第30話 魔術機構
変化は二つ。
一つは俺の右腕が鈍色の光を放ちながら、およそ人間の物とは思えない形へと変貌したこと。もう一つは何もない空間から一振りの輝く剣が現れたこと。
「な、なんだ、その腕と剣は…………⁉」
「まぁ、答えを聞く前にまずは攻撃を受けてみろよ」
そう言い、俺はその場で剣を軽く振り下ろす。
瞬間、巨大な斬撃が放たれた。
「ッ…………⁉」
咄嗟に半身になったノーズの横を勢いよく進み、巨大な破砕音と共に壁に衝突した斬撃。その出鱈目な威力を示すかのようにボロボロになった壁を見て、ノーズは冷や汗を流す。
「なんだ、その力は⁉ 魔術機構なんて魔法、聞いたことがないぞ‼」
「さっきも言っただろ? 魔法を創るのは無理だから、魔法に似た『ナニカ』を創ったんだよ」
だから、厳密には魔法ではねぇんだよ、と返しながら、今度は足に《身体強化》をかけ距離を一瞬で潰す。
「おらよっと‼」
「ぐっ…………⁉」
全身を襲う強烈な衝撃に苦悶の声を上げるノーズ。俺ががら空きになっていた胴体に鋭い蹴りを放つと、まともな防御を取れず綺麗に吹き飛ばされる。
「がはっ…………⁉」
「まだまだぁあ‼」
切り降ろし。薙ぎ。突き。いくつもの攻撃をあらゆる角度から放つ俺にノーズは防戦一方。
「クソがぁ‼」
「甘ぇよ」
「なっ―――うっ……⁉」
僅かな間を狙い、ノーズが反撃を試みるも、その全てを完璧に防いた俺がお返しとばかりに強烈な攻撃を叩き込む。
「な、なぜ、こんな単純な攻撃に、ッ…………⁉」
強烈な攻撃を受けた上で、ノーズは圧倒出来ると確信していた。近接戦闘のみの相手に対し、遠距離からでも攻撃を繰り出すことできる自分の方が間違いなく有利になると踏んでいた。
しかし―――現実は違った。
「単純が故に極めやすいってのもあるが、一番はお前の実力不足だろうな」
そう呟きながら、背後から一閃。がら空きだった身体に攻撃を受けたノーズが僅かによろめく。
「な、めるなぁああああ‼」
目を血走らせながら、右の手のひらを背後へ向けるノーズ。膨大な魔力が一瞬で集まっていくのを感じ取り、俺は後ろへ跳ぶ。
「《爆雷》‼」
しかし、それよりも速く、ノーズの手から巨大な雷が放たれる。
至近距離からの魔法攻撃。避けることは出来ず、決して軽くないダメージを与えることが出来る一撃。背後で轟音が鳴り響き、ノーズは魔法が直撃したことを確信しながらほくそ笑む。
「くっくっくっ、何が魔術機構だ‼ 魔法ですらない力で俺様に勝てるはずがないんだよ‼」
「へぇ、なら、勝ってみせろよ」
そう言い、ノーズの真正面で剣を振り上げる俺。
「…………は?」
目の前の光景に素っ頓狂な声を上げるノーズへ振るわれる剣。なまじ、魔法士としての素質があったのか。はたまた、生存本能による咄嗟の行動なのか。
ギリギリで防御魔法を展開し、致命傷となる攻撃を防ぐことが出来たノーズ。しかし、その額から冷や汗が流れる。
「なぜだ、確かに魔法は直撃したはずだ‼ なのに、なんでお前は無傷なんだ⁉」
「この剣と腕で攻撃を受けただけだ」
「あり得ない‼ そんな防御で俺様の魔法を防げるはずがない‼」
涼しげな顔で答える俺に、ノーズは顔を歪めながら再び魔法を至近距離から放つ。
「よっと」
「なっ……⁉」
しかし、その全てがあっさりと防がれる。
「おかしい! おかしいおかしい‼ なぜ、そんな剣と腕で防げるんだ⁉」
「お前も『迷宮』に挑んでいるなら見たことがあるんじゃないか? この鈍色を」
「なにが言いた、い…………ま、まさか⁉」
俺の言葉にノーズは青ざめながら、小刻みに震える。そして愕然としながら、俺の腕を指差す。
「魔法に対する高い耐性を持つ魔物―――メタルナイトで作られているのか⁉」
「大正解~~」
勢いよく踏み込み、ノーズの懐へ潜り込んだ俺はニヤリと笑う。
「魔物って不思議な存在だよな。俺達、人間と違う種の生物なのに魔法を使えるんだぜ?」
「それがどうした‼ そんな常識、お前の剣と腕にどんな関係があるという‼」
「まぁまぁ、落ち着けよ」
流石に慣れてきたのか、防御魔法を展開すると同時に牽制の魔法を放つノーズ。それらを躱し、一度、距離を取った俺は剣で肩をトントンと軽く叩く。
「俺は魔物の素材、ドロップアイテムを集めるのが趣味でな、メタルナイトの物も当然、持っていた。で、魔法を創れなくて悩んでいた時にふと思いついたんだよ」
―――魔物の力を使えるようになれば、自分だけの魔法に近づけるんじゃないか、ってな。
「そこから長い時間をかけて魔物の素材などを解析し、どうすれば使えるようになるか、試行錯誤を続けてきた。中々、上手くはいかなかったがな」
俺が連撃を繰り出すも、順応してきたノーズが易々と躱し、鋭い反撃を放ってくる。
「ぐっ…………‼」
「はっ、所詮は無能の悪あがきだったようだな‼」
少しずつではあるが優勢になっていく状況に、高笑いするノーズ。
「悪あがきをした結果が魔物の力・特性を再現しただけとは、本当に無能だな‼」
「がっ…………‼」
「魔法とはこの世の法則を変える奇跡の総称、神の産物なのだ‼ それをただ解析し、再現した程度で調子に乗るな‼」
そう言うとノーズは一際、大きな炎の槍を上空に生み出し、
「《獄炎槍》‼」
無防備な俺めがけて容赦なく放った。
「あぁ、っ…………⁉」
硬い。熱い。痛い。牽制として放たれていた魔法とは違う、本気の魔法に俺は絶叫しながら、なんとか耐え凌いだ。
「はぁ…………はぁ………………‼」
荒くなった呼吸。激しく高鳴る心臓。それらを強く感じながら、だんだんと不利になっていく状況に、俺は笑みを浮かべた。
「……なぜ、笑っている?」
「いや、悪い悪い。お前の言葉があまりにも『予想通り』でついな」
「予想通り、だと……?」
そう言い、眉をひそめるノーズの前で、俺は静かに剣と腕を掲げる。
「一つ、教えてやろう。お前が魔物の力・特性を再現したと思っている
「なんだと?」
「だって、考えてみろよ。再現ってのは限りなく本物に似た物を生み出すことであって、本物と同等、あるいはそれ以上の力を引き出すことが出来ないんだぞ? なら、お前の攻撃を俺が防げるはずがないだろうが」
確かに魔物の力を再現した事例はある。魔物の素材やドロップアイテムから武具を作成し、それらを使用することで人間でも魔物の力を使えるようになることが確認されている。
だが、その全てが元となった力の半分も出すことが出来なかったのだ。再現しただけでは魔物の力に遠く及ばず、自身が持つ魔法を伸ばした方が効果的である、というのが探索者達の間では常識だった。
「な、ならば、何だと言うのだ⁉ 再現でないのならば、その力は一体……‼」
動揺するノーズに、俺は笑みを浮かべながら告げる。
「決まってるだろ―――偽物で無理なら、本物を使えばいい」
―――――――――
これぞ『異才』、全てにおいて、覚悟が違う。
レオス、かっこいいよー!!!!
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