第7話 陸国へと続く道

俺たちは、それからも毎日を共に過ごした。

もちろん朝は雲間の確認を怠らねえ。


俺は陸国へ行ける日が楽しみでしかたなかった。

ワルの想い人にも会ってみたかったしな。


風守番のことはしばらく警戒していたが、あれからとんと遭遇することはなかった。


だからだろうな。

俺があんなヘマ、しちまったのは——。


「おい、相棒! 見ろ、ついにだ!」

ウォルスが足元の雲を指差す。

そこはすでに雲が離れかけていた。


「やったな、ワル! 愛しの姫君が待ってるぜ?」

俺は口の端を吊り上げる。


「うるせえな。そんなんじゃねえって、何回言ったら分かんだよ」

そう言いながらも、ウォルスの顔は輝いていた。


……こんな嬉しそうなワルの顔、今まで見たことねえな。


「雲間が全部開くまで、もう少しかかるかな……食いもんでも調達してくっか」

ウォルスはウキウキと翼を広げる。


「ふっ。んなこと言って、どうせ身なりでも整えに行くんだろ」

「ああ!? んなわけねーだろ!?」

ウォルスは目を見開くと、首に手をやった。


……こいつ、意外と分かりやすいとこあるよな。


「はいはい、俺はここで見張っててやるから、さっさと行ってこいよ」

俺はひらひらと手を振る。


「……チッ。まあ、頼んだぜ」

そう言うとウォルスは風を掴み、飛び立っていった。


俺は雲間のそばで横になる。

冷たい風が吹き抜けていった。


……これが青春ってやつ?

ったく、キラキラしすぎて、たまんねえぜ。


俺はのんびりと目を閉じる。

翼に伝わる雲の温もりが、たまらなく心地よかった。


それからどんぐらい時間が経ったのか。

俺は突然肩を叩かれた。

「君、こんなところで何してる?」


俺は目を擦り、寝ぼけながら答える。

「ああ? ワルを待ってんだよ。雲間が開くのを見張って——」


俺は目の前の光景にようやく気がつき、後に続く言葉を飲み込んだ。

俺の視界には大人が二人。丈の長い布をまとい、胸元にオレンジのバッジをつけた——


「かざ、もりばん……」


……まずい。

雲間は本来、見つけたらすぐ風に乗せて偉い人たちに報告するもんだ。


それを怠り、しかも『開くのを待ってた』なんて言っちまったら……。


風守番たちは眉間に皺を寄せ、顔を見合わせている。

やがて二人は俺の両脇に立ち、「連行する」と短く告げた。


俺の翼に重たい布がかけられる。

飛んで逃げようなんて、そんなこと思う暇もないぐれえ一瞬の出来事だった。


風守番たちは俺を抱え、翼を広げる。

その音が、俺の耳に重々しく響いた。


風守番に抱えられた俺の体がふわっと宙に浮く。

こんな感覚、初めてだ。


俺は雲間を見やる。


……すまねえな、ワル。

俺のせいでその雲間、立ち入り禁止になっちまうかもしんねえ。


どんどんと小さくなるそれに、心の中で語りかけた。


強い風が俺を阻むように吹き抜ける。

その時、遠くの方にウォルスの姿が見えた気がした。


「……相棒?」


風に乗って届いたその声が、あいつのものだったのかは分からねえ。

ただ消え入るようなその声に、俺の罪悪感は増すばかりだった。


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