第1話 運命の幻影
自室のベッドに横たわりながら、俺、桜庭賢太は、天井の木目をぼんやりと見つめていた。玄関で再会した時の、叶と望の姿。学生時代の美月と寸分違わぬその面影は、俺の心の奥底で眠っていた古い情熱に、容赦なく火をつけた。愛のない食卓、兄の不在、そして美月の諦観に満ちた笑顔。すべてが、俺の行動を正当化するための舞台装置のように思えた。
その夜、夕食と入浴を終え、自室で火照った体を冷ましていると、廊下から微かな衣擦れの音が聞こえた。誰かが風呂場へ向かっている。この家の主である幸太は、今日も仕事の付き合いで帰りが遅い。美月はすでに湯浴みを済ませているはずだ。ならば、姪のどちらかだろう。俺は静かに立ち上がり、汗ばんだ肌を拭うため、洗面所へと向かった。
磨りガラスの向こう、浴室の明かりがぼんやりと廊下を照らしている。ドアの前に置かれた脱衣籠には、見慣れた制服が畳まれていた。姉の叶のものだろうか。湯気の向こうから聞こえるシャワーの音に、俺の心臓はゆっくりと、しかし確実に鼓動を早めていく。なぜなら、叶と、そして妹の望の容姿は、俺の初恋の相手、若き日の美月そのものだったからだ。十八年前、俺がそのすべてを捧げ、そして失った愛の原点。その幻影が、今、この家の至る所に散らばっている。
洗面所の鏡に映る自分の顔は、冷静さを装いながらも、その奥に激しい情熱の色を隠しきれていなかった。これは単なる血縁への好奇心ではない。途絶した愛の物語を、もう一度、この手で紡ぎ直すのだという、ほとんど信仰に近い確信だった。俺はゆっくりと浴室のドアノブに手をかける。鍵は、かかっていなかった。
ドアを開けると、湿った熱気が一気に俺の体を包み込んだ。湯気で白く煙る視界の中に、洗い場で髪を洗う華奢なシルエットが浮かび上がる。高校三年生、桜庭叶。彼女は突然の闖入者に驚いたように肩を震わせ、ゆっくりとこちらを振り返った。濡れた髪が頬に張り付き、その切れ長の瞳が、戸惑いと、そして微かな期待の色を浮かべて俺を捉える。
「賢太、おじさん……どうして」
その声は、驚くほど冷静だった。聡明な彼女は、この状況の意味を瞬時に理解したのかもしれない。いや、あるいは、俺がこの家に戻ってきた本当の理由を、本能的に感じ取っていたのだろうか。
「邪魔をするつもりはなかった。だが、どうしても話がある」
俺は叶の問いには直接答えず、静かにドアを閉め、内側から鍵をかけた。カチャリ、という無機質な音が、二人の間に漂う禁断の空気の密度を高める。俺は一歩、また一歩と、無防備な彼女の体へと近づいていった。叶は逃げなかった。ただ、その黒曜石のような瞳で、俺の行動のすべてを見定めようとしている。
「叶。君を見ていると、昔を思い出す」
俺の声は、自分でも驚くほど穏やかだった。しかし、その言葉に込められた熱量は、この浴室の湯気よりも濃く、熱い。俺は叶の隣に膝をつき、その濡れた肩にそっと手を置いた。彼女の肌は驚くほど滑らかで、若さに満ちている。
「お母さんの、昔のこと?」
叶が尋ねる。その問いは、嫉妬と優越感が入り混じった、複雑な響きを持っていた。俺は頷き、彼女の頬を伝う一筋の雫を指で拭った。
「ああ。君のお母さん、美月さんは、俺の初恋の人だったんだ」
叶の瞳が、探るように俺を見つめる。
「じゃあ、おじさんは……私の中に、お母さんを見ているの?」
それは、聡明な彼女らしい、核心を突く問いだった。俺は首を横に振る。
「違う。俺は、君という存在を通して、果たせなかった愛の始まりを見ている。俺が美月さんに捧げられなかった愛情の、正当な継承者を、目の前にしているんだ」
「継承者……。私が、お母さんの代わりだとでも言うの?」
「代わりじゃない。完成だ。君が、俺の愛の物語を完成させる運命なんだ」
俺の言葉が、彼女のプライドを静かに満たしていくのがわかった。母の代わりではない、母を超えて物語を完成させる存在。それこそが、彼女が心のどこかで求めていた役割だったのかもしれない。
「……証明して。その愛が、過去の感傷じゃなくて、今、ここにいる『私』に向けられたものだって。言葉だけじゃなくて、体で……私に、証明して見せて」
それが彼女の答えだった。俺は、その言葉の重みを噛みしめるようにゆっくりと立ち上がると、彼女の手を取って洗い場の椅子に座らせた。そして、彼女の前に跪くと、濡れた髪を優しくかき分け、その額に唇を寄せた。それは、欲望とは程遠い、慈しみに満ちた祈りのようなキスだった。驚きに目を見開く彼女の震える瞼に、そして湯気で上気した頬に、俺は順番にキスを落としていく。
「君は美月さんじゃない。叶だ。俺が初めて愛した人の面影を持つ、たった一人の、大切な女の子だ。だから、君の初めては、誰よりも優しく、丁寧に……慈しみながら、迎えたい」
俺は叶の顎に指をかけ、その唇に自分のそれを重ねた。先ほどまでの激しいものとは違う、触れるだけの優しいキス。シャンプーの甘い香りと、少女特有の匂いが混じり合い、俺の心を穏やかに満たしていく。
俺たちはどちらからともなく立ち上がり、壁に体を預けるようにして、より深くお互いを求めた。制服を脱いだばかりの、まだ何の色にも染まっていない柔らかな膨らみを、俺の手が優しく包み込む。叶は甘い喘ぎ声を漏らし、俺の首に腕を回した。その時だった。背後で、浴室のドアが控えめにノックされた。
「お姉ちゃん、まだ?私も入りたいんだけど」
妹、望の声だ。叶の体がびくりと硬直する。しかし、俺は動じなかった。むしろ、この愛の連鎖を完成させるための、最後のピースが現れたことを歓迎さえしていた。俺は叶の唇から顔を離し、悪戯っぽく微笑んでみせる。
「入れてあげよう。望にも、すべてを教えてあげなければならない」
俺は叶の手を取り、ドアへと導いた。鍵を開けると、そこに立っていたのは、姉と瓜二つの容姿を持つ、まだあどけなさの残る桜庭望だった。彼女は、湯気の立ち込める浴室の中で抱き合う俺たちを見て、一瞬、目を丸くした。だが、その表情はすぐに好奇心に満ちた微笑みに変わる。衝動的で、純粋な彼女は、この異常な光景を、新しい遊びの一環であるかのように受け入れたのだ。
「賢太おじさん、お姉ちゃんと何してるの?」望の問いに、叶が答えるより先に、俺が口を開いた。
「望。君にも見せてあげる。俺と、君たちと、そして君のお母さんを繋ぐ、運命というものを」
俺は望の手を引き、浴室の中へと招き入れた。そして、再び鍵をかける。望は、俺と姉を交互に見比べ、その瞳を期待に輝かせた。
「お父さんとは、違う匂いがする。賢太おじさんは、優しい匂い……。ねえ、お姉ちゃんだけずるい。私にも、その『運命』ってやつ、ちょうだいよ。お父さんがくれなかったもの、全部ちょうだい」
その言葉は、彼女が抱える愛情への飢餓の、痛切な叫びだった。俺は、二人の少女の渇きを、この身で満たすことを決意した。
俺はまず、叶の体を隅々まで清めた。そして、湯船の縁に彼女を座らせ、その足の間に跪く。まだ誰の指も触れたことのない、湿った秘境が、羞恥に震えていた。
「本当に、いいのか」俺が問うと、叶は震える声で、しかしはっきりと答えた。
「いい……。でも、約束して。お母さんのことなんか、考えられなくなるくらい……私のことだけで、いっぱいにして」
俺はゆっくりと、熱く硬くなった自分の分身を、その狭い入り口へと導く。初めて異物を受け入れようとする肉体の、健気な抵抗。薄い膜が、その行く手を阻む。俺は一度動きを止め、叶の顔を見上げた。湯気の中に浮かび上がるその顔が、苦痛と快感が入り混じった表情で歪む。そして、その顔が、ふっと、十八年前の美月の面影と重なった。
俺は幻影に導かれるように、静かに、しかし力強く腰を押し込んだ。ぷつり、という肉を裂く微かな感触。叶の体が、弓なりに大きくしなった。息を呑むような鋭い痛みが彼女を貫き、その全身がけいれんする。俺は彼女の体を強く抱きしめ、その耳元で囁いた。
「大丈夫だ。俺が、君のすべてを受け止める」
痛みに耐えるように閉じられていた彼女の瞼が、ゆっくりと開かれる。そこには、未知の感覚に戸惑う少女の顔があった。俺は優しく、それでいて力強いピストンを繰り返した。それは、失われた時間を取り戻し、途絶した愛の記憶を彼女の体に刻み込むための、神聖な往復運動だった。突き上げるたびに、痛みが熱へと変わり、熱が痺れるような快感へと昇華していく。叶の苦痛に満ちた喘ぎは、やがて濡れた陶酔の声へと変わっていった。その一部始終を、妹の望は、頬を上気させながら、食い入るように見つめていた。
俺は、愛の原点である美月の幻影をその身に宿す叶の子宮の奥深くで、熱い奔流を解き放った。愛を込めて、俺のすべてを注ぎ込む。これが、新しい運命の始まりを告げる、最初の種だ。
俺が叶の体から離れると、望が待っていたとばかりに俺の胸に飛び込んできた。
「私も……。私も、賢太おじさんの愛で、いっぱいにして。もう、空っぽなのは嫌なの」
その純粋な瞳には、父から与えられなかった愛情への、痛切な渇望だけがあった。俺は微笑み、彼女の体を抱きしめる。
「ああ、望。君のその空っぽの心を、俺が全部満たしてやる。もう二度と、寂しいなんて思わせない」
壁にもたれかかったまま、叶は震える脚でかろうじて自らを支えていた。自分の内側でまだ燻る熱と、目の前で繰り広げられる光景が、現実感を奪っていく。あれは、ついさっきまで自分がいた場所。賢太の腕の中、その力強い熱を受け止めていたのは、自分だったはずだ。チリ、と胸を焼く嫉妬の火花。しかし、それ以上に、妹の、生まれて初めて見るような、恍惚とした表情に心を奪われた。父に求め続けた愛情を、今、別の男から与えられている。それは、自分たちが共有する、家族という名の牢獄からの、初めての解放の瞬間なのかもしれない。叶は、この背徳的な共犯関係に、奇妙な連帯感と優越感を同時に感じていた。
俺は、望の華奢な体を、壊れ物を扱うように優しく抱き上げた。そして、叶にしたのと同じように、その小さな唇に、額に、瞼に、慈しみのキスを落とす。彼女の体は、姉よりもずっと細く、幼い。この小さな器に注がれる愛情が、どれほどの救いになるだろうか。俺は、その未発達な秘部を、ゆっくりと、丁寧に開いていく。望の体は、痛みと喜びに震え、甲高い、歓喜の声ともとれる悲鳴を上げた。俺は、その小さな子宮にも、惜しみなく愛の種を注ぎ込んだ。
湯気の立ち込める密室で、俺は二人の姪のすべてを奪い、そして与えた。床に散らばった二輪の花。それは、偽りの家族の枠組みを破壊し、新しい愛の連鎖を始めるための、美しき生贄だった。俺は、満たされた征服感と、運命を掌握したという確かな手応えを感じながら、天井を仰いだ。これから始まる物語の、壮大なる序章が、今、静かに幕を開けたのだ。
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