第31話 強くなるために



「決まってるだろ―――偽物で無理なら、本物を使えばいい」

「……………………は?」



 俺の言葉に口を大きく開けるノーズ。その顔には「言葉の意味は分かるが、理解したくない」と書かれていた。


「え、は? 本物を使えば、いい、だと? つまり、お前のそれは……………」

「あぁ、メタルナイトの素材そのものだ」

「ッツ………………⁉」


 驚愕の声を漏らし、数歩後ずさるノーズ。歯をガチガチと震わせながら、ノーズは発狂する。


「お前は魔物の素材を加工するのではなく、肉体に直接取り込んだと言うのか⁉」

「そうだ」

「しょ、正気か⁉ 魔物の素材は加工することで初めてマシになるのだぞ⁉ 直接、肉体に取り込みでもしたら……最悪の場合、命を落とすことになるのだぞ⁉」


 魔物の素材は、いわば魔物の遺伝子が記録された媒体であり、直接、取り込むと人間の遺伝子と反発し、全身の細胞が自壊していくという研究結果が出ている。


 人によって自壊の程度は違い、あまり進行しないものもいれば、一瞬で死に至るものもいるため、魔物の素材を直接、取り込むのは危険というのがこの世界で生きる者の共通認識だった。


「知ってるさ、そんなこと。実際、何度も死にかけたし」

「え、は、死に、かけた…………?」

「初めて取り込んだ時の痛みは想像を絶したんだよな~。めちゃくちゃ血とか吐いたし」

「血を、吐いた…………? お前は……何を、言って、いるんだ…………?」


 死にかけた。血を吐いた。告げられた一つ一つの言葉をノーズは途切れ途切れに反芻し、問いかける。


「当時、学園に通っていた俺は魔物の素材を、どうすれば安全に肉体へ取り込むことが出来るかを考えた。安全って言っているが、極論、死なずに方法を知れればよかった」


 命を失わないのであれば、問題ない。神の御業に手をかけるのであれば、それぐらいの覚悟は必要だと割り切っているのだ。だからこそ、俺はこの力を手に入れることが出来た。


「回復薬をがぶ飲みして、破壊と再生を繰り返した。素材を取り込めば取り込むほど、肉体は強くなっていった」


 本来であればリスクが大きすぎて、許可が下りるはずのない試み。しかし、学園長が許可を出し、俺のことを信じてくれた仲間がいたことでこんな無茶が出来た。


「ノーズ、お前の力は確かにすげぇよ。だがな、ただ与えられるだけの力ってのは上辺だけの強さでしかないんだよ」

「上辺だけの強さ、だと…………?」


 怪訝な表情を浮かべるノーズの目の前で、俺は静かに腰を落とし、



「あぁ、だから、お前は本当の強さというものを知らない」



 先ほどよりも『速い速度』で一撃を繰り出した。


「なっ…………⁉」


 ノーズが驚きながらも反応しようとするも、倍近く加速した攻撃に身体が反応しきれず、不安定な体勢で攻撃を受け止めた。


「がっ……さっきよりも、重い…………⁉」


 咄嗟に展開した障壁ごしに感じた重さに、再び驚くノーズ。


「おっ、よく気付いたな、っと‼」

「があっ…………⁉」


 砕くのではなく、叩き潰すイメージで俺はノーズを障壁ごと、地面へと押し付けた。


「な、なぜ、だぁ……⁉ なぜ、力が増している⁉」

「困惑するよなぁ。ついさっきまでは自分が優勢だったのに、また劣勢になって」

「う、うるさいっ‼」


 地面に倒れながらも魔法を発動しようとするノーズ。しかし、魔法が発動するより前に俺が連撃を叩き込む。


「ぐ、がぁっ…………⁉」


 気絶してはすぐに覚醒し、またすぐに気絶する。一撃一撃が重い攻撃を受け続け、ノーズは全く反撃することが出来ずにいた。


「どうだ? 本当の強さ、ってやつを実感できたか?」

「ふ、ふざけるなっ‼ どうして、力が増すんだ⁉ まさか、手加減をしていたとでも言うのか⁉」

「安心しろ、別に手加減はしてないぞ。ただ、少し時間がかかっただけだ」

「時間、だと…………?」


 一度、距離をとった俺へ戸惑いの表情を見せながら、態勢は崩さないノーズ。それを一瞥すると、俺は先ほどよりも鈍色が増した腕を掲げる。


「分かるか? さっきよりも腕が鈍色になっているんだが」

「…………確かに変化しているが、それがどうした?」

「これは俺が未熟なせいなんだが、魔物の素材を直接取り込んでも、すぐには全力を出せず、『定着』に時間がかかるんだ」

「ッ…………⁉」


 告げられた事実に驚愕で目を見開くノーズ。十分に力を発揮できない状態だったから、自分が圧倒できていたのだと理解し、怯えを含んだ表情で俺の方を見る。


「さぁ、こっからが正真正銘、全力のぶつかり合いだ‼」

「ぐっ…………⁉」


 斬る。斬る。斬る。先ほどよりも速く、重く、鋭い一撃を繰り出す俺に対し、ノーズは呻きながら必死に抵抗しようと、魔力を集めていく。


「こ、れでも、食らえ‼」

「うぉっと」


 至近距離から放たれた魔法を間一髪で躱し、反撃の振り下ろしを放つも、すかさず障壁で防がれる。予想よりも早く適応してきたノーズに、内心、驚きながらも攻撃を放ち続ける。


「はぁ、はぁ……‼ いい加減、倒れろ……‼」

「嫌だね‼ お前みたいな勘違い野郎に負けてたまるかよ‼」

「ッ……上等だ―――…………‼」


 そう言うと、ノーズは両者の間に巨大な火の玉を生み出し、爆発させた。


「チッ、自爆覚悟の攻撃かよっ」

「はっ、そんな意味のないことをするわけがないだろう‼」


 爆発に紛れ、距離を取ったノーズが膨大な魔力を放っているのが視界に映った。



「《燃えろ、燃えろ、炎の凶鳥 その翼を持って、大地を炎獄へと誘え》」



 それと同時に、『迷宮』内に詠唱が響き渡った。




―――――――――



《逢魔転換》のおかげで好き放題に魔法を使えるノーズは上辺だけ。


レオス、本当の強さを見せつけてやれー!!!!



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