第5話 白秋事件② 紅い月に憎愛を込めて

辻本は僕から僕自身の殺しの許可する話を提示すると、鳩が豆鉄砲を食らったような表情だった。しかし、「そういう約束をしたと霞に伝えてもいい」と言った上での発言だったのに、辻本に一切喜んでいる素振りや様子なんて無かった。ただ、「ああ、必ず条件を守る」と言った後は何も言わずに無言でその場から立ち去った。僕は辻本が屋上から立ち去る後ろ姿をただじっと見つめていた。魂が抜けたような歩き方だった。いつものハツラツした辻本の姿じゃなかった。辻本がドアを開けて屋上から居なくなった時、僕はスッと立ち上がって学校の屋上から見える景色を見ていた。これが最期の景色かもしれない。じっと屋上の平穏な町並みを胸に刻んで、僕は屋上を後にした。

「轟くん! 轟くん! どこなの」

屋上から三階校舎まで階段を降りていく途中、笹内が慌てた様子で僕を探していた。

「どうした? 笹内」

「一階、カウンセリングルームの部屋の例の部屋! 神代先輩はもう来ているから早く来て」

待て? その部屋って写真やロストメモリーを隠す場所? よく見ると笹内がいつも持っている、ロストメモリーを持っていない。僕は急いで階段を降りて、笹内と一緒にカウンセリングルームの隠し部屋へ向かった。

「轟くん! 良かった見つかったのね。早くこっちへ来て」

カウンセリングルームの隣に写真を補完する部屋の前に神代先輩が待っていた。神代先輩は藤宮先輩の霞の悲劇の話を乗り越えたようで、いつもの神代先輩だった。良かった。ドアを笹内が開けて、中に三人で入る。部屋が荒らされている。辻本が写っている写真は全て燃やされて、ゴミ箱に捨てられていた。

「皆が昼食を食べる時間、その時にこの前撮った写真を保管しにここにやってきたの。そしたら、ドアが開けっ放しになっていて、辻本くんが写っている写真は全て燃やされて、霞ちゃんが写っている写真は全て消えているの。それと、いつもカメラを保管している場所から」

机の下に隠してあった段ボール箱を笹内が取り出した。

「なくなっているカメラが」

ロストメモリーが盗まれた。段ボール箱は既に空っぽだった。

「机の上の写真は?」

綺麗に整頓されている。折り目がつかないように。

「特に情報が含んでいない写真、と言うより辻本くんと霞の情報が一切含まれてない写真」

「これは、笹内さん。犯人って」

「辻本くんで間違いないみたい」

「辻本……」

「何か知らない? 轟くん」

「一緒にお弁当を食べた。霞の事も探れないかと思って」

「何かおかしいところは?」

「……おかしいところ」

時間遡行出来る懐中時計エンデバーの存在、タイムリープし続けている辻本、霞の為の大量殺人、神代家の祖母の死んだ理由、おかしいところを上げればキリがないが、その話が写真を荒らす理由に繋がったとしても、いつ犯行したかという話には繋がらない。エンデバーは「霞が居なくなった翌日」に時間が巻き戻る。それなら、一つだけある。

「笹内、ご飯食べてからここに来たか?」

「ええ、それがおかしいところ?」

「辻本と同じクラスだからいつも一緒に屋上に向かって弁当を食べている。今日は『用事がある』と言って、十分遅刻して別々で来た」

「……ちょうど私が居なかった時間だね」

「この部屋がもうバレてたって事?」

「可能性としてはありえると思うけど。実はこの部屋以外に何箇所か隠し場所を用意しているの。生徒会室の目の前の使われていない教室に拠点を移したり、写真を分散させている。今日、ここを決め打ちされたと思った方があり得る」

「確かに、私はここに笹内さんが来ている姿を何回か見たことがあるわ。でも、笹内さんが居ない時に部屋に不審なものが無くなっていた」

「事前にバレたかどうか、不審な人物の写真を撮って確認して、バレていたら拠点を移しているからね」

それにしても、追いかけられたら見つかる程ザルだったような……そんな事は今、どうでもいい。

「神代先輩、笹内、土産話がある。辻本霞の件で色々聞かせてもらえた」

「どんな事?」

「色々多すぎて、全部話せない。生徒会室か、出来ればランタンの中に入れるならそこで話したい」

「ランタンは憂鬱の感情が作り出した空間だから難しいわ。藤宮さんが生徒会室に居る。彼女は霞さんの件を知っているし、生徒会室にしましょう」

正直、まだ信用していいか藤宮先輩は分からないが、あの時の罪悪感や保健室の看病は本物だった。夢でも一緒に祭りに行っていた。そこから、逆算するとしたら、むしろ話して置いた方がいいかもしれない。継承の仕組みさえ知る事が出来れば、例え信用出来ずとも、辻本が能力を使える状況を未然に防ぐ事が出来る。そうなれば、藤宮先輩だけになり、そこまで脅威にはならない。

「なら、生徒会室へ急いで向かおう」

「ええ」

僕たち三人は生徒会室へ向かった。

 生徒会室では藤宮先輩が作業している。と思っていたら紅茶を作りながら待っていた。四人分ティーカップがある。

「あら、三人とも。ちゃんと二人はロストメモリーの件を伝えられたみたいね」

「ロストメモリーの事を伝えたのか? 笹内」

「藤宮先輩から辻本霞さんの事まで全部保健室で聞かされたよ。それに、昨日の夜の三人分の憂鬱の討伐は藤宮先輩が神代先輩の代わりにやったわ。それに関しては間違いない」

そう言って、ファイルから取り出して、その時の写真を見せた。ロストメモリーで撮った写真の一部、特に笹内が大切にしているものは、肌見放さずファイリングして持ち歩いているようだ。カラオケで皆と写真撮影した時の物も含まれていた。

「轟くん、その写真をちゃんと読み取ったけど、笹内さんの言った通り、藤宮さんがやった事は一切間違いないわ。ちゃんと笹内さんは隠れて撮ったみたいだし、信用される為の工作ではなく、純粋に私の為にやったと思って間違いない」

「ええ、神代先輩に憂鬱が発生した事を連絡して貰って、隠れて私が撮影したから信用してもいいと思う」

それなら、信用してもいいかもしれない。それに藤宮先輩を信用した上で話さないと埒があかない件でもある。とりあえず、継承の手段の情報さえ手に入れて、その手順が難しければ全部話しても問題ないだろう。

「辻本と話したんだ、霞のこと。とりあえず皆に話したい」

「私も入っていいの? 神代さんと笹内さんをあんな目に合わせといて? 本当に殺してしまうかもしれなかったんだよ?」

「ああ、二人がいいなら僕は構わない」

笹内も神代先輩も同意した。

「藤宮さん。貴方の言ったことはいずれ私自身が知らないといけなかった事。あの一件は仕方がないわ」

「私も、保健室で藤宮先輩が熱心に看病していくれていたのも事実。霞ちゃんが辻本霞だった何て知らなかったし。神代先輩がそんなに命を張っているなんて考えもしなかった」

二人は藤宮先輩に友好的だった。ただ、構わないと言葉では言ったが、憂鬱の増加、辻本霞の件に絡んでいる。少し警戒した方がいいだろう。

「藤宮先輩、話す前に聞きたい事があります」

「なんでしょうか?」

「あの時、コンサートホールで話した通り、継承について聞きたいです」

「ああ、分かったわ」

そう言うとホワイトボードを使って図や絵を描き始めた。

「まず継承には能力の完全譲渡する完全継承と、一部継承がある。完全継承はその名前の通り、死神としての能力、道具を全て特定の相手に引き継ぐこと。完全継承は継承した本人は能力を使えなくなる。一部継承は条件付きで死神としての能力を使用出来るように、一時的に能力を使える状態にすること。轟くんは神代さんが能力を使用した時に能力が使えるようになるから一部継承にあたる。辻本霞は神代家の祖母から、全ての能力を独立して使えたから完全継承にあたる」

なるほど、概ね予想通りだった。しかし、一部継承の方法や継承条件が分からない。死神家業を知る事なら笹内は出来ないとおかしい。それに、最初に変身を見せた時は、手を繋がないと視認出来なかった。

「藤宮先輩、一部継承と完全継承の条件は?」

「一部継承の条件は継承したい人物が血の繋がりがある事を前提として除くなら、能力や道具の説明をした上で、継承したい相手に能力を接触して実演する。そして、継承したい相手が死神家業に同意しないと与えられない。後はかなり稀な例だけど、血筋がある家系除いて、憂鬱を視認する事が先天的に出来る事。これは霞を除いて歴史的にはほとんど存在しない」

「待って、ならどうして僕が変身出来た?」

「神代さんから一部継承の儀式を受けてないの?」

「藤宮さん、轟くんは夢で見た事があると言ってた。後、神代先輩が死神装束だった時に、初めて出会ってから既に憂鬱を視認する事が出来たわ」

「……妙ね。霞が視認出来た理由は自ら憂鬱に侵された上で、気絶した後、夢の中で戦って自力で憂鬱を克服した経緯があったの。それが、神代家の祖母が霞に完全継承する経緯になった理由の一つ。夢で憂鬱と戦った事はあるの?」

「いや、ない……ただ、予知夢と言うか正夢なら見た。神代先輩が死神装束になって、紫色の憂鬱と戦っているところを見て、その現場に実際に夢の中で見ていた」

「霞と同じくらい稀な例ね。と言うより少なくとも、家柄の歴史的には霞のような家系外で視認出来る存在は文献には残っていたけど、轟くんは初めてかもしれない。本当に何かない?」

「えっと」

ここでバクの事を言うべきか?もしかしたら、バク=辻本霞なら死神の経験がありと判断されて、一部継承の条件を満たしたのかもしれない。ただ、エンデバーの話の方が先だ。それを説明した次にバクの件。藤宮先輩が辻本と共謀している前提に立って話すならその手順が好ましい。バクは恐らく辻本霞の思念体。完全継承の話や、エンデバーの反応次第では藤宮先輩が白だと分かる可能性もある。

「特に思い当たる節はないです」

「……なるほど。まあ、神代先輩と遠縁か霞と同じような経緯なのかもね。次は完全継承」

藤宮先輩は特に疑う事もなく、霞と同じ特例だろうと考えたのか、深く追及する事もなかった。

「完全継承は先程の一部継承を行う方法に加えて、戦闘経験を一度積むこと。そして、双方同意の上、夢切りの鎌を継承相手に持たせて、契りとして能力者と継承される人物の血を一雫、夢切りの鎌に垂らす。それで継承完了。能力が完全譲渡される。ただし、夢切りのデメリットは継承しても元の能力者が失った記憶は元に戻らずに持続する」

良い事なのか、悪い事なのか。少なくとも完全継承の方法はかなり難しい。ただ、気になる事がある。

「どうして、夢切りの事を霞も神代先輩も知らなかった?」

「それは、そもそも死神家業で使う能力じゃなかった。厳密に言うとシステムの欠陥を突いた技だから。憂鬱切り→ランタンの中に閉じ込める→特定の魂と融合がワンセット。南川家のおじいさんにやることが本来の使い方。最後の工程以外で憂鬱を消滅させる事が想定されてなかった上に、確立なんてされてなかった。記憶喪失はペナルティというより、バグに近い。だから、継承するにあたり、能力説明する行為に含まれていないから教えなくても継承出来る」

「そもそも、魂との融合をしなかった場合どうなるかリスクが高すぎて先人は試さないし、ペナルティがあるなら、完全継承の邪魔になる上に、『忘れられた人』になる可能性を考慮した上で教えないのが普通って事か」

「そういうこと、後は藤宮家も夢切りの鎌と魔法陣の名詞が代替されるだけで、継承方法はほとんど一緒。これで大丈夫?」

「はい、理解しました」

理解は出来た。しかし、それなら辻本の大量殺人はどんな手法を使っているか引っ掛かる。正直、藤宮先輩が一部継承したと考えた方が楽だが、神代先輩にそこまでした上で、親身に助ける意味があるのか? となれば、藤宮先輩の心理は霞の贖罪と、神代先輩を霞と同じ末路を辿らないという二足のわらじの可能性もあり得るという事。内通している可能性があるなら、エンデバーを秘匿にせずに、生徒会役員全員に共有するデメリットはないはずだ。それこそ、内通しているなら夏祭りの時の裏切りへの牽制にもなる。藤宮先輩がエンデバーを話して以降、情報統制を図った場合は今まで赤裸々に話していた行動から辻本と結託している可能性が高くなる。辻本と話した事を全部ここで話した上で、藤宮先輩に知っていることを全部聞く事が恐らく最適解だろう。そしたら、藤宮先輩が敵か味方かどうか知る事も出来る。

「藤宮先輩、ありがとう。継承の話が理解出来た」

「いえいえ、他に質問は?」

「えーっと、そしたら三人全員に話したい事がある。辻本の事と辻本霞の新情報」

生徒会役員の三人はこちら側の目を見て聞く態勢になった。

「辻本はエンデバーというロストメモリーのような特殊能力を持った懐中時計を持っている」

「エンデバー? 初めて聞いた」

「名前は何処かで聞いたことある。でもロストメモリー以外に霞ちゃんの遺産があるのは知らなかった」

神代先輩は初耳。笹内は朧げに覚えているみたいだ。

「藤宮先輩は?」

「いえ、知らないわ」

藤宮先輩の態度に特に変わった様子はなかった。嘘をついているようにも見えない。

「簡単に言うと時間を巻き戻せる。辻本霞が居なくなった翌日まで」

「辻本くんがタイムリープ出来るって事?」

「ああ、しかもだ。辻本は霞を復活させる為に何度もエンデバーを使ってやり直している。ロストメモリーで仲良くなる前提で話していたのも、それだ」

三人は黙った。恐らく何か既に全員察したようだった。

「まさかだけど、もしかして霞ちゃんを復活させる為に辻本くんは殺人をするつもり? 手段を選ばないって言っていたのも」

「ああ、ただ、まだ大量殺人はしないようだ」

「まだ?」

「今日の祭りの日に起こすと本人が。起こすタイミングは花火が打ち上がる七時。霞を復活させる為に僕も殺すつもりだよ」

「だから私の大切なロストメモリーを奪った事も、写真を燃やした事も、それとカラオケの時も頑なに轟くんの背に隠れて撮られないようにしたのも」

「そう、計画を悟られない為」

「そんな事、霞ちゃんが望む訳が無いよ」

笹内は憤慨していた。行き場のないを怒りを抱えていたが歯を食いしばって抑えていた。その時に神代先輩が質問した。

「それって不可能じゃない? 轟くん。それこそ、大量殺人なんて起こせばすぐに警察にバレるわ。それこそ私と藤宮さんで止めればいい話じゃない?」

「確かに私たちが止めれば済む話じゃない? 轟くん」

それはそうなんだ。でも、話を聞いている限りだと大量殺人には成功している。

「いや、理由は分からなかったし教えてもらえそうにも無かったが、どうにかして大量殺人は過去に成功させているらしい。しかも十回中八回。でも、霞は生き返らなかったからリスタートしたらしい」

笹内は突然僕の写真を撮影してきた。

「どうした? 突然?」

「轟くんが死ぬって言ったから一応思い出として撮っておきたかった」

「大丈夫、絶対に死ぬ気はないから」

「そうよ、弱気にならないで笹内さん。二人がかりとは言えど、轟くんは藤宮先輩と戦って倒した事があるのよ」

「ちょっと神代さん! 結構プライドがあるんだよ。私には」

「いい忘れていたわ、模擬戦よ。笹内さん」

神代先輩、フォローが適当すぎる。

「あ、そうなの? そんなに強いなら轟くんが死ぬなんてあり得ないか。撮って損した」

「笹内? それ褒めてるの?」

「んー、うん」

「歯切れが悪い」

「あ、いや本当に褒めてるわ。キャー轟くん強くてイカすって感じ」

笹内も褒め方が適当だ。

「でも、神代先輩の死神としての力を共有と出来る轟くんと、藤宮先輩が居てどうして大量殺人を成功させられるの?」

褒め方は適当だけど、芯を食った発言をしてくる。

「そこが疑問なんだ。だから継承の話を藤宮先輩に聞いた。正直、ローブの認識阻害効果や隠密効果を使わないと無理難題すぎる」

「そもそも神代家は完全継承を行わないわ。私一人よ」

「ああ、辻本も言っていた。だから一応聞きたかった。藤宮先輩は辻本に継承をしたりしていない?」

「それに関しては一部継承含めて継承をやってないわ」

そう言って、両手を合わせて合掌、次に、両手の人差し指と中指をくっつけて菱形を作り、最後に自分の両指を絡めて祈るポーズをとると、白いローブに手に魔法陣が描かれた状態に変身した。

「この通り完全継承も」とわざわざ実演して見せた。なら、尚更どうやって?

「とりあえず、人聞きの悪い事を言ってごめんなさい。藤宮先輩」

「いいえ、私は辻本霞の事を知っているから疑われて当然よ」

すぐに先程の手順を逆にして変身を解いて、元の制服姿に戻った。

「とすると……僕には思い付かない」

「他に何か言ってなかった」

「辻本はエンデバー、ロストメモリー、あと一つ辻本霞が遺した遺産があると言っていた」

「あと一つは?」

「教えたくなかったからなのか、本当に知らないか分からないが、見つけられてないと辻本が」

「そういう意味なら、この件は轟くんも怪しいと感じるよ。私目線の話だけど。それこそ、ブラフを作る為に利用されていたりとか」

「まあ、正直否定は出来ない」

「藤宮先輩。エンデバーが時計のメーカーじゃなくて、霞ちゃんの遺産かどうかは知らなかったけど、名前は知っていた理由を思い出したの実は。それがこれ、ファイリングしてる写真にあるの。辻本くん撮れるのは超レアだから。一枚だけはファイルに残してある」

笹内、流石物持ちがいい女だ。万が一、藤宮先輩に疑われたままだと共闘する事が難しくなっていた。笹内はファイリングした写真を見せて、神代先輩と一緒に読んだ。

「『エンデバーは持ってる。そしてロストメモリーと、後一つある。絶対に。でも、誰も知らないし、俺もどこにあるのか分からない』」

神代先輩と笹内の息が合った。藤宮先輩は少し気まずそうにしていた。

「と、轟くん。私紅茶入れ直すは。冷たいのは代わりに私が飲む」

「そんなに気を使わなくても、さっき僕も疑ったからお愛顧で」

「いえ、ちゃんと」

僕が一口も飲んでいない、冷めた紅茶を藤宮先輩は飲んだ。

「えっと」

「ペナルティー」

「え?」

「人を疑った罰として、冷たい紅茶(ティー)を飲むからペナルティー」

「藤宮先輩?」

「藤宮さん?」

「藤宮……先輩? 熱でもあるんですか?」

藤宮先輩も想像を超えてきた。一番この中で適当に生きているかもしれない。

「面白かった?」

笑顔だ。本気で面白いと思っているらしい。

「えっと……最後の遺産に心当たりがありますか? 藤宮先輩」

「面白くなかったの?」

「藤宮先輩」

「心当たりはない。辻本くんが知らないなら誰も知らないと思う」

正直、藤宮先輩の継承の線がないとしたら、放課後の発言はミスリードで、笹内に写真を撮られた後に三つ目の遺産を入手した。それが高い殺傷能力をもっている。もしくは本当に三つ目の遺産の事を知らずに数多のタイムリープを経て祭りで大量殺人する手法を確立したのだろうか。正直この二つの考察にはかなり引っかかる部分がある。前者はそもそもロストメモリーの能力を知っているとしたら撮影されてまでミスリードを作るメリットが現時点の情報ではデメリットの方が多い。後者は単純に再現性が低い。

「継承の線がない前提なら、やっぱり三番目の遺産が高い殺傷能力をもっていて、笹内が写真を撮った後に手に入れたと思う。そして放課後の発言はミスリードが含まれている。藤宮先輩の言った通り、人を殺めると記憶が戻るなら、エンデバーやロストメモリーの特徴にある皆の記憶に残る為の遺産という共通点もあるから。正直、かなり引っかかるけど他の手段が思い浮かばない」

「私も同意見。物理的に私は継承が出来ない。藤宮先輩も完全継承してないなら、能力者本人の変身が必要な一部継承で大量殺人を行うのはかなり難しいと思う」

「私も賛成! 藤宮先輩の人柄だと、人殺しをするなら辻本くんに継承しないと思う」

「正直、不透明な部分が多すぎて怖いけれども、三つ目の遺産を手に入れたからロストメモリーを奪った線があり得そうなのは私も同感よ。わざわざ今写真を燃やすような行動をとった事も気掛かりだわ。奪還は今日じゃなくてもエンデバーの力で探し出せたはず」

あの時に、辻本が嘘をついていると考えづらかった。でも、かと言って一部継承の条件が神代先輩と藤宮先輩で違うところがあったと言っていたが、そこがブラフだとしていても微々たるものだろう。大量殺人を安定させるのは難しいはず。藤宮先輩なら例え協力していたとしても、何かしら一部継承にリスクをつけると思う。何故なら藤宮先輩は霞の件で罪悪感をもっていて神代先輩を攻撃したという行動原理だ。神代先輩を傷つけないように、追加で条件を付けたり、変えられるなら悪用される手法は少なくとも取らない。

「そしたら、どうするか何だけど……」

三人とも黙って俯いていた。僕のように不透明な部分が多すぎて作戦が思い浮かばないのだろう。

「色々考えても無駄な気がする。間違った能力を推察して、間違えた結果、空回りした方が危険だと思うわ。最善を尽くして、戦うしかないと思う」

沈黙が少し続いた後に神代先輩がそう言った。すると、藤宮先輩からも何か提案があるようだった。

「それなら、笹内さんが自衛出来るように一部継承を行う。私の能力が使えれば、貴方たち二人が死神になった姿も無条件で見られるようになるし、やって損はないと思う」

「藤宮先輩?」

「流石に大量殺人を完遂出来ると仮定したら能力を持っていないと損、と言うか危ないと思う」

なるほど、確かに藤宮先輩の能力ならサポートや自衛に長けている。笹内なら魔法陣による移動さえ使いこなせれば戦力にならずとも、殺されるリスクが減るだけで充分だ。

「藤宮先輩が良ければそうした方がいいと思う。魔法陣の移動さえ使えれば、戦えなくても自衛出来る。それに、神代先輩と僕が変身した姿を無条件で見られるなら、状況把握しやすくなる」

「ええ、勿論」

「ありがとうございます、藤宮先輩」

「私は神代さんを霞さんと同じ末路を辿らせない使命と、大切な後輩を守らないといけないから。もっと言うと辻本くんの殺人を止めたい」

藤宮先輩の気持ちに声がこもっていた。信じたいから、信じよう。色々考えたが花火が打ち上がる時間になるまで結局何も分からないのだから。

「えっとね。皆に提案があるの」

と笹内が手を挙げていった。

「神代先輩が皆から忘れられないように、沢山思い出を作る為に今日の祭りを満喫しない?」

最初は何を言い出したんだと思ったが、名案だと気が付いた。

「確かに、仮に祭りで大量殺人する事が嘘だとしても、この近場なら直ぐに対処出来る。しかも、もしも命だけなら都会にいけばいいはず。少人数なら学校の人間をバレないように捧げればいい。この町の人じゃないといけない可能性があるわ」

「そもそも、霞ちゃんの復活をここまで手こずるとしたら、訳アリの可能性がありそうよね。それこそ、儀式的な何か」

「僕も同感。僕の殺害と町の人を大量殺人した時だけやっと霞が現れたらしい。霞自らエンデバーを起動させて、振り出しに戻った事もあると言っていた」

「これで皆決まりね! 行きましょう! 放課後、夜の六時に神社のお祭りへ!」

放課後、夜の六時十分前に着くと、生徒会役員の三人が既にそこで待っていた。

「ごめん、お待たせ」

「遅いわよ轟くん」

「ごめんなさい神代先輩、何分遅刻した?」

「約二分」

「神代先輩の家と僕の家まで徒歩何分?」

「二分」

「神代先輩、僕何分遅刻した?」

「二分」

「神代先輩?」

「冗談よ。藤宮先輩と笹内さんは一時間前に来ていたみたい」

藤宮先輩は誰か居ないかキョロキョロと周りを見る。

「辻本くん。笹内さんに対して一部継承を、笹内さんの家に出向いて行った。後は、辻本くんが居なくなったタイミングを見計らって、事前に下見しに来たわ。二人でそれぞれ瞬間移動の魔法陣を予め三セット六箇所マーキングしたわ。神社の落ち葉で隠しているから簡単にはバレないはずよ」

「位置は?」

「一応、私が敵の線は消えてないでしょう? だから、笹内さんにはマーキングを一セット二箇所は私の見えないところにマーキングして貰ったわ。後は、私のマーキングした一箇所はそれぞれ使える瞬間移動出来るように共有した」

「手の魔法陣のストックは藤宮先輩から貰ったわ! けるべろすとやまたのおろち!」

そう言って、藤宮先輩とお揃いの白いローブを着た笹内はケルベロスとヤマタノオロチを両手の魔法陣から召喚した。どう見ても、柴犬とちっちゃい蛇にしか見えない。どちらも顔が一つしかない。

「笹内、これ家で飼ってるペットか?」

「違う! 轟くんの馬鹿! けるべろす、やまたのおろち! 轟くんに攻撃」

「ちょっと痛い! ちょっと熱い!」

痛みも柴犬から突進されたレベル。蛇に関してはライターの火に数秒炙られたくらいの熱さ。

「一応、練習時間一時間だし、瞬間移動を重点的に指南したから」

「大器晩成よ!」

「まあ、護身出来ればいいから。一応能力の説明を聞いてもいいかな。藤宮先輩」

「色々あるけど、大きく分けて三つ。今まで倒した憂鬱を使い魔として一時的に召喚出来る。ストックは少ないけれど、ちゃんと私が使えるものは全て笹内さんに共有した。そして、瞬間移動の魔法陣。この前は空中戦を想定して、垂直に交わるように描いたけれど、今回は地面に書いたわ。魔法陣Aから魔法陣aと対応した魔法陣に瞬間移動出来るようにね。最後に、武器の錬成魔法陣。木に書けば、木を素材にした武器になる。あとは模造品になってしまうけれど、相手が使った武器の一時的なコピー。神代さんとの決闘に使ったものと同じで、ロストメモリーや夢切りの鎌の特殊能力自体はコピー出来ない」

「説明してくれてありがとう」

ここまで、至れり尽くせりだと流石に辻本と共謀しているとは考えづらい。もし共謀しているなら、フェアな戦いをする為に強さを均衡しようと考えているのかもしれない。神代先輩の記憶忘却の阻止と、霞復活の手助けを両立するなら、敵だとしても笹内に教えるのはあり得なくない話だ。あまり本人の性格的では考えられないが、味方に見せることにも使える。でも、理論上の話抜きで感情論的な話をふるなら、藤宮先輩の今まで見てきた人柄だと敵だと考えられない。考えたくない。あの時の神代先輩との決闘と、保健室での笹内と神代先輩の看病は本物だった。味方、あっても敵でも味方でもない中立だと僕は思った。

「さあ、花火が上がる七時までは満喫するわよ! 沢山思い出作りましょう。ね、神代先輩!」

「ええ、でも不意打ちの警戒はしとかないといけないわ」

「それに関しては私と笹内さんが、定期的に偵察に向かえるよう魔法陣を設置してある。それこそ、辻本くんと轟くんが約束したんだから七時までは心配しないで大丈夫よ」

「そうよ、藤宮先輩の言う通り。神代先輩は七時まではお祭りを楽しむ。これは絶対よ!沢山思い出を作って忘れられない為に!」

「ええ、皆ありがとう」

神代先輩はこれまでにないほど笑顔だった。この笑顔を守る事、それが僕たち三人にとっては絶対にするべき事だと共通で認識していた。だからこそ、神代先輩の笑顔を見られた時は、藤宮先輩と笹内二人と目が合った。

 花火が上がるまで三十分前のこと。焼きそば、リンゴ飴、金魚掬い、神代先輩にお祭りを楽しんで貰える為に三人で協力して沢山遊びを教えた。

「神代先輩、射的があるわよ! 私凄く得意よ! 一緒にやりましょう」

「ええ、喜んで」

神代先輩と笹内は射的屋の前で店主さんと話している。いくらなんでも羽目を外しすぎだ。もしかしたら、辻本が不意打ちをしてくるかもしれない。僕はお面を被りながら、綿飴とリンゴ飴を食べながらそう考えた。藤宮先輩はニコニコして妹を見守る姉のように、神代先輩たちを見守っている。

「藤宮先輩、どうです?」

「ええ、ちゃんと脇をしめて撃つべきだと思う」

「そうじゃなくて」

「辻本くんは今のところ、祭りには居ないわ。魔法陣で定期的に神社の人気のない茂みを見たり、下の階を見てみたけれど、そこにも居ないわ」

実際に瞬間移動しているか確認する為に、横目で隠れて見ているが、実際に茂みから何処かに消えるところを見た。やはり、嘘をついてない。そう考えながら、射的をしている笹内と神代先輩を見ていると、笹内さんが地団駄を踏みながら戻って来た。

「あの、店主。絶対に倒れないようにしてるわ! 磁石とか付けて!」

店主さんに聞こえないように、僕と藤宮先輩の目の前で言ってきた。神代先輩は? と思うと景品を沢山持ってきている。

「神代先輩、そのお菓子とかゲームソフトとか」

「ええ、全部撃ち倒してきたわ」

「……まさか」

「そんな人聞きの悪い事を言わないで。ローブの認識阻害なんて使ってないわ」

「まだ、そこまで言ってませんけど」

「冗談よ」

今回は本当に冗談なの? 笹内に聞きたいところだけど、ずっと藤宮先輩に射的の愚痴を言っていた。藤宮先輩は苦笑いしながら、ウンウンと聞いていた。割って入るのはやめておこう。

「トルコアイス私食べたい。神代さんも一緒に来ませんか?」

「勿論よ、藤宮さん」

藤宮先輩がトルコアイス屋さんに神代先輩を連れて行った。嫌な予感がする。笹内は目を輝かせて、カメラを構えていた。笹内、頼むから止めてくれ。

「トルコアイス、神代さんからどうぞ」

「いらっしゃい! 三百円だよ」

神代先輩はお金を店主さんに渡し、アイスの容器を貰う。トルコアイス屋の店主さんは神代先輩にアイスをすくい上げて、アイスをお玉で神代先輩に渡すと思わせといて、渡さない。八割の人間はこの意地悪を体験したくてトルコアイスを頼んでいるのだろう。藤宮先輩は神代先輩がアイスを貰えずに、切ない表情を浮かべているのを見て、口に手を当ててニヤニヤ笑っていた。藤宮先輩、結構いい性格している。笹内はと言うと、カメラを連写していた。

「何枚撮った」

「百二十四枚?」

「流石に撮りすぎ」

「あの写真、売れる」

「やめろ、笹内」

藤宮先輩と神代先輩がアイスを片手に戻って来た。

藤宮先輩はニコニコしている。神代先輩のテンションが露骨に下がっていた。

「笹内さん、いくら?」

「四」

笹内は四本指を立てる

「安いわね」

「藤宮先輩??」

「藤宮さん、何を買うの?」

「たこ焼きを買ってもらおうかな……って。」

「たこ焼き屋さんならさっき」

「水風船を買おうかと」

「それなら、トルコアイスの横に」

「……」

「藤宮先輩、焼きそば食べませんか」

「ええ、食べましょう」

「轟くん、焼きそば屋さんなら『焼きそばはあっちですよ!藤宮先輩、神代先輩!』」

「轟くん?」

純粋な神代先輩には藤宮先輩のあんな趣味なんて教えられない。藤宮先輩と笹内は神代先輩に気付かれないように親指を立てて僕に見せてきた。性格がミスマッチだと思っていた僕がおかしかった。なるべくして、仲良くなっている。この二人は。

「轟くん。トルコアイスを買ってきてほしいわ」

「え、お腹がいっぱいになりません?」

「ちゃんと、私の思い出の為に買って来て」

「……」

訂正する。三人共だ。

 花火が打ち上がる五分前、屋台を楽しみながら祭り会場を歩き続ける、その先の階段を登り、頂上の神社に辿り着いた。人集りが少なくなり、僕らを除いて数十人しか神社の近くには居なかった。何せ屋台がここは少ない。

「神社でお願いしましょう。皆!」

笹内はそう言うと、二人とも頷いた。僕も勿論頷いた。二礼二拍手一礼、やはり神代先輩も藤宮先輩も諸作を覚えていて、とても綺麗だ。笹内は半目で二人を見て真似をしている。笹内、分かるぞその気持ち。親戚のお葬式の時のマナーが間違っていないか不安で、目の前の人と同じようにお焼香を摘んだ事を思い出した。

「どうせなら、皆で一緒に鳴らさない?」

「勿論」

「ええ、」

「喜んで」

神代先輩の提案に皆で乗っかり、鈴の音を鳴らした。ガラガラと鳴る鈴の音。皆で手を合わせてお願いしていた。僕も、今回の件で辻本含めて平穏に解決して、仲良くなれますようにと一抹の思いを込めて神社に祈った。

「皆は何を願ったの? 私は絶対に皆が仲良くなるあり続けること。辻本くんとも勿論。それと神代先輩が忘れないように幸せになって、それと宝くじが」

「十円玉で叶うかしら」

「藤宮先輩、確かに」

そう言うと、千円札を取りだそうとしたので慌てて止めた。高校生の千円だ、貴重すぎる。

「笹内、流石に五十円か百円に」

「五百円は」

「お前カメラ買ったから金欠って言ってたじゃないか、最近」

「でも、神代先輩の為なら」

「叶わなかった時、余計ショックになるぞ」

「それこそ、安かったからって後悔が」

「二人とも」

藤宮先輩が二千円入れた。

「これで大丈夫でしょう?」

「「藤宮先輩ありがとうございます」」

二人で頭を下げた。藤宮先輩は全然気にしている様子でもなかった。

「いいえ、これは私の為にもなるのよ。それこそ私も辻本くんを止めるたいし、辻本くん含めて一緒に仲良くしていたいもの。それに二千円で神代さんの『忘れられた人』にならないなら安いわ」

藤宮先輩の笑顔には嘘偽りがなかった。笹内は藤宮先輩に抱きついて、離れなかった。神代先輩は二人を見つめながら、少し涙目だった。すると、神代先輩は僕らに向かって少し儚げにこう言った。

「でも、忘れてしまうのよ。私は今回のお祭りもいつかは」

予知夢だ。来る、辻本が。そしてここからは絶対に「再演」をしてはいけないとバクは忠告していた。忠告通り絶対に夢の通りに行動する。それを聞くと笹内は夢の通り、神代先輩の顔を覗いて言った。

「そしたら、私たちがまた教えればいいんだよ。こんな思い出が沢山あったんだって。神代先輩が忘れたら、また私たちで教える。そうしたら私たちも神代先輩も思い出がまた増えて、私たちも神代先輩を忘れないから」

神代先輩はいつも微笑んでいるが、心の底から感情を顕にして笑っていた。

「ええ、絶対に私も皆と友達だったことは忘れないわ。絶対に忘れるものですか」

それどころか、少し泣いていた。嬉し泣きしていた。

「泣くのはまだ早いよ。神代先輩が泣くときは今の幸せがずっと続くと決まった時よ。ね、轟くん。藤宮先輩」

夢では確か僕はこう言っていた。

「ああ、絶対に神代先輩の事も皆の事も忘れない」

「ああ、ええ」

バクの忠告通り、発言も一語一句間違えずに言った。その時に花火が打ち上がった。パッと光った、一つ。それは夢の中で見た時のように酷く美しく見えた。赤い花火。彼岸花じゃないと祈りたい。「花火が上がった時が合図だ。僕を辻本霞復活の為に殺す事を許可する」と花火が咲いたのを見て、僕自身が辻本に言った言葉が、フラッシュバックした。周りを見渡す、パッと花火が弾けた音の間、祭りにいた周りの客や屋台に居る人間、紫色の霧に侵されていた。憂鬱だ。周りの人間はその場で気絶したり、倒れ込んでいた。憂鬱に侵されていない人間は何が起こったか分からなかったようで、パニックになっている。出血して倒れている人間がやはり居る、辻本霞を復活させる計画は遂行するみたいだ。

神社の屋根の上に佇み、満月の月の光に照らされている人間。カメラを首に下げて、鎌を持ち、刃先は鮮血に染まっていた。勿論辻本だった。神社の上で辻本がこちら側を、僕の方を睨んでいた。夢の通りに。やはり、誰かの悲鳴が近くから聞こえてくる。笹内と神代先輩の方を見ると驚嘆して呆気にとられていた。そして辻本が首に下げているカメラは、忘れる訳が無い。笹内が大切にしていたロストメモリーだった。藤宮先輩は目を皿のように真ん丸にして、血走っていた。

「どうして、そんな」と全て藤宮先輩が辻本に向かって叫んだ。ここからは夢の続きだ。カンニング出来ない、一発勝負。ここの発言で藤宮先輩が敵か味方かも分かる。

「辻本くん! どうして神代さんと同じ死神になっているの? 神代家は継承を出来ない」

神代先輩と同じ死神? 神代先輩が裏切った? そんなはずはない。でも、継承はあり得ない。絶対に。継承をする上で、神代家は霞の時間以降、血縁関係の人間しか出来ないように誓約がかけられているのは確認済み。まさか、辻本は嫁いでいる? いや、そんな訳はないはずだ。

「辻本霞」

「辻本霞?」

「そう、君の言う通りだ。神代家は継承する事を家系のみで完結させ、家系外の人物に継承する事を禁じた。それは、神代家の話だ」

考えられる話だった。僕は三つ目の霞の遺産を利用した大量殺人、もしくは藤宮先輩が離反する事、一部継承を行っていると思っていた。鎌も藤宮先輩がやった武器の錬成かと勝手に思い込んでいた。辻本霞と一部継承している。理論的には筋が通らないが、変身出来ている時点で完全継承を霞から受けている線もあり得る。神代家も藤宮家もワンマンで仕事をしていたから、死神は一人しか存在出来ないと勘違いしていた。

「霞は『忘れられた人』になる最後まで、神代家の祖母に致命傷を与える寸前も居なくなる前も死神……夢切りとして生きていた。そして、笹内から教えられただろう。ロストメモリーにあった通り忘れられただけであって、霞は死んじゃいない。忘れられて今も何処かで彷徨っている。死神の姿で」

霞は、霞は最後まで神代家の祖母を殺めるか、忘れられてしまうかどうか、死神の姿で考え続けていた。そう言った話なら、神代先輩が変身している時は僕も変身を出来るように、一時的に入院棟で変身を解除しても刀やローブを使う事が出来たように、辻本が自由に変身出来てもおかしくない。辻本も藤宮先輩も嘘なんて最初からついていない。霞が永続的に死神に変身して彷徨っているからこそ、辻本は死神にいつでも変身する事が出来る。なら、バクは? バクは霞じゃないのか? それとも霞の肉体だけ誰にも知られずに彷徨い、記憶を失ってバクという思念体として僕の夢の中に現れている? もう、考えてもキリがない。

辻本の人殺しを止めて、神代先輩が『忘れられた人』にならないように僕が戦い、笹内、藤宮先輩、神代先輩全員で生還する。それだけは推察する前に絶対に死守しよう。しろ、するんだ轟。

「今日は月が綺麗だな、轟」

「絶対に死んでもいいなんて言わないからな、辻本!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る