第32話 食事前の突然の声と黒い霧、そして異変(前半リン視点、後半ドウェイン視点)

 ルーファスとぽこちゃんが連れて行かれてから少しして、夕食が部屋に運ばれてきたよ。貴族の人は、だいたい自分たちの泊まっている部屋でご飯を食べるんだって。

 一般の人たちは、宿の食堂を使ったり、部屋で食べたり、外で食べてきたりといろいろみたい。ただ、時と場合によっては、パパたちも外で食べるって。


 私、この世界の料理も楽しみにしていたんだよね。だから外で食べ歩きみたいなことができるなら、ルーファスとぽこちゃんとやってみたいな。


 ちなみに、この世界で初めての料理は、見た目はビーフシチューやスパゲッティ、それにハンバーグや煮魚と、いろいろな料理が運ばれてきてね。もうね、においからして、これは絶対美味しいでしょう!! っていうものばかりだったよ。


「さぁ、まずはそうね。少しずつ食べてみましょう。それで大丈夫そうなら、好きな物をたくさん食べれば良いわ」


「ほら、俺がよそってやる!」


「あー、僕がやってあげようと思ってたのに」


「ほら、2人とも、交代でやれば良いだろう」


 嬉しくて、思わず足をぶらぶらと揺らしてしまいそうになる。なにしろ大人用の椅子に座っているからね。足が自然と揺れちゃうんだよ。


 どんな味かなぁ。ルーファスとぽこちゃん残念だったなぁ。でも家に着いたら、一緒にご飯食べられるよね? なんて考えながら、アルフレッドお兄ちゃんを見る。ただ……。

 

「まずは少しずつだよな」


 それはアルフレッドお兄ちゃんが、大きな木のお玉みたいな物を持った瞬間だった。


『……全員、森の奥へ走れ!!』


「……ん?」


『子供たちは先に逃したな!?』


「……んん?」


『……よし! そのまま全員走るんだ!!』


「……なに?」


 知らない声が、いきなり聞こえたんだ。しかも、子供たちは先に逃がしたな、なんて。ちょっとまずい? いや、かなりまずい感じがする。そんな、緊迫した声が。


 私は、声が聞こえた方を見た。この方角……ドウェインたちがいる森の方じゃない?


 すぐにイスを飛び降りて、窓のほうへ駆け寄る。窓はちょうど、ドウェインたちのいる森の方角に設置されているんだ。私は外を見ようとして、思いきりジャンプした。


「リン、どうした?」


「リン?」


「あの、だっこちてくだしゃい」


 ママが私の様子がおかしいことに気づいたのか、すぐに私のろころへ来てくれて、抱っこしてくれたよ。その瞬間。


『……そうだ!! そのまま逃げろ!!』


 また聞こえた!! それに……。


 壁に向こう、おそらくドウェインたちがいる森の上空に、黒い霧のようなものが見えたんだ。




     ******************************




いつまで不貞腐れているのだ』


『りんといっしょに、おとまりしたかった』


『おいりゃは、おにいちゃと、おちょまりちたかっちゃ』


『あなたたちが暴れたからいけないのでしょう。まったく物を壊して。ママはいつも何と言っているかしら? 自分の物も、誰かの物も、壊してはいけません。自分の物が壊れたら悲しくて泣いてしまうでしょう? 他の人も悲しくて泣いてしまうのよ』


『ああ、そして壊した物は、返すことができる物ならば、きちんと返さなければいけない。それに今頃ヴァリオスは、お前たちの代わりに、何度も謝っているところだろう』


『それはちゃんと分かっているか?』


『うん』


『じょ』


 ぽこが小さく頷いた。


『ならば明日、ヴァリオスたちに謝るのだぞ。そうだな、宿の者にも先ほど謝ったが……。外で待ち合わせだったが、もう1度きちんと謝るべきか?』


『そうね、その方が良いかもしれないわ』


『それと、リンだって、お前たちと泊まりたかったはずだ。だからリンにも謝るんだ。いいな』


『うん』


『……じょ』


 ぽこの頷きが微妙だったが、まぁ、リンとぽこの関係ならそんなものだろう。まったく、最初からヴァリオスたちに迷惑をかけてしまった。それに我々の考えも甘かった。明日、もう1度しっかりと謝らなければ。


『さて、明日も早いからな。さっさとご飯を食べて寝るぞ』


『りんはもう、ごはんたべたかな?』


『どうだろうな』


『あ、だじょ!? にんげんにょとこいくじょ! にんげんのごはんちか、にゃいかもだじょ!? おいりゃ、たべりゃれりゅかにゃだじょ!?』


『ん? ぽこちゃんなぁに? なにかたべたいものあるの? きょうのごはんはなぁに?』


『今日は、木の実とイノッブのお肉よ』


『やった!! ぽこちゃん、きょうはいのっぶのおにくだって!!』


『おにいちゃ、ちがうじょ!! にんげんのとこりょいったりゃ、りんと、にんげんにょごはんだじょ! にんげんにょごはん、たべりゃれにゃいかもだじょ!?』


『ん? ぽこちゃんうれしくない、なんかあわててる?』


 ルーファスの言葉に何回も頷くぽこ。確かにぽこの様子は慌てている感じだが、何をそんなに慌てているんだ? 


 この感じ、久しぶりだな。この頃はリンが赤ん坊たちの声を我々に伝えてくれていたから、問題なく過ごせていたが、さて、困った。


『まぁ、とりあえずご飯を食べてしまいましょう。ぽこのことは明日にでもリンに聞けば良いわ』


 そう言って、ぽこの母親がご飯の支度を始めようとする。彼女は空間魔法というものを使うことができて、その中に物をしまっておくことができる。だから、この間持ってきた大量の荷物も、すべて空間魔法の中に入れ、面倒な荷物を運ばずに移動してきたぞ。


 この間、そのまま荷物を持ってきたのは、足りない荷物がないか私と共に確認するためだったが。その時の、荷物の大きさと量に驚いているリンの顔が面白かったな。


『さぁ、まずはイノッブから……』


 急にぽこの母親の動きが止まる。それは私とぽこの父親、そして他のグリフォンたちも同じで。


『……おい、これは何の騒ぎだ』


『なぜ急に動き始めたの?』


『おい、ドウェイン』


『ああ』


『ぱぱ、どうしたの?』


『まま、ぱぱ、じょ?』


『いや、ちょっとな。ルーファル、父はこれから……。おい、何故お前までこちらへ来るんだ!?』

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