俺と相棒
第8話 影の支配者
突き刺すような日差しも、冷たい風も感じねえ。
俺は、真っ白な雲の中に閉じ込められていた。
外の様子は何も見えねえし、あれから何日経ったのかもわからねえ。
この空間には、定期的にメシが放り込まれるだけ。
あまりに何もなさすぎて、意識がぼうっとする。
頭がおかしくなりそうだった。
……ワルのやつ、どうなったかな。
想い人には会えたんだろうか。
それとも俺のせいで——。
いくら考えても、罪悪感だけが募っていく。
きっともう、あいつに会うことも叶わねえんだろうな。
そのとき、ぐわんと空気が揺れた。
ああ? さっきのメシからそんなに時間は経ってねえと思うんだが……。
なにがあったかとあたりを見回す。
すると、俺を連行した風守番の一人が雲の中に入ってくるところだった。
一体なんなんだ?
相変わらず黒い布に身を包み、オレンジのバッジが胸元で存在感を放っている。
風守番は俺を見据えると、低い声でこう言った。
「これよりお前の審判を下す」
「ついてこい」と風守番は、俺の手首に紐を巻き引っ張る。
これから何をされるのか全くわかんなかったが、そんなことはどうだってよかった。
この何もない空間とおさらばできるのなら、それで。
雲を踏みしめるたび、ふわっとした感覚が俺を包む。
あの空間では感じられなかった、いつもの感触。
進むにつれて強い風が俺を吹きつけてきた。
目的地に近づいているのだろうか。
やがて眩しすぎる光が俺を出迎える。
もちろん歓迎などされていないことはすぐに理解した。
中央に、柵で囲われた雲が一つ。
光はそれを浮かび上がらせるかのごとく、さんさんと降り注いでいた。
周りには複数の円い雲が漂い、そこには人影が見える。
無数の蔑むような視線が、俺に突き刺さってきた。
風守番が俺を柵雲へと促す。
俺が光の中へと足を踏み入れると、柵雲はふわりと上昇し、静かにそのときを待った。
やがてカンカンカンという音が前方から響き渡る。
何か硬いものを叩くみてえな音。
俺は目を細めてそれを確認する。
前にいる奴が両手に何かを握っていた。
なんだありゃ……タカの、爪? いや、くちばしか……?
「黒翼の民、ウィーケ・シュトラウスよ。これよりそなたの行いについて、全空国人に問う」
前方からしわがれた声が響く。
その瞬間、風がびゅっと舞い上がった。そして風は、竜巻みてえにぐるぐると俺の周りを回り始める。
すると、どこからともなくいろんな声が耳に届いてきた。
「許されない行為だ」「生かしておけない!」
……なるほどな。
風に乗った声はこんな風に届くのか。
こんな状況にも、意外と冷静な俺がいた。
声の嵐が落ち着くと、前方からまたあの声が響く。
「これが民意だ」
しわがれた声は一息つく。
そしてこう言った。
「……して、意見のある者はおるかの」
なんだ? これ以上何も続ける必要はねえだろ?
この国は民意がすべて——。
「発言を」
俺を囲むように漂う円い雲から低く威厳のある声が届く。
「ふむ……ライトメル家じゃな。申してみよ」
しわがれた声がそう促すと、先ほどの低い声が唸るように告げた。
「その者はまだ若い。実際にことを起こしたわけでもない……よって、釈放としたい」
ざわめきが広がる。
だが、反対の声は上がらなかった。
俺の耳に「ライトメルがそう言うなら……」という声がかすかに届く。
おいおい、まじかよ。
民意で成り立つ国……じゃなかったってことか?
俺は声の主を確認しようとしたが、柵雲に降り注ぐ光が強すぎてよく見えなかった。
威厳のある、その声だけが耳に残っている。
「では、これにて決着」
しわがれた声がそう告げると、俺を照らす光がふっと消えた。
暗闇の中、翼を広げる音が重なっていく。
こりゃ周りの奴らが飛び立つ音か?
思ってたより、注目されてたんだな。
後ろから手首の紐が引かれる。
ようやく目が闇に慣れると、風守番が俺の拘束を解くところが見えた。
「そのまままっすぐ上に飛べ。光の方に向かえばここから出られる」
風守番の声がする。
どうやら俺は助かったみてえだ。
どこの誰だか知んねえが、ありがてえぜライトメルさんよぉ。
どこからか強く風が吹く。
俺は翼を大きく広げた。
やっぱ風を受ける瞬間っつーのはたまんねえな。
俺は風を掴み飛び立つ。
まずはあいつに謝りに行かねえと。
……許してくれっかな。
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