第25話 旅立ちの前の大人たちの会話

『どうかと思っていたが、まさかぽこまで付いてくることになるとはな。ここでもう少しゆっくり育てなくて良いのか?』


『良いのよ。向こうへ行ってもやることは変わらないもの』


『リンも同じような事をするんだろう?』


『ああ。見てきたが、あれだけの数となると、人間だけでは無理だろう。我々の仲間も向こうへ行っているとはいえ、それでもな。これからさらに増えるらしい』


『まさか人間たちの方で、面倒なことが起きているとはな。こっちではそんな話しはまだ出ていないが……』


『ここへ入って来られる者たちは限られるからな。誰が馬鹿なことをしているか分からんが、ここへ入ることができる者は、まだ向こうにいないのだろう。だが、いつここへその者たちが手を出すとも限らんからな。まず向こうへ行ったら、そのことについて調べる予定だ。だからな、そのこともあって、ぽこは置いていくと思ったが?』


『フフフ……』


『何だ?』


『あの子ね、私に今回のことを話しに来た時、凄い勢いだったのよ。まだ自分のことをよく分かっていないリンに、もっと自分のことを教えないといけないとか、まだ決着がついていないとか。自分が付いて行ってあげないと、きっと寂しくてリン泣いちゃうとかね』


『そうそう、他にもいろいろ言ってたよな』


『だけどねその日の夜、ちょっと様子を覗いてみたら、リン寂しい、バイバイはダメ、一緒にいるって、泣いていたのよ。私たちが少しの間ここを留守にする時、寂しがっても泣くことはなかったあの子がよ? よほどリンのことを気に入ったのね』


『いつも喧嘩しているのにな。まぁ、そのおかげで、体の動きは良くなったが』


『あの子が女性以外に興味を持つなんて、初めての事だもの。私たちにとっては少しの変化でも、赤ちゃんのあの子には、とても大きな変化だわ。だからリンの側にいれば、もしかしたらあの子はもっと変われる、いろいろなことに興味を持ってくれるかもしれない。そう思ったから連れていくことにしたのよ』


『それに、お前の息子のルーファスじゃないが、あの子もいつか、俺たちの群れを継ぐかもしれないからな。よそを見ることも大事だろう? なに、ダメそうだと感じたら、俺と一緒に森へ帰ってくれば良いさ』


『ぽこがリンを……。フッ、リンは何ともいえない顔をしていたがな』


『しかたないわよ、いつものあの子しか見ていなければね。私も毎日も報告を聞いて、何をしているのよって思っていたもの。でも、リンが好きなのは間違いないから』


『だろうな。まぁ、別にリンも嫌がっているわけではないし、何だかんだと次こそは勝つやら、私はお姉さんだからねと、いつも気合が入っているからな。向こうへ行っても、いつも通り過ごすだろう』


『早く向こうの生活に慣れると良いわね』


『そうだな』


『そうだ。ここへ戻ってきてからのことだが、この森のことを頼む。他の面々にも伝えたのだが、ルクサスは大丈夫だと分かっているが、それでも何かあった時は』


『その辺は心配するな。こっちもルクサスに気づかれないように、いつもよりも警戒するつもりだ。他もそうすると言っていた。なにせ、ここは俺たちにとって大切な場所だからな。お前たちが、いつでも気軽に帰って来られるようにしておくさ』


『すまない、頼むぞ』


『ああ、任せろ。それよりも例の件、俺がいるうちに解決できれば良いが、もしも俺が帰るまでに解決できなければ、あとは頼むぞ。どちらかというと、こっちはお前がいない分、ただいつもよりも気をつければ良いだけだが、向こうはまだ何も分かっていない状態だからな。しかも、何かおかしな力が使われているらしいじゃないか』


『魔獣たちにも聞いたのだが、分からないと言っていた』


『そうだろう? そんな分からん力をここで使われることがあれば、それで子供たちや仲間に何かあれば、その方が問題だからな』


『まったく、時々こういう面倒な者たちが出てくる。なぜ大人しく、皆平和に暮らそうと思えないのか』


『こればかりは、どれだけ時代が変わろうとも、どうにもできないわね』


『だよな。子供たちには平和な時代を生きてもらいたが。……リンにもな』


『ああ。神の愛し子が現れる時代は何かが起きる。そして今までそれで、傷つかなかった神の愛し子はいないとか聞く。我々が知っている神の愛し子たちもそうだったからな。リンはここへ来たばかりだ。これからどうなるか分からないが、リンのあの笑顔が消えないようにと願うばかりだ』


『私たちでできることは、何でもやりましょう。リンを守ることが、子供たちを守ることにもなる』


『リーダー! ちょっと良いか!?』


『何だ!?』


『ぽこの両親も!』


『何かしら!?』


『リンとぽこの叩き合いが止まらないんだ。リンに贈り物を持ってきている奴らで混み合ってるし、どうにかしてくれ!』


『はぁ、何をやっているんだ、あの2人は』


『たぶんあの子が止まらないのは、怒っているからじゃなく、一緒に行けることが嬉しくて、気分が高まって止められない感じね。今行くわ!!』


『頼む!!』


『しかたない、行くか』


『これじゃあ出発してからも、向こうに行ってからも、落ち着くまで大変そうだ』


『フッ、まったくだ』

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