第23話 さよならの贈り物と、ぽこちゃん家族の謎の大荷物

『リン、これも持って行くといい。皆で集められるだけ集めたのだ。ここへ来る人間はよく、我々の毛を探しに来るからな。なんでも高く売れるとか、どうせなら自分の寝床に使いたいとか? 我々の毛を何に使うか知らないが、人間には必要な物らしいからな』


『リンもこの毛が好きだろう? 人間の所へ行ったら、この毛の上で寝ると良い』


「うん!! ありがと!!」


 私はカルパートという魔獣から受け取ったたくさんのもふもふモコモコの毛を、葉っぱで作った入れ物に入れ、それをマジックバックにしまう。


 カルパールは羊に似ているけれど、大きさはおよそ2倍。草食魔獣ながら、戦闘能力にも優れた魔獣だよ。


 カルパールの毛はとても気持ちが良くて、最初に触らせてもらった時の感動といったら。もう高級絨毯を超えていてさ。その時私があまりに喜んでいたからと、自分たちも毛を集めて持ってきてくれたんだ。


『次は私たちよ。はい、どうぞ』


「わぁ! いっぱいの木の実!!」


『これは、私たちからの親愛の印よ』


『私たち全員が認めた相手にしか、渡さないことになっているの。人間のその入れ物に入れれば腐らないみたいだけど、これはもともと腐らない木の実だから、そのまま持っておいても大丈夫よ』


『ただ、そうね。なんか前に人間がこれで馬鹿みたいに争っていたから、あまり他の人には見せない方がいいかもしれないわ。食べる時は隠れて食べてね』


「ありがと!!」


 木の実を受け取り、さっきみたいに葉っぱの入れ物に入れてから、マジックバックに入れる。


 次に私に木の実をくれたのは、フルーリスというリスに似ている魔獣。大きさも同じくらいかな。


 このフルーリス、自分たちで好きな木の実を作ることができる、凄い魔獣なんだ。基本は森に生えている木の実を作り出すんだけど。でももっと美味しい木の実を食べたいってなると、自分たちで勝手に木の実を作り出すの。甘い、辛い、酸っぱい、自由自在に作れるんだ。


 まぁ、この間は、面白い木の実が良いとかで、食べると火を吐く木の実を作っていたけど……。


『良かったなリン。その実はなかなか食べられないんだぞ。いや食べられないどころか見ることすら珍しいんだ』


「しょんなに? ふるーりしゅ、ありがと!!」」


 私が貰った木の実は、もっと特別な木の実みたい。これは言われた通り誰にも見せずに、ルーファスと一緒に食べようっと。もちろんドウェインもね。


『じゃあ次は……』


 私たちは今、一体何をしているのか。私がここを旅立つって決まったでしょう? それで準備を始めたからと、魔獣たちが私にさようならの贈り物を持ってきてくれて、それをマジックバックにしまっているところなんだ。


 ドウェインの話だと、約15日くらいで、私を引き取ってくれる家族の人たちが、この森の出口に迎えに来ると言っていたみたいでね。


 10日目に、そろそろ旅立つ準備をしないと、ということで。私がここで使っていた物は持っていって良いと言われたから。新しい家族が私にプレゼントだと、ドウェインが渡されていたマジックバッグに、荷物を入れ始めたんだ。


 そうしたらみんなが、さようならの贈り物を持ってきてくれるようになって。ここ3日ほど、ずっとプレゼントを貰っているの。


 ちなみにマジックバッグは、ライトノベルや漫画で出てくるマジックバッグに似ているバッグだよ。


 見た目はA4サイズの普通の皮のバッグに見えるんだけど、実はカバンの中には、広い広い空間が広がっていて。

 どれだけ大きな荷物を入れても、たくさんの荷物を入れても問題なく入り、バッグ自体も重くならず。しかも食べ物も腐らないから、旅や生活には欠かせない、とても便利なバッグなんだ。


 魔力で作られてるらしくて、自分の魔力をバッグに流すと、それで持ち主を認識してくれるから、他の人が勝手に開けられないようになっているって。


 ただ、私はまだ魔力を使えないからね。私の血をカバンに付けることで、魔力と同じ役割を果たすらしく。


 こう、グサッとね。かなりの勢いでフルーリスが私の腕を切ってくれて。それで血をバッグにつけて、血がバッグに吸い込まれ消えると、私だけのマジックバッグになったよ。

 というか、なんで腕かね。すぐに魔法で治してもらったけどさ。普通、こういう時は指でしょうに。最初の落ちてきた時の頭突きと同じくらい痛かったよ。


 結構大胆に、いろいろやってくれるフルーリスたち。その調子でグリフォンくらい大きな魔獣にも集団で挑み、ボコボコに倒すらしい。これじゃあ、そうでしょうねって思ったよね。


 と、まぁ、こんな感じで、みんなに貰った贈り物をしまっている最中なんだ。


『りん、あかちゃんがないてて、たぶんあのなきかたは、りんをよんでるって』


「わかったぁ」


 ルーファスが呼びにくれくれて、私はすぐに育み場へ。そうしたら確かに赤ちゃんたちが私を呼んで鳴いていたんだけど。


『うちゃいましゅ!!』


『『『りゃりゃりゃ~♪』』』


 まさかの歌のプレゼントが待っていたよ。くるちゃんが大人魔獣の真似をして、みんなで贈り物しなくちゃ! と。赤ちゃんたちに話しをして、歌の贈り物をしれくれたんだ。


『『『りゅりゅりゅ~♪』』』


 簡単ですぐに終わった歌。でもとても感動的な歌に、私は思い切り拍手する。だってくるちゃんたち赤ちゃんが、一生懸命歌ってくれたんだよ。こんな嬉しい贈り物なんて、そうそうあるもんじゃないでしょう。


「くるちゃん、ありがと!! みんな、ありがと!!」


『おねえちゃ、しゅぐかえっちぇくりゅ。まっちぇる』


『あちた、かえっちぇきて!』


『あちたじゃにゃいよ、しょにょちゅぎにょひだよ』


『あちたじゃにゃい?』


 うん、明日じゃないかな、まだ旅立ってもないからね。思わず笑ってしまう。ただ、笑いながら、私は周りを見てみる。


 いつもの元気な声が今日も聞こえない。ナンパなあの元気の良い声が。そう、実は私がここを旅立つ話しをした次の日から、ぽこちゃんの姿が育み場にないんだ。


 最初は、どうしたんだろう? 何か用事があって、両親とどこかに行ったのかな? くらいにしか思わなくて、いつも通りに生活していたの。

 でもそれが3日になり、5日になり、ぜんぜん戻ってくる気配がなくて。それでさすがに何か問題でもあったのかなと、ドウェインに聞いたんだ。


 そうしたら確かに家族での用事は用事なんだけど、少々時間のかかる用事だから、なかなか戻って来られないんだろうって。


 それを聞いて安心したものの、それでも今日で12日目だからね。このままさようならになるかもと、ちょっと心配なんだ。


 ぽこちゃんとはいろいろあったけど、やっぱり最後はちゃんとさようならを言いたいでしょう? だから待っているんだけど、どうやら今日も戻って来ないみたい。


 私はくるちゃんと赤ちゃんたちに、何回もお礼を言ったあと、別の魔獣が贈り物を持ってきてくれたから、また場所を移動しようとする。


 と、その時だった。


『あっ、ぽこちゃんだ!!』


 ルーファスの声に、私は急いでルーファスが見ている方を見たよ。すると向こうの方に、確かにぽこちゃんと、ぽこちゃんの両親の姿が見えて。一気にほっとした私。でも……。


「……あれ、なに?」


 心配していたことなんてどこへやら。なんか、やたらたくさんの荷物を持って、こちらへ歩いてくるぽこちゃん家族に困惑したよ。

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