霞が再び現世に顕現する事があったのは、轟と祭りの人々を殺した時。その後の夜に、良心の呵責で悪夢にうなされる。すると、霞のような人間が現れる。そして殺害した人数によって、悪夢にうなされた時に出てくる、霞のような人間の解像度はどんどん高くなる、そして、俺は人を二人殺した。三人殺した。十人、百人。そうしている内に人の命を軽く感じると共に、『もう後戻り出来ない』と思った。そして、この祭りに居る百五十人殺める頃には、そういう感覚も麻痺して、それに応えるように夢の中に霞に似ている人間と意思疎通のような行為が出来るようになった。でも、起きたら何を言ったか覚えていない。現実にも出現しない。だからと言って他の方法は夢にすら現れない」
辻本が喋る事に、辻本の姿が暗雲に包まれ見えなくなる。すると、紫色の憂鬱が手のような形に形成され、そこから小さな糸が垂れて、辻本の両手を拘束する。首や足にも巻き付き、もう自分で意思をもって行動出来ずにマリオネットのような傀儡になってしまった。辻本は喋る事がやっとと言う状況だった。
「俺は霞の力を継承したとしても、死神にすらなれないただの無意味な殺人鬼。誰も救えない。自分すら救えない。人を助ける事も出来ない。もう、俺自身は人を殺めた罪と、霞を助けられなかった罰で自分の憂鬱にすら向き合う事なんて出来ない。呪いのように霞の『忘れられたくない』と言う言葉が頭から離れない」
「もう、そんな事を言う資格なんてないが、背負い続ける事が出来ない。誰か、」
「どうか俺の憂鬱を切り裂いてくれないか」
「分かったわ。私の大切な友達の一人だから」
「神代先輩、駄目!」
僕は自分の刀を右手から抜刀しようとしたが、右肩の痛みが治らないし、使えない。治らないと思ったら、肘打ちで右肩の骨が折れてしまったようだった。でも、神代先輩を止めないといけない。忘れられてしまう。神代先輩が。神代先輩は、夢切りの鎌をもって辻本を縛り付ける糸を切り裂く。しかし、糸は何本もあり、もう片方の手の人を切り裂く頃には、先程切った方の手の糸が復活する。すると、紫色の大きな手が拳を上げて神代先輩にパンチしてくる。それを避けながら神代先輩は戦っているが膠着状態で、どんどん辻本の身体に憂鬱が侵食していく。笹内も応戦するが、今の技量ではヘイトを稼ぐ行動にしかならないようだ。
「轟くん。こっちへ来て。神社の前に瞬間移動出来る魔法陣がある。そこにもう電話相手が着いたみたい」
「待って、神代先輩が」
「あなたが戦線復帰しないと、余計に憂鬱切りをして、忘れられてしまうのよ。そんなに神代さんが大切なら自分の事も大切にして」
「分かった。電話相手はどちら様?」
「南川凪、神代家に代々仕えていた南川家の息子さん。今はもう家業を終わらせているけど、南川凪君だけは特例。趣味の研究のついでに、あらゆる協力をしてくれる」
僕は藤宮先輩に肩を担がれながら、会話している。神社の後ろの木陰に、落ち葉で隠された魔法陣がある。
「サポート? どんな事」
「色々あるけど、南川おじいさんの件は実は私が委託して、神代家に南川凪くんに相談させた。神代さんを『忘れられた人』にならないように。実はあのおじいさんは別に憂鬱を融合させても死なないように、細工をされていたわ。もしも憂鬱と魂が融合したら凪くんが切り離して、神代さんには死んだ事にして南川家と口裏を合わせてするつもりだった」
「どうしてそんな事を?」
「人を殺したという経験をさせて、憂鬱切りと死神家業を並行させるように誘導する為。嫌われ役を勝手でも『あなたは南川おじいさんを殺したのよ。死神としても生きないと、おじいさんの命を軽んじた事になる』と私が言うつもりだった」
「今までの事って全部南川家と藤宮家が神代先輩を『忘れられた人』にしない為だったのか」
「でも、その作戦はやめた。今はむしろ殺さなくて良かったと思っている。そんな事をしたら、彼のようになるか、神代さんは殺人をした事実に耐えきれなかったと思うわ。そろそろ魔法陣に着く」
魔法陣に着くと、直ぐに神社の最初の階段の屋台に移動した。周りは憂鬱に侵されて、気絶している。
もう、虫の息の人も居る。祭りの人間を助けるべきなのか、それとも辻本を止めるべきか。神代先輩が『忘れられた人』になると憂鬱切りも難しくなる。人命の優先順位をつけたくないが、少なくとも僕は神代先輩と一緒に戦う事が優先的だ。
「話は凪くんにつけてある。私は周りの憂鬱に侵された人間の命を出来る限り救う。轟くんは凪くんから治療を受けたら、直ぐに今さっき使った魔法陣の方へ向かって、神代先輩と再会して」
「藤宮先輩、分かりました」
藤宮先輩は近くで憂鬱に侵された人間を、手に描かれた魔法陣で攻撃して、弱らせていく。弱ったところにランタンで吸い込み、段取りよくランタンの中に入った。討伐するようだ。そう考えている内に、階段から登ってくる、男か女なのか分からない、中性的な見た目をした人が僕に話しかけてきた。
「その黒いロープと近くのランタンを見るからに、君が藤宮さんの話していた轟くんって人かい?」
「ああ、そうだ」
神代先輩が変わっている人と言っていたが、特に変わった様子はない。骨格と、階段を登った時に少しへその位置が高いところを見ると、女性の服を着ていてメイクをした可愛いものが好きな中性的な男の子のようだが、神代先輩はそういう事に対して、偏見をもつ人間じゃない。
「初めまして。僕が南川凪。直ぐに止血するから、刀を抜くよ。治療に関してはちょっと特殊だけど医者じゃなくて、僕のところに通いたくなるほど、すぐに治るよ」
そういうと、胡蝶の檻とは少し違う見た目の、ランタンを一つ取り出した。
「これに頭をくっつけて」
「あ、ああ」
言われた通り、頭をランタン越しに南川凪とくっつけると痛みが直ぐひいた。それどころか、刀で貫かれた怪我や、骨折も修復されている。何が起きているのか見ると、南川凪に僕の全ての痛みが移されたようだった。南川凪は両手をくっつけて、左腕を抱えている。かなり身体を張ってくれたみたいだ。
「ああ、気持ちいいかも」
「気持ちいい?」
「あ、いやなんでもない。えっとね、このランタンを頭で二人それぞれくっつけると痛みを交換出来る。移す相手は黒色の部分に、移す相手に移したい人は白色の部分に頭をくっつける。胡蝶の檻を魔改造して、希死念慮から痛みに対象を変更した代物さ。他にかなり仕様に誓約がある。例えば傷も本来痛みを感じる期間の痛みが一気に移す相手に来るとかね。まあ、その辺の話はこのくらいにしてこれ」
小さなクリスタルを三つ渡された。
「これを持てば胡蝶の檻の中でも、檻の外の人間と会話出来る。藤宮さんには僕が渡しておくから、もう行って大丈夫。それと、おじいさんの件も把握済みだよ。僕はクリスタルを藤宮先輩に手渡し次第避難するから。じゃあね」
確かに南川家の人間のサポートは優秀だった。それと、神代先輩が「少し変わっている」と言っていたのも何となく察してしまった。そんな事を考える暇はない。急いで走って藤宮先輩が配置した魔法陣を使って、神代先輩たちが戦う神社の境内にワープした。
神社の境内に入ると辻本は既に意識がないのか、完全に憂鬱に操られていた。近くの流血した人間に包帯が巻かれている。笹内は自分の攻撃をしても焼け石に水と判断して、近くの血を流していた人間の応急処置をしていた。七時の攻撃を想定して救命キットを持ってきてくれていたようだ。相変わらず機転が回る。神代先輩はかなり苦戦しているようだった。神代先輩自身はかすり傷程度で済んでいるので、身の危険は無さそうだったが、糸を切ることに苦戦しているようだった。あの俊敏に攻撃出来る神代先輩よりも糸の蘇生速度に追いつけないようで、しかも辻本を操り人形にしている紫色の手の形をした憂鬱は少し先程より大きくなっている。状況把握が出来たので、急いで神代先輩に加勢する。
「神代先輩、お待たせしました」
「轟くん? どうして傷がないの?」
「南川凪くんに治してもらいました」
「そう、分かった。私は左手の糸を切るから、左手をお願い」
「分かりました」
僕は応答次第、刀を持って右手の糸を切り込みに行く。それに勘づいた右手の形をした憂鬱は僕に張り手で潰しにかかるが、回避した。今度は右手が、辻本を拘束している糸を、空中で回転させて僕を絡め取ろうとした。僕はそれに対して糸を水平線に切り込んで、糸を切り落とした。神代先輩も、かかってくる左手を回避して、夢切りの鎌で糸を全て切り裂く。今がチャンスだと思い、フリーになった両手を互いに右手が僕、左手は神代先輩が切ることに成功した。手の形を形成していた憂鬱は散り散りになって、手の形を保てなくなり、辻本が神社の屋根に放り出された。すかさず、神代先輩はランタンに両手を取り込み、僕は辻本の身体を受け止めて神社の屋根に寝かせる。辻本の憂鬱は雲を一つ形成する程のとんでもないない量だった。ランタンに吸引されているが、それでもいつもは長くても十秒で終わる事に対して、辻本の憂鬱は二、三分吸い込むのに時間がかかった。辻本の憂鬱をランタンに封じ込める事には成功した。が、やはりこの件には切っても切れない問題がある。ここまで膨大な憂鬱をランタンの中で、討伐したとしたら神代先輩が記憶を大量に失ってしまう。だからと言って、南川おじいさんの時と同じ行動をして誰かに分ける事は量が多すぎて困難な上に、ここまで膨大な憂鬱だとランタンから再び放出した時に、果たしてどれほどの被害を周りに振りまくのか想定すると出来ない。でも、神代先輩を戦わせるのは止めたい。そうこう悩んでいると、神代先輩が話しかけてくる。
「轟くん、今回は流石に私も戦う。この量の憂鬱はランタンの中で完全消滅させるしかないと思う」
「それでも」
「分かっているわ。でも、もうここまで来ると戦うしかないの」
「そうですよね……」
神代先輩の声は普段のような淡々とした冷静な話し方じゃない。感情が込められていて冷静さを欠いている声だった。
「でも、やっぱり忘れられたくないわ。かといって戦わないという選択肢はない」
「僕が極力戦います。それに、笹内も藤宮先輩もついています」
「そうよ、神代先輩!」
笹内が神社の屋根に登ってきた。いつの間にか、辻本の首に下げられた、ロストメモリーを倒れた辻本から、取り上げて首に下げていた。
「私も行かせて。轟くんと私が戦う。神代先輩はあくまで私たち二人が負ける時よ」
「二人とも」
「行きましょう、神代先輩、笹内。ランタンの中に」
僕は神代先輩と笹内に南川凪から貰ったクリスタルを渡して、ランタンの中に入った。
いつものようにランタンの光に包まれていると、後ろは行き止まり、前には大きなドアがあり一方通行だった。
「特に敵意も殺意も感じないわ」
「仕掛けもなさそうですし、ドアに入るしかなさそうですね」
ドアへの道中、赤い絨毯が敷いてあり、洋風な壁紙と一緒に両脇に笠地蔵が置いてある。その笠地蔵には誰かの名前が書かれて、供養されている。辻本の良心の呵責が生んだ世界なのだろうか、懺悔をするように自分の名前が書かれた地蔵だけは、傘を被っておらず欠損していた。
「ねえ、二人とも私から提案があるの」
笹内がある提案をした。
「ドアの目の前に着いたら、三人皆で写真を撮りましょう。藤宮先輩が居ないのは残念だけど、私たち三人がお互い絶対に忘れないように。辻本くんと神代先輩入れて五枚」
僕と神代先輩は無言で頷き。ドアの前に到着した。ランタンの世界に入って、目の前に見える程の距離だったので直ぐに到着した。笹内が言った通り、三人で写真を五枚撮影する。「必ず生きて帰る」と誓って、神代先輩の事を僕たちが忘れないように、神代先輩が僕たちを思い出せるようにそう願って。
「写真を二人にあげる。今回の事件が収まるまで、神代先輩が『忘れられた人』にならないように。肌見放さずに持っていてよね」
「ああ、勿論だ」
「私も」
各々が写真を大切にポケットに仕舞い、ついにドアを開ける。ドアを開けたらそこには天井も壁も真っ白な大部屋と真ん中に誰かがこちらに背中を見せて立っている。夢切りの鎌を持って、黒いローブを来て、ランタンを腰に着けている。あれは……辻本霞? ドアを閉めると辻本霞と思しき人物が振り向いてこちらを凝視する。
「あれって霞さん?」
笹内はロストメモリーで写真を撮って、現像する。
「……恐らく違うと思う。辻本くんが無意識的に考えている虚像じゃないかな」
「それは笹内さん。どうして?」
「写真を撮っても、何も読み取れない。記憶や思い出だけなら忘れたという理由で筋が通るけど、こちら側を振り向いたけど敵意も殺意もない。ただ、一つ『轟くんとサシで戦おう』という意思だけ」
「僕と?」
神代先輩は笹内が先程撮った写真を、一緒に見る。
「『轟くんと一対一で戦う』本当に笹内さんの言う通りそれだけしか書いてない」
「僕、行ってきます」
死神装束の辻本霞のところに向かう。辻本霞本人なのか、辻本が深層心理で思い描いた「カスミ」かもしれない。ただ、予知夢の事から考えるとバクが辻本霞だと言う事はほとんど確定していると言っていいだろう。恐らく笹内が言っていた虚像の線で間違いない。心の中の霞と目と鼻の距離になるまで近づいた。表情は無表情、目に光が無い。だからといって絶望しているような雰囲気でもない。
「一応聞く。辻本霞かバクか?」
カスミは何も答えない。頷く様子もない。ただただじっと見つめている。
「戦うしかないみたいだね」
僕が後ろに下がり間合いをとった後、刀を抜こうとする。すると、カスミは鎌を両手で持ち攻撃する態勢になった。攻撃は仕掛けてこない。こちらの出方を伺っているのか、空気を読んでいるのか。
「僕が刀を抜いた瞬間でいいかな」
すると、何も意思表情を示さなかったカスミが両足を地面にいっぱい込め始めた。間違いないようだ。
「じゃあ、行くよ。カスミ」
刀を鞘から抜き終わり、構えた瞬間、戦いの火蓋が切られた。笹内と神代先輩は透明な壁が出現して、戦いに割り込めないようになった。カスミは鎌を構えているが、攻撃する姿勢はとっているもののまだ行ってこない。攻撃を誘ってカウンターを狙っているのかと思ったが、鎌をフルスイング出来るように、構えている為隙だらけだった。僕は死角から、攻撃を仕掛けようと、跳び上がり後ろから一気に勝負を決めようとした。カスミに攻撃が通ると思ったその瞬間、カスミはこちらを見てコンマ数秒で防御した。刀で鎌に体重をかければ怯まないかと思ったが、受け止められてそういった気配はない。僕は攻撃を中断して、カスミの鎌を蹴って三角飛びし、地面を蹴って、カスミの懐を切り込む。が、やはり最小限の動作で鎌の表面の部分で弾く。今度は右斜めに切り込む、しかしそれに対応して左斜めに鎌を切り裂いて中和する。駄目だ。全ての攻撃が防がれる。なら、奇策に出るしかない。僕は刀を地面に刺して、刀の持ち手を踏み、瞬間的に刀をもう一度手にとって、空間を切断するように縦に切り裂く。が、それも防御され、ついには刀を弾かれる。無防備な状態で落下してしまった。落下態勢から直ぐに戦闘を行えるように、刀を拾おうとすると刀をつま先で宙に摩擦で浮かされられて、カスミに奪われてしまった。そして刀の刃先を自分の首元に突き立てる。負けた……? 負けたのか。いや、負けたどころの話じゃない。先程の僕の攻撃、カスミは一歩も動かず全て防御した。戦闘中に初めて歩かせたのは、僕に死刑宣告を告げる時だった。でも、負ける訳にはいかない。だからと言ってどうする事も出来そうにない。その時だった。
(二秒後、刀を真下に避けろ。刀が透かした隙に足に回し蹴りを入れろ。防御姿勢を取る。怯んだら、攻撃せずに刀を拾い戦え)
目の前にいるカスミの声か? いや、そんな情けをかける訳が無い。頭の中で声がする。二秒後、言われたとおりに頭をすぐに避けて、回し蹴りを入れると不意を突かれたのか、鎌で防御姿勢をとるが後ろによろける。その隙に刀を拾った。何とか危機から脱出した。もしかしてそういう事か?
「なあ、バク。お前だろ。頭の中の声は」
(ああ、そうだ。目の前のヤツは辻本が深層心理に浮かんでいるカスミだ。アタシじゃない。それと、アタシが来たことに喜ぶのは辻本の計画が頓挫してからにしろ。しかも、アタシが轟に干渉出来るということはそういう事だぞ)
「まさか、祭りの人間が」
(そうだ、藤宮が頑張って助けているが手遅れになったやつが残念ながら居る。祭りに居る人間が亡くなれば亡くなるほど、アタシの人格が現世に戻る)
「なら、本当に祭りの人間が亡くなったら」
(ああ、夢から現世に意識が戻る。最終的には辻本霞としての記憶と、魂が君の身体に宿る)
「だからか? 僕を殺したら生き返るっていうのは」
(ああ、辻本の言っている通り、祭りの人間が死亡するごとに、アタシに辻本霞としての記憶が戻って、バクとしての記憶から置換される。そして、轟の殺害で魂が放出されて、彷徨っている肉体に宿るから復活する)
「なら、本当に霞の復活は」
(ああ、轟の死と祭りの人間の命が条件だ。今は目の前の虚像と戦え。アタシのように予知が使えるから正攻法じゃ勝てない。だから、今回は人命の為にズルしろ)
「分かった」
刀を再び構えて、走り、カスミに攻撃を仕掛ける。カスミはそれにカウンターを仕掛ける姿勢をとった。
(今度は鎌で下から突き上げて、仕掛けてくる。カスミ本体じゃなくて、地面を切れ)
言われた通り、鎌を下から切り上げて来た。
(今だ、左手で防御するから左脇腹を回し蹴りしろ。遠慮するな、虚像だ。痛覚はない)
予知通りに僕は左脇腹に蹴りを入れた。カスミはふっ飛ばされる。蹴りを入れられた部分は、砂のようにボロボロと崩れる。
(そのままダメ押しで右に切り込め)
僕は全速力で走り、カスミの間合いに瞬時に入り切り込みに行く。
(その姿をギリギリ見せろ。鎌で右半身を防御してくるから、鎌の刃先に刀切り上げて吹き飛ばせ)
間合い、鎌で防御、見切った。僕は刀を上に切り上げ、カスミの武器を吹き飛ばす事に成功した。
(油断するな。相手は刀を持っている。来るぞ)
カスミは刀を鞘から出して、居合切りの姿勢を取る。
(一度しか言えないから、絶対に覚えろ。ここしかない。左、左、右)
カスミは僕の目の前に瞬時に現れて右方向から切りにくる。それに対して左から斬って中和する。今度は右、左と次々に猛攻を咎める。
(左、左、最後は突進して心臓に突き刺してくる。その時に手に峰打ちしろ。刀を落としたその隙に真横に斬れ)
右切り、左で防御。右切り、左で防御。そして最後は、僕に蹴りを入れようとするが、すかさず避ける。後ろに瞬時に下がって、カスミは刀を両手に持って心臓目掛けて突進して来る。今だ。心臓まであと数ミリのところで、手を思い切り刃先と逆の方からの叩き。刀をはたき落とす。そして、時間に一切無駄なく、カスミを切り裂いた。カスミは砂粒になり、目の前でこぼれ落ちて、小さな砂の山になった。斬られた部分からどんどん砂になっていく時に口元が動いていたような気がした。「あ」「に」「を」「た」「す」「け」「て」と口元が動いているように見えた。
「轟くん、良かった。勝てたんだね」
「遅いのよ! 本当に負けるのかと思って心配したんだから」
二人が駆け寄ってくる。正直、バクが居なければ僕は負けていた。そして、バクが夢から頭の中まで現れるようになったと言うことは、一定の死者が出たということ。急がないといけない。そうして倒したカスミが砂になった後、目の前に小さな白いドアが出現した。
「なあ、どうしても伝えないといけないことがある」
二人は黙って聞く姿勢になった。
「霞の意識が僕の頭の中に、バクとして現れた。そして、辻本霞としての記憶を取り戻そうとしている」
「ロストメモリーで言っていたバクは辻本霞だったの?」
「ああ、そういう捉え方で正しい。逆に言えば祭りの人間から死傷者が現れ始めている」
「そんな……早くしないと。皆、行きましょう」
「待って、ドアを開ける前に。霞が俺の頭の中で言っていた事が」
「辻本今までタイムリープして背負った罪悪感が蓄積し続けた結果、『憂鬱が途方もない量を放出した。辻本霞の復活より前に兄の憂鬱を切り裂かないとマズイ』」
後ろで僕たちの後ろで同じ言葉を一語一句間違えずに言っている人間が居る、バクだ。バクがついに夢の中ではなく、ランタンの中で実体化出来るようになった。なってしまった。
「バク!」
「初めまして、御三方」
「霞ちゃん!?」
「アタシは……アタしはまだバクだ。今はまだな」
「貴方がバクさん?」
「まあ、とりあえずそんな感じだ。警告しに来た」
「なんだ?」
「その先には辻本の憂鬱の本体が居る。ただ、笹内……君は勝てない。絶対に。だから緊急脱出前提で動いて」
「そんなに強いの?」
「見れば分かるから、もうバクとしての自我が消えてしまうかもしれないから、最低限しか説明出来ない。私はまだ思念体だから、そのドアに入ると憂鬱に侵食されて、人格を乗っ取られる。だから事態が悪化する可能性が高いから、まだ助太刀出来ない。そして、神代さん。貴方は決断しないといけない。私と同じ決断を」
どんどんバクの人格が辻本霞に侵食されていく。
「『忘れられた人』になるか、緊急脱出で貴方の兄を殺めるか?」
「その通り……」
バクは神代さんにこう言った。
「兄を殺してもらっても構わない……貴方がアタシと……あタシの為に同じ末路に辿るなんて……そんなのダメだよ。ダメ」
「バクちゃん? 霞ちゃん? 良く聞いて」
「何?」
「私は『忘れられた人』にならないから安心して」
「何の保証も無しに、死ぬより苦い末路になるんだよ。兄のやった自分勝手な行いの為に死ぬなんて、あタシが……私が許さないよ。神代さんを」
バクは僕から刀を瞬時に奪い、神代先輩に攻撃を仕掛けようとした。その姿を見て神代先輩は夢切りの鎌を捨ててバクを抱きしめた。
「ありがとう、貴方も誰かの為に忘れられたから、その苦しみが分かるから私の為に武器を持ってくれたんだね」
バクは抱きしめられて酷く困惑していたが、神代先輩の優しさに影響されてしまったのか、徐々に表情が崩れて涙を目に浮かべていた。
「でも、大丈夫。確かに保証はない。でも確信がある。私の事を笹内さんも藤宮先輩も、辻本くんも! ねっ! 轟くん」
神代先輩は僕たちの方を見て、笑顔を見せてくれた。バクはただ抱きしめられたまま何も反論しなかった。何も言わなかった。僕と笹内はそれをただ見守っていた。
「霞ちゃんの事も忘れないわ……」
バクはただ抱きしめられる事を受け入れていた。産まれた時に、母親から無条件に抱き上げられる赤ん坊のように、ただその時を無抵抗に噛み締めていた。
「行くね。バクちゃん。霞ちゃん」
「絶対に私も忘れないよ。神代さんの事」
神代先輩がバクから手を離すと、ドアに向かってドアノブを手に握った。僕らは手招きされて、ドアの前に立った。
「じゃあ、開けるよ」
神代先輩はドアを開けて、三人同時に中に入った。
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